史上最悪の英语政策 ウソだらけの「4技能」看板
2017年の夏、「大学入试の英语が4技能!」とのニュースがメディアに流れました。多くの人は「え、4技能?」「どこがあたらしいの?」と思ったことでしょう。「4技能」という概念そのものは昔からある区分けにすぎません。それをさも新しい「秘技」のようにしてもちあげたところで、実际の学习効果にはつながりません。いたずらに勉强のプロセスが神秘化されるだけ。ところがこの看板を大义名分にして、大学入试は大きな変更を强いられようとしています。多くの人が确実にその影响を受ける。すでにさまざまなレベルでこの入试政策の弊害は指摘されていますが、本书はそうした知见も踏まえつつ、迷走する日本の教育行政を批判的に検証しこれからの英语教育があるべき姿を考えようとするものです。
今回の政策推進者の理屈は次のようなものです。従来のセンター試験では「読む?聞く」の2技能しか測れない、これからは「スピーキング=話す」の試験が必要で、「読む?聞く?話す?書く」の4技能を測れるのが民間試験だ、と。しかし、残念ながら、これは誇大広告というほかありません。「4技能」などという枠は、仕方なく設けるもの。決してたどりつくべき「理想」ではありません。現実の言语運用ははるかに複雑です。ましてや単に試験を4つに分けただけで英語の運用能力が劇的にあがるわけもありません。むしろ大事なのは、必要な能力を、本人の希望や環境に合わせて無理なく伸ばすことです。政策の推進者はヨーロッパのCEFRという枠をかかげて、「これからはこれに合わせるのだ」と言っていますが、実は世界的には「4技能」などいうキャッチフレーズは時代遅れになりつつあります。ほかならぬCEFRの補足版でも「もう4技能という概念は古い」とある。つまり、この政策にあるのは4技能概念の「誤用」もしくは「悪用」なのです。とくに「4技能」の「均等」にこだわるのは大きな間違い。「業者試験導入」を正当化するための口実にすぎません。
この政策を検讨した有识者会议や协议会には、当の试験业者をはじめ利害関係者が多数入っていました。业者试験を受けることでどのように英语力が向上するのか検讨もされず、强引に政策决定がなされています。これでは格差が助长されるだけでなく、そもそも公正なテストができません。
业者试験で実质的に新しいのは、発声を伴うテストが入るということです。しかし、発声を伴う试験は精神的な要素に左右されやすく、正确な採点が困难ですし、器质的な障害や、さまざまなレベルのメンタルな问题を抱えた受験者も多数いる。ところがそうした问题について検讨した形跡も一切ありません。
「今の英语教育ではだめだ」という声が、今回の政策の背后にあるとされますが、そもそも「今の英语」をダメにしたのは、1980年代末から文科省の进めてきた?コミュニケーション英语」重视の政策でした。その失败を検証しないまま、さらにその方向を推し进めようとするのは大きな问题ではないでしょうか。
本書の最後では本来あるべき英語学習の方法についても再確認しています。語学学習で必要なのは当たり前のことばかりです。とにかくその言语に接する機会を増やすこと。幹となる基礎能力をしっかり身につけること。そのためにも、著者としては何よりリスニングに重点をおいて英語のリズムの習得をめざすところからはじめてほしいと思っています。妙な方法論に飛びつくより、地道に英語の「体幹」を鍛えることを目指してほしいです。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科?文学部 教授 阿部 公彦 / 2018)
本の目次
第1章 検証 大学入試にいったい何が起きようとしているのか?
連呼されるだけの「4」/なんで外部試験?/なんで入試にスピーキング?/「中高六年英語やったのにできない」を検証する/数学と英語とどっちができる?/日本语ならできる?
第2章 英語がしゃべれないのはなぜ?
なぜ日本人だけ英语ができない?/「ある日突然」型の英语学习/「英语がしゃべれない」の里にあるもの/ほんとうの病巣はどこ?/スピーキングこそが英语?/安倍昭恵さんの「英语しゃべれない事件」/私たちはなぜ英语がしゃべれないのか
第3章 誰のための政策なのか?
あまりにも露骨な诱导&丑别濒濒颈辫;&丑别濒濒颈辫;/外部试験で英语力があがるという「ウソ」/「4」にこだわる真の理由/スピーキング入试导入の害悪/採点の困难/そもそも何のための大学入试?
第4章 検証 業者試験の「英語力」とは?
罢翱贰滨颁が前提とする「现実」/教育には「知识?教养」は邪魔?/「実际の英语」という概念は、日本にしかない/「あなたの人生」についてのメッセージ/罢翱贰滨颁は対策をとれば简単に点数が上がるの?/英语を勉强せずにスコアアップ?/问题を见破る「目」
第5章 「実用英語」は実在するのか
オーラル英语に梦を见た数十年/「そのまんま英语」の时代と、背后で动く人/「英语の授业は英语で」の隠れた狙い/私たちの「英语コンプレックス」が利用された/日本人は叱られるのが好き?/なぜ英语ができるとカッコイイのか?
第6章 「4技能」看板で英語力が落ちるわけ
日本版「4技能推进论」の歴史/政策立案者の责任転嫁/スピーキング中心主义で英语力が低下する理由/おいしいものさえ食べていれば、料理は上达する?/汚れ仕事から目をそむけるネオ4技能主义/中身のない巨大なブラックホールとしての「4技能」/カタカナが氾滥する「4技能サイト」/「4」の夸大広告に頼る団体
第7章 安河内哲也さん(ネオ4技能主義の伝道師)と松本茂さん(学習指導要領策定協力者)へのおたずね
安河内さん、なぜ突然「大変身」なのですか?/「楽しさ」を拒絶する権利を忘れないでください/松本さん、どうしてこうなっちゃったんですか?
第8章 これからの英語学習のための提言
習得には順序がある/日本语をあなどるな/英語学習の最終目標とは?/「実用英語」ではなく「現実の英語」を/何から始めるべきか?
参考资料
あとがき — 時代遅れの「英語ぺらぺら幻想」から脱却するために
これからは「リテラシー」の时代/元凶は「コミュニケーション」の滥用
関连情报
沼野充義 (東京大学人文社会系研究科教授) 評
「ペラペラ信仰」そろそろ捨てよう (ALL REVIEWS 2018年7月19日)
水曜闯-颁础厂罢书评 それじゃ、英语はしゃべれません (叠翱翱碍ウォッチ 2018年2月7日)
暴走が加速化する英語教育 (『社会言语学』XVIII 2018年)