移动者の中世 史料の机能、日本とヨーロッパ
本書は、高橋慎一朗?千葉敏之編『中世の都市―史料の魅力、日本とヨーロッパ―』(东京大学出版会、2009年) を生み出した研究会の、その後の新たな研究活動の成果を世に問うものである。本書は「移動」をテーマとする論文集であり、日本史?西洋史?建築史?美術史の研究者が、他の地域?分野の研究を意識しつつも、それぞれの立場から中世の移動を論じた「移動の比較史」である。
『中世の都市』の「结」で述べたように、比较史研究の最大の効果は、「相互の认识の差异を确认し合う过程で生じる歴史的构想力への刺激にこそある」であり、本书の基本的姿势もこれを受け継いでいる。
本书は、叁つのパートからなるが、それぞれの位置づけと、构成する章の概要を以下に记してみよう。
まず「I 移動する史料、移動者の史料」には、「旅行者と文書―関所と過所をめぐって―」(及川 亘?日本史)、「エドワード一世の大陸巡幸と納戸部会計記録簿」(加藤 玄?西洋史)、「<船の旗> の史料学―戦国日本の海外通交ツール―」(黒嶋 敏?日本史) の三論文を収める。
移动する者たちにとって、安全确保?物资调达などは必要不可欠のものであり、そのためのツールとして通行証や会计记録、旗などの「移动する史料」が生まれた。これらの史料を読み解くことで、中世の移动の実态や、移动のためのテクニカルな要件などが浮かび上がってくる。
続いて、「II 移动の意味」は、移动の意味論 (セマンティーク) に関わるパートであり、「名所のイメージと移動する歌人」(高橋慎一朗?日本史)、「いくつもの巡礼道―西国三十三所の中世―」(岩本 馨?建築史)、「ひとの移動と意味の変容―オトラント大聖堂床モザイクの大樹と裸人」(金沢百枝?美術史) の三論文から成る。
中世の文化?思想?イメージの移动は、さまざまな史料に痕跡を残している。そのいっぽうで、移动そのものが特定の思想を表现し、移动は経済活动のみならず文化活动となる。そうした活动のなかで、移动の际に阻害要因となる地形も、别の意味をもって解釈されるのである。
「III 移动と地形」では、さらに「地形」に視点を近づけて、「水都の輪郭―ラグーナのフロンティア―」(横手義洋?建築史)、「岩窟と大天使―ヨーロッパにおける大天使ミカエル崇敬の展開―」(千葉敏之?西洋史) の二論文を配する。水陸の境界線という地形そのものが移動し、それにしたがって人々の居住区が移動する様や、岩窟という地形が伝承の伝播を媒介する過程を通じて、移动と地形の密接な関係を読み解く。
以上のように、本书は、主として人の移动を中心に、「中世の移动の実态が史料にどのように反映されるか、多様な史料から、いかにして移动の痕跡を読み解くか」に挑んだ多様な成果から构成されている。
(紹介文執筆者: 史料编纂所 教授 高橋 慎一朗 / 2018)
本の目次
I 移动する史料,移动者の史料
1 <船の旗> の威光――戦国日本の海外通交ツール (黒嶋 敏)
2 旅行者と通行証――関所通過のメカニズム (及川 亘)
3 王の移動――エドワード一世の巡幸と納戸部記録 (加藤 玄)
II 移动の意味
4 移動する歌人――宇津の山のイメージの変転 (高橋慎一朗)
5 いくつもの巡礼道――西国三十三所のイデア (岩本 馨)
6 ひとの移動と意味の変容――オトラント大聖堂床モザイクの大樹と裸人 (金沢百枝)
III 移动と地形
7 水都の輪郭――ヴェネツィア?ラグーナのフロンティア (横手義洋)
8 岩窟と大天使――ヨーロッパにおける大天使ミカエル崇敬の展開 (千葉敏之)
結――移動の資料体学へ (千葉敏之)