日中関係 2001-2022
『日中関係史 1972-2012』の3巻本の出版作業が佳境に入った2012年9月。尖閣諸島の国有化に端を発する反日デモが中国全土を覆いました。その後、中国公船による日本の領海侵犯が常態化するようになり、日本の対中感情が最悪になったことを記憶されている方も少なくないでしょう。そのため出版プロジェクトも、多くの挑戦を受けることになりました。中でも、尖閣諸島の国有化という日本国内の政治が、日中双方の相手に対する国民感情を刺激し、これが経済活動に影響を及ぼすといった、3巻本で別々に扱っていたテーマを総合的に見る必要が生まれた点は重要です。そもそも日中関係はどのようなメカニズムによって作動しているのか。2012年の出来事は、私たちの作業を根本から考える契機になりました。
それから10年たち、今度は21世紀以降の日中関係に焦点を当てた本を作ることになりました。21世紀になってから日中関係は変質したという認識を編者が持っていたからですが、なにより日中関係の作動メカニズムを明らかにしたいと思っていたからです。実際、3巻本の刊行後、編者の一人である高原教授を中心に科研費プロジェクトが立ち上がり、4つの要因 (政治、経済、感情?認識、国際環境?安全保障) に注目した上で、アジア各国の中国との二国間関係を比較?分析する作業を行ってきました。日本を除く各国 (韓国、ベトナム、シンガポール、インドネシア) の事例研究については、すでに2021年のJournal of Contemporary East Asia Studies, vol.10 no.2に収録されています。
本書『日中関係 2001-2022』は以上のような流れから構想され、笹川平和財団日中友好基金のプロジェクトとして出版企画が立てられました。日中関係を4つの要因の相互作用として捉え、21世紀以降の (2001年から2009年まで、2010年から2019年まで、2020年以降の) 3つの時期を、この4つの要因の大きさと結びつきから読み解く作業を第一部に置き、4要因の分析に還元されない重要なキーワードから日中関係を読み解いた論文を第三部に置き、編者で行った2つの討論を、それぞれ第二部と第四部に置きました。ですので、読者の興味関心によって拾い読みできる構成になっています。
本書を編集してつくづく感じたのは、日本と中国の二国間関係は多面体で、いつ、どこから見るかで評価が変わってくることです。21世紀当初は4要因のうちで経済の占める役割が大きかったのが、特に最近では国際環境?安全保障が大きな影響を持つようになっています。経済、とりわけ移動通信产业では、日中の逆転現象が見られるのに対して、人の移動の領域では中国から日本への移動が圧倒的に多い傾向は、この間一貫しています。ネット上では日中関係をめぐって単純化された議論が支配しやすくなっていますが、実際の関係は複雑であることを多くの読者に感得していただければと思っています。
(紹介文執筆者: 东洋文化研究所 教授 園田 茂人 / 2023)
本の目次
I 时代を読む
第1章 反日ショックと国力逆転――二〇〇一-二〇〇九|园田茂人
第2章 首脳交流から全般的関係改善へ――二〇一〇-二〇一九|丸川知雄
第3章 安全保障の時代へ――二〇二〇|川島 真
II 錯綜する像、複雑な力学 ラウンドテーブル (1)
高原明生、園田茂人、丸川知雄、川島 真
III キーワードで読む
i 政治外交?安全保障
第4章 歴史認識問題|川島 真、小嶋華津子
第5章 翱顿础――援助?被援助関係の终了|北野尚宏、中里太治
第6章 台湾ファクター――悪循环の构造化|
第7章 东シナ海――紧张関係の最前线|益尾知佐子
ii 経済?产业
第8章 自動車产业――日本からの技术移転と中国メーカーの台頭|李 澤建
第9章 コンテンツ产业――統制と競合の諸相|青﨑智行
第10章 移動通信产业――日中逆転の力学|丸川知雄
iii 社会?认识
第11章 相互认识――调査と知见の日中関係史|园田茂人
第12章 国际人流――不均质でトランスナショナルな空间の形成
ファーラー?グラシア、ファーラー?ジェームス
第13章 学术交流――脆弱性と强靭性の共存|杉村美纪
第14章 民間交流――政治による関与と多様化の相剋|川島 真、江藤名保子
IV 日中関係の過去と未来 ラウンドテーブル (2)
高原明生、園田茂人、丸川知雄、川島 真
関连情报
笹川平和财団日中友好基金 2023年5月2日
関连讲座:
GAS Book Talk 1 “Japan-China Relations 2001-2022” (GAS|Global Asian Studies 2023年7月5日)
高原明生「高校生のための東京大学オープンキャンパス:日中関係のとらえ方」 (東大TV 2021年7月)
関连记事:
高原明生「ちぐはぐな日中関係 覇権に反対し続けよう」 (毎日新聞 2023年8月13日)
「中国に「覇権主義的に見える」と指摘を 高原明生?東大教授」 (朝日新聞DISITAL 2023年8月12日)
高原明生「日中国交正常化50年」 (解説委員室|NHK 2022年10月17日)