戦国の〈大败〉古戦场を歩く なぜ、そこは戦场になったのか
最近、「圣地」という言叶を目にすることが多い。それは宗教的な信仰や伝承によるものだけでなく、アニメや漫画、映画などの舞台になる场所が热心なファンによって特别な意味を与えられていく、そうした现代的な「圣地」が各地に诞生しているのだ。ある空间がストーリーを伴うことで、访れる人の心を揺さぶる「圣地」に成长していく、そうした现象は歴史のなかでもしばしば発生している。
本书で取り上げている古戦场は、歴史的な「圣地」の代表例であろう。日本の戦国时代とは、各地で大小様々な合戦が繰り広げられた时代だった。なかには大きな胜败の差が付いたものもあり、剧的な胜败の差はストーリーを盛り上げるだけでなく、合戦で命を落とした人々に対する哀悼と重なって、多くの伝承を派生させることになる。いま、合戦が起きた现场を歩いてみると、军势の配置や戦闘経过を説明してくれる案内板だけでなく、戦死者を慰霊する石碑や塚、さらには合戦に由来する数々の地名など、合戦に関する伝承が満ち溢れていることを実感できるだろう。それらのなかには、后世に作られた伝承も少なくない。多すぎる分量に比して、同时代にまで遡りうる正确性の高い情报は乏しく、逆に当时の合戦の実态が见えにくいために、古戦场を访れても漠然とした印象に留まることが多いだろう。
けれども、伝承という土地の记忆に対して、少し别の角度から耳を倾けながら现场を歩いてみると、また别の光景が见えてくるようだ。同じ场所を歩くとは言っても、当然ながら现在の地形は戦国时代とは异なっているため、现在の地形を観察しながら古い地図などと対比させ、昔の地形を推测しながら歩く必要があるだろう。地形からは、そこに住む人々がどのように土地を利用していたのかが见えてくるだけでなく、地形が人间の动きを制约する条件にもなるため、军势の动き方にも迫ることが可能になってくる。现地を歩くことで得られた手がかりと、同时代の様子を伝える史料を読み解いて得られた手がかりとを组み合わせていくと、合戦の様子もより详しく见えてくるはずだ。
そこで本书では、桶狭间の戦い (1560年)、人取桥の戦い (1585年)、耳川?高城の戦い (1578年)、叁方ヶ原の戦い (1572年)、长篠の戦い (1575年) という五つの古戦場を訪れ、それぞれの場所が、なぜ戦場になったのかを考えている。後世に作られた伝承が多く漠然とした印象に終わる古戦場ではあるが、一方では、豊富な歴史情報を現在に伝えている貴重な「聖地」でもある。多すぎる情報から正確性の高いものを選び取りながら、歴史的な空間を実際に歩いて考えるという、楽しい作業に興味を持っていただけたら幸いである。
(紹介文執筆者: 史料编纂所 准教授 黒嶋 敏 / 2023)
本の目次
聖地巡礼 / 戦国の現場を歩く / 古戦場という特殊空間 / 記憶の宝庫 / 地図を片手に
第1章 いざ、桶狭间
桶狭间への旅 / 戦いへの経緯 / 限られた史料と「おけはさま山」の謎 / 「おけはさま山」のロケーション / 鳴海のロケーション / 干潟に面した軍事都市鳴海 / 大高城の特性 / 潮の干満という制約 / もう一つの理由 / 今川義元と海の道 / 海から見た桶狭间の戦い / 「おけはさま山」の読み方 / 里山の景観 / 義元の弔い / 今に至る大敗の記憶
第2章 いざ、人取桥
人取桥への旅 / 戦いへの経緯 / 小浜城からの視線 / 戦国奥羽のセーフティーネット / 父の事情?母の事情 / 主戦場と合戦の本質 / 人取桥の向こうがわ / 在家と集落 / 連合軍の目的 / 輝宗の葬儀 / 人取桥の功士壇 / 粟ノ巣での慰霊
第3章 いざ、耳川?高城
耳川?高城への旅 / 高城周辺のロケーション / 川を望む台地の争奪戦 / 台地上のゲリラ戦 / 川原での決戦 / 乱流地帯での溺死 / 増水への疑問 / 耳川での戦闘はあったか / 港町美々津 / 耳川大敗説の肥大化 / 大敗の慰霊
第4章 いざ、叁方ヶ原
叁方ヶ原への旅 / 戦いへの経緯 / わざわざ叁方ヶ原へ / 犀ヶ崖と浜松城 / 郷人と石礫 / 入会地としての叁方ヶ原 / 叁方ヶ原の中世 / 浜松城主の資格 / 南北二つの追分 / 南の追分 / 犀ヶ崖という境界 / 布桥は「野の端」 / 家康による供養 / 「叁方ヶ原」という言説 / 叁方ヶ原のユニークさ
第5章 いざ、长篠
长篠への旅 / 境界の地?长篠 / 戦いの前史 / 长篠城の長所と短所 / 有海原での決戦へ / 有海原のロケーションと柵の意味 / 謎のホボジイ / 進撃した勝頼の本陣 / 境界地帯となる原野 / 境迎 / 信玄塚 / 死してなお / 火おんどり
おわりに
古戦場の歩き方 / 同時代の弔い、後世の弔い / 古戦場の情報量
関连情报
「大敗」の現場で探る、戦国時代の記憶とは。『戦国の〈大败〉古戦场を歩く』執筆の経緯 (PRTIMES STORY 2023年2月27日)
书评:
室井康成 評「敗者に寄り添う矜持 : 黒嶋敏編『戦国合戦〈大敗〉の歴史学』、同著『戦国の〈大败〉古戦场を歩く : なぜ、そこは戦场になったのか』への備忘録」 (『立教大学日本学研究所年報』22 pp. 74-85 2023年9月)
Bookレビュー (『サライ』 2023年3月)