Replacement of Neanderthals by Modern Humans Series (ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相) The Middle and Upper Paleolithic Archeology of the Levant and Beyond (レヴァント地方および周辺地域の中后期旧石器考古学)
今日、地球上に生きているヒトは私たちホモ?サピエンス (新人) 一種しかいませんが、かつては生物学的に異なる複数のヒトがいるのがふつうでした。彼らのルーツをたどると今から600万年ほども前のアフリカにいきつきます。誕生以降、さまざまなヒトは幾度もアフリカを出てユーラシア各地に進出し、先輩格のヒトたちとの交替、交流を繰りひろげてきました。
私たちホモ?サピエンスは、最後にアフリカを出た集団です。20数万年前から何度かユーラシアに展開しましたが、最終的には5万年前頃、一気に拡がり、それまで各地にいた先住集団 (旧人) にとって代わりました。私たち以外のヒトは全て絶滅して現在にいたっているのです。このプロセスを旧人新人交替劇と呼んでいます。
なぜ、私たちだけが生き残ったのでしょうか。旧人たちよりも優秀だった? そもそもホモ?サピエンスという学名は知恵のあるヒトという意味です。私たちはそれ以前のヒトよりも認知能力が優れていたのだという見方は、実際、支持者の多い学説です。しかし、一方で、生活様式や技术が先住集団と違っていたのだという研究者もいます。ここ数百年の歴史をながめてみても、同じホモ?サピエンス同士であるにもかかわらず、自然環境や歴史的経緯のため人口が増えず、他の民族、集団にとって代わられた集団の例はいくつもあることに気付くでしょう。交替劇は一筋縄でいかない要因によっているのです。
その理解とは、私たちヒトがどういう存在なのかを知ることに他なりません。チンパンジーやゴリラなど類人猿の行動を調べることで、私たち自身の特徴に気付くことは多々あります。類人猿よりもはるかに私たちに近い旧人たち (たとえばネアンデルタール人) の行動や文化を調べることで、私たち自身について学べることもたくさんあるのです。
この研究は、生物学の分野でもありますし、同时に文化や歴史にもかかわる分野です。ここで绍介する本は、考古学的なアプローチを绍介するものです。舞台は、西アジア。西アジアというのは、アフリカからでたホモ?サピエンスが最初にとおる土地です。そこで初めて自分たちと违う旧人と出会った私たちの祖先は、どのように対峙し、交流、交替をすすめていったのでしょうか。この问题を各地で発掘调査をおこない証拠を集めている世界の考古学者が集い、议论しているのが本书です。全部で13章からなっていて、全体としては、西アジアの中でもレヴァント地方、つまり地中海沿岸地帯がその理解のカギであったことを论じています。つまり、新人と旧人が长く共存し、交流した可能性がある地域らしいのです。
専门的な论文集ですから前期课程の诸君には読解が难しいかも知れません。第一章の総论だけでも目を通してもらえれば、さらに调べて见ようとの言う意欲がわくかも知れません。世界の考古学者、人类学者が集って论议している交替剧研究の最前线を感じてもらえたらと愿っています。
(紹介文執筆者: 総合研究博物馆 教授 西秋 良宏 / 2019)
本の目次
Archeological Issues in the Middle and Upper Paleolithic of the Levant and Its Neighboring Regions (レヴァント地方とその周辺地域における中後期旧石器時代考古学の諸問題)
Yoshihiro Nishiaki and Takeru Akazawa (西秋良宏、赤澤 威)
Part I: The Levant (レヴァント地方)
Chapter 2
An Open-Air Site at Nesher Ramla, Israel, and New Insights into Levantine Middle Paleolithic Technology and Site Use (ネシェール?ラムラ開地遺跡 (イスラエル)、レヴァント地方中期旧石器時代の技术と遺跡利用における新視点)
Yossi Zaidner, Laura Centi, Marion Prevost, Maayan Shemer and Oz Varoner (ヨッシ?ザイドナー、ラウラ?センティ、マリオン?プレヴォス、マアヤン?シェメル、オズ?ヴァロナー)
Chapter 3
A Week in the Life of the Mousterian Hunter (ムステリアン狩猟民の1週間の生活)
Gonen Sharon (ゴーネン?シャロン)
Chapter 4
Chrono-cultural Considerations of Middle Paleolithic Occurrences at Manot Cave (Western Galilee), Israel (イスラエル、マノット洞窟遺跡 (西ガリラヤ湖) における中期旧石器時代の文化変遷についての考察)
Ofer Marder, Omry Barzilai, Talia Abulafia, Israel Hershkovitz, and Mae Goder-Goldberger (オファー?マーダー、オムリー?バルジレイ、タリア?アブラフィア、イスラエル?ヘルシュコヴィッツ、マエ?ゴダー-ゴールドバーガー)
Chapter 5
Middle Palaeolithic Flint Mines in Mount Carmel: An Alternative Interpretation (カルメル山における中期旧石器時代のフリント採掘: もうひとつの解釈)
Avraham Ronen (エイブラハム?ロネン)
Chapter 6
Initial Upper Paleolithic Elements of the Keoue Cave, Lebanon (レバノン、ケウエ洞窟遺跡にみられる後期旧石器時代初頭の要素)
Yoshihiro Nishiaki (西秋良宏)
Chapter 7
The Ahmarian in the Context of the Earlier Upper Palaeolithic in the Near East (アハマリアン石器群ー中東地域の後期旧石器時代前半期の脈絡での位置づけ)
Nigel Goring-Morris and Anna Belfer-Cohen (ナイジェル?ゴーリング‐モリス、アンナ?ベルファー‐コーヘン)
Chapter 8
Ahmarian or Levantine Aurignacian? Wadi Kharar 16R and New Insights into the Upper Palaeolithic Lithic Technology in the northeastern Levant (ハマリアン石器群か、レヴァント地方オーリナシアン石器群か? ワディ?カラル16R遺跡の石器群、レヴァント地方北東部の後期旧石器時代石器技术についての新視点)
Seiji Kadowaki (門脇誠二)
Part II: The Neighboring Regions of the Levant (レヴァント周辺地域)
Chapter 9
Living on the Edge: The Earliest Modern Human Settlement of the Armenian Highlands in Aghitu-3 Cave (辺境地での生活: アギト3洞窟遺跡、アルメニア高原最古の新人の居住遺跡)
Andreas Taller, Boris Gasparyan and Andrew W. Kandel (アンドレアス?トーラー、ボリス?ガスパリアン、アンドリュー?W. カンデル)
Chapter 10
The Middle to Upper Paleolithic Transition in Zagros: The Appearance and Evolution of Baradostian (ザグロス地方の中期から後期旧石器時代への変遷: バラドスティアン石器群の出現と進化)
Sonia Shidrang (ソニア?シドラング)
Chapter 11
Upper Palaeolithic Raw Material Economy in the Southern Zagros Mountains of Iran (イラン、南ザグロス山地における後期旧石器時代の石器石材利用)
Elham Ghasidian and Saman Heydari-Guran (エルハム?ガシーディアン、サマン?ハイダリ‐グラン)
Chapter 12
Neanderthals and Modern Humans in the Indus Valley? The Middle and Late (Upper) Palaeolithic settlement of Sindh, a Forgotten Region of the Indian Subcontinent (インダス渓谷にネアンデルタールはいたか、あるいは新人か? インド亜大陸の忘れられたシンド地域の中後期旧石器時代の居住遺跡)
Paolo Biagi and Elisabetta Starnini (パオロ?バイアジ、エリザベッタ?スタルニーニ)
Chapter 13
Ecological Niche and Least-cost Path Analyses to Estimate Optimal Migration Routes of Initial Upper Palaeolithic Populations to Eurasia (生態学的ニッチと最小コスト経路分析から後期旧石器時代初頭の人類集団のユーラシアへの最適移住ルートを予測する)
Yasuhisa Kondo, Katsuhiro Sano, Takayuki Omori, Ayako Abe-Ouchi, Wing-Le Chan, Seiji Kadowaki, Masaki Naganuma, Ryouta O’ishi, Takashi Oguchi, Yoshihiro Nishiaki, and Minoru Yoneda (近藤康久、佐野勝宏、大森貴之、阿部彩子、ウィン‐ル?チャン、門脇誠二、長沼正樹、大石龍太、小口 高、西秋良宏、米田 穣)