现代台湾の政治経済と中台関係
台湾にとって死活的な問題である対中国関係のマネジメントは、中国が高度経済成長により台頭したことで、大きな困難に直面している。中国が台湾の経済的な従属をもとに政治的統一を促進する戦略を進め、他方台湾が経済的繁栄を追求するなら、台湾は対中経済関係を深めて政治的な自立を犠牲にせざるをえない。逆に台湾が政治的自立を維持しようとするなら、対中経済関係を抑制して繁栄を犠牲にせざるを得ない。これが台湾の直面する「繁栄と自立のディレンマ」である。民主進歩党 (以下、民進党) の陳水扁政権時期 (2000-2008年) に、台湾は経済的な対中依存の深化を放置しながら、選挙戦略として台湾ナショナリズムを動員した。結果として、このディレンマは深刻化し、台湾内部は中国との関係を巡って両極化し、中台対立は深まり、「繁栄」を重視する有権者の離反を招いた。
政権交代を果たした中国国民党(以下、国民党)の馬英九政権時期 (2008‐2016年) は、対中融和政策を打ち出すことでこのディレンマに対応した。馬政権は、「一つの中国」という概念を一定程度共有する「92年コンセンサス」を中国との間で認め合い、中台関係の安定化を図った。馬政権は「両岸経済協力枠組み協定」(ECFA) を含む23の協定を中国と締結し、中国からの観光客を大量に受け入れ、中台間の交流レベルは格段に向上した。しかし、国共内戦に端を発する「敵対状態」を終結させるには至らず、中台関係はいわば「和解なき安定」という局面に入った。馬政権の2期目 (2012‐2016年) には、中国の最高指導者?習近平との首脳会談の地ならしのため、中国とのサービス貿易協定の同意を強行して住民の反発を引き起こし、2014年春に学生らが立法院を占拠する「ヒマワリ運動」を招いた。これが引き金となって、対中融和政策は「自立」を重視する有権者に否定された。同年11月の統一地方選挙で国民党は惨敗し、2016年1月の総統選挙で、ついに民進党の蔡英文が当選した。
台湾の「繁栄と自立のディレンマ」は、马英九政権の政策転换を経ても、先送りされただけで、解决されない问题として残り続けている。台湾は今后、中国に対する势力均衡政策をさらに强化していくのであろうか。それとも、台湾は経済的な依存にしたがって中国にバンドワゴンし、いずれ中国の影响下に入る日が来るのであろうか。
本书は、马英九政権が「繁栄と自立のディレンマ」にどのように取り组み、どのような结果を得たかについて、政治、経済、社会、文化、国际関係の各専门から検讨した论文集である。中国の台头と中台関係の新しい流动化という局面において、どのような地域秩序が筑かれていき、日本はどのような国际环境に身を置くことになるのか。本书がそれらの答えを出すための一助となることを期待している。
(紹介文執筆者: 东洋文化研究所 教授 松田 康博 / 2020)
本の目次
第1章 馬英九政権8年の位置―中華民国台湾化における国家再編?国民再編の跛行性 若林 正丈
第2章 馬英九政権の8年を回顧する―支持率の推移と中台関係の角度から 小笠原 欣幸
第3章 馬英九政権の「中国活用型発展戦略」とその成果 伊藤 信悟
第4章 馬英九政権の税制改革の明暗と台湾の政治制度 佐藤 幸人
第5章 台湾の馬英九政権における大陸政策決定過程の運営方式 黄 偉修
第6章 中台協定の政策決定分析―海峡両岸経済協力枠組み協定と海峡両岸サービス貿易協定を中心に 松本 充豊
第7章 馬英九政権の文化政策と両岸関係 (2008―16年) 家永 真幸
第8章 馬英九政権下の中台関係―経済的依存から政治的依存へ? 松田 康博
第9章 中台関係安定期における日中関係の展開―中国国内政治と対日政策の連動を焦点として 高原 明生