地図で考える中世 交通と社会
中世の地方社会で人々がどのような生活をしていたかを语る文献史料は少ない。土地の领有関係や徴税制度など、国家や领主の支配とかかわることは、当时の文献史料から具体的に知ることができるが、一般の人々がどこでどのような暮らしをしていたのかは、きわめて断片的にしか知ることができない。
地方都市や交通についてもそうである。どこに、どのくらいの大きさの町があり、どのような交通システムが机能していたのか、文献史料の语るところは少ない。そこで、本书では、中世の文献史料に加え、考古学の研究成果や近世商人に伝えられた秘伝书、江戸时代における史料调査の成果というべき地誌、中世の絵画や物语、さらに现在に残る地名、寺社の立地や创建伝承なども活用して、陆上交通の结节点である宿场のあり方や、交通のシステムを解明することを试みた。
本书で注目したのは、江戸初期の会津地方の行商人の子孙が所持していた「连釈之大事」と呼ばれる秘伝书に描かれた「宿立図」である。これは彼らが考える宿町の理想的な空间构成が示されている。それは町の両端に薬师如来と阿弥陀如来を配し、一定の规模をもつ宗教的な空间として描かれている。実际にこのような姿の町があったのか? 史料の一见したところの荒唐无稽さから、これまでほとんど検讨されてこなかった问题であるが、本书では、古今の地図や江戸时代の地誌を頼りに、この図に适合する町を捜してみた。
そうしたところ、鎌仓と京都を结ぶ中世东海道、鎌仓と北関东を结ぶ街道上の宿に、适合する事例をいくつも见つけることができた。一方で京都以西や、関东でも特定の街道上以外には见つけることができなかった。さらに适合する宿町の歴史を调べていくと、その宗教的な空间构成は、鎌仓时代后期に、熊野修験者や时宗信者ら遍歴の宗教者と鎌仓幕府が结びつく中で形成されていったことが见えてきた。鎌仓を基点とする干线道路を构筑しようという幕府と遍歴の宗教者の协业によって、共通の规格をもつ宿场が作られていったものと考えられる。さらに遍歴の宗教者とは行商人としての颜ももっていた。政治と修行?布教の道は通商の道でもあった。
以上は本书の第一部と第二部で述べたことである。第叁部では、宗教的な空间として性格付けられた中世の地方都市は、「宿立図」とは异なる形态でも各地に広がっていたことを、地名を手掛かりにして明らかにした。そして、なぜ中世都市が宗教的な空间として性格づけられていたのか、その理由を探った。第四部では、交通を考えるうえでの前提となる地形は、灾害や开発によって変容してきた歴史的な存在であることを、文献史料と标高データや过去の絵画を対照させることによって明らかにした。
以上のように、本书では文献史料からだけでは知ることのできない中世の地方社会の具体的な姿を、多様な方法によって浮かび上がらせたものである。着者にとっては専门外の论文や史料にも挑戦した。歴史を解明するため方法は多様であり、方法は自ら考える必要があることを提起したつもりである。
(紹介文執筆者: 史料编纂所 教授 榎原 雅治 / 2021)
本の目次
第一部 宿と交通路
第一章 東海道の宿の空間構成〈はじめに / 宿の空間構成 / 渡の空間構成 / おわりに〉
第二章 鎌倉街道上道の宿の空間構成〈はじめに / 基本的な史料 / 鎌倉街道上道の宿の阿弥陀と薬師 / おわりに―いつ、誰がつくったか?―〉
第三章 中世の宿の大きさ〈はじめに / 三河国山中宿 / 中世地方都市の標準的な地子額の検討 / 宿における在家の基本的な規模 / 現存する宿の地割の検討 / おわりに〉
第二部 宿と中世社会
第一章 時衆の交通路構築〈はじめに / 『遊行上人絵巻』に見る交通路の構築 / 説経『小栗判官』と時衆 / 時衆による旅館の経営 / 時衆と地域の武士 / おわりに―再度、いつ、誰がつくったか?―〉
第二章 宿と地域社会―東海道矢作宿と矢作川水系―〈はじめに / 三河念仏の始まりと矢作宿 / 上宮寺末寺と本證寺門徒の地域的分布 / 中世後期の矢作川下流の流路と真宗信徒の分布 / 矢作川水系と和田氏 / おわりに〉
第三章 中世の旅館と伝馬?宿送〈はじめに / 宿泊施設 / 旅館主たちのネットワーク / 馬の配備と伝馬営業 / 宿送 / 領主支配の拠点としての旅館 /おわりに〉
补论一 室町殿の旅―足利义教の播磨?骏河纪行―
补论二 山阳道の宿
第叁部 旦过のある町
第一章 地方都市の空間構成〈はじめに / 文献史料に現れた中世地方都市の空間構成-瑞渓周鳳の記した有馬温泉― / 地名に生きる中世地方都市 / おわりに〉
第二章 都市空間の宗教性〈はじめに /香具師の自己認識 / 売薬商人と修験 / 都市空間の結界の表象 / おわりに―「修験は親、連釈は子、眷属は兄弟、そして「啖呵を切る」―
第四部 灾害?开発と地形の変容
第一章 中遠の海岸平野の形成と生業〈はじめに / 中世の中遠平野の景観と開発 / ラグーンでのなりわい / ラグーンの縮小と延宝水害 / その後の中遠平野 / おわりに〉
第二章 連鎖する開発と災害〈はじめに / 浮島ヶ原の開発と沼の消滅 / 浅羽低地で続く水問題 / おわりに〉
関连情报
2021年度 (令和3年度) 第47回「交通図書賞」第3部:歴史 (公益財団法人交通協力会 2021年)
书评:
吉永隆記 評 (『民衆史研究』第103号 2022年6月10日)
2021年度 (令和3年度) 第47回「交通図書賞」第3部:歴史 (『JRガゼット』 2022年4月号)
湯浅治久 (専修大学文学部教授) (『日本歴史』885号p.93-95 2022年2月号)
(『测量』 2021年9月号)