行政法概説滨滨 行政救済法 [第7版]
行政救済法の体系書としての本書の特色は、第1に、行政救済法の体系を独自の視点も加えて可視化していることにある。行政救済法の体系は、従前は、行政争訟法と国家補償法に大別され、行政争訟は行政上の不服申立てと行政訴訟に、国家補償は国家賠償と損失補償に分類され、「国家補償の谷間」についても論ずるというものであった。著者は、国家補償という体系的思考が、「国家補償の谷間」の存在を認識させ、その谷間を埋める必要がある場合の解釈論?立法論としての努力を促すという長所を有していると考えているが、他方において、行政争訟法制と国家賠償法制は、法治国原理を担保する手段として共通する面を有しており、その点で、損失補償とは基本的な性格を異にすることを認識することも極めて重要であると考えている。このような視点からは、国家賠償の機能を単なる損害の金銭的填補としてとらえるのは、一面的にすぎ、法治国原理を担保するための違法宣言機能、違法状態の (間接的) 排除機能も視野に入れるべきことになる。このことは、国家賠償法1条の違法性の意義の理解にも関連し、民法不法行為法の違法性と単純に同視することは、国家賠償法の法治国原理担保機能を希薄化させるものとして疑問が提起されることになる。これとの関連で、本書では、職務行為基準説の嚆矢とされることが多い芦別事件最高裁判決が、逮捕 → 起訴 → 判決と至る一連の過程における公権力発動要件の差異 (必要とされる心証の差異) に起因する判示であって、職務行為基準説のリーディングケースとして位置づけられるべきでないことを初めて指摘した。また、国家賠償法の立法過程の資料について、米国国立公文書館等も含めて調査を行い、その分析結果も、本書の叙述に反映されている。公務員個人責任については、否定説?制限的肯定説?肯定説が対立している状況にあるが、本書では、制限的肯定説?肯定説からの否定説への批判を詳細に分析し、その妥当性を検証したうえで、いかなる要件の下であれば、公務員個人責任を肯定できるかについても、具体的に提示している。国家賠償法3条1項については、外部への支弁と内部的な費用負担の区別の論点を提示し議論の精緻化を図った。また、国?公共団体も安全配慮義務を負うことから、国家賠償責任と安全配慮義務に基づく責任の関係も示した。損失補償については、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」についても視野に入れて、かなり詳しく説明している点も本書の特色といえる。任意買収とはいえ、背後に収用権を控えた公共用地の買収は、行政法の観点からも看過されるべきではないからである。さらに、国家補償の問題を考える場合、租税優遇措置も念頭に置くべきことも指摘している。
(紹介文執筆者: 法学政治学研究科?法学部 教授 宇賀 克也 / 2016)
本の目次
第1部 行政争讼法
序 章 行政争訟法の基礎
第1章 行政上の不服申立て総説
第2章 不服申立ての类型
第3章 不服申立ての要件
第4章 不服申立ての审理手続
第5章 特殊な不服申立て
第6章 行政诉讼総説
第7章 行政诉讼の类型と実态
第8章 取消诉讼の基本的性格
第9章 取消诉讼の诉讼要件
第10章 取消诉讼の审理
第11章 取消诉讼の终了
第12章 取消訴訟における仮の救済 (執行停止)
第13章 无効等确认诉讼
第14章 不作為の违法确认诉讼
第15章 义务付け诉讼
第16章 差止诉讼
第17章 当事者诉讼
第18章 民众诉讼?机関诉讼
第2部 国家补偿法
第19章 国家补偿法の意义と机能
第20章 国家赔偿総説
第21章 公権力の行使に関する国家赔偿
第22章 公の営造物の设置管理に関する国家赔偿
第23章 国家赔偿法その他の问题
第24章 损失补偿
第25章 国家补偿の谷间
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林浩靖 評 (林浩靖法律事務所ホームページ 所長ブログ 2015年4月13日)