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食料生产、すなわち农耕牧畜の出现は、先史时代の集団がなしとげた最大の発明の一つと言われる。その后の人类社会の仕组みや生き方を定める契机となったからである。ふだん食べているものを列挙してみたらよい。野生の食品はジビエとして珍しがられるくらいであって、ほとんどは人工的に生产されていることに気付くだろう。当初は自给自足だったと思われるが、现代における食料生产は社会経済のみならず国际関係、环境保全等々、様々な要素を巻き込んだ巨大インダストリーであることがすぐわかる。
 
西アジアとその周辺地域では今から1万年ほど前、更新世から完新世に移り変わる頃に、この発明が世界で最初になされた。なぜ、その時期、西アジアでそうした経済変革が起こったのかは国際的な関心を集めており、日本の考古学研究者もたいへん重要な貢献をなしてきている。この本は、西アジアにおける農耕牧畜文化の出現と発展に関する最新の研究を議論するため、2019年に東京大学総合研究博物馆で開催された国際会議の成果を編集したものである。
 
農耕牧畜の出現や発展は専門的には新石器化と呼ばれている。その研究には、古環境データや出土動植物など幅広い考古学的記録を最先端の技术で分析することも含まれるが、今回の会議は遺跡から見つかる石器の研究の役割に焦点をあてたものであった。石器とは石で作った道具のことであるが、それらは土器や骨器など他の道具にはない特徴を備えている。例えば、石はめったに腐食しないため、ほぼすべての遺跡に遺っている。有機質の遺物ではそうはいかない。また、石器は、200万年以上前の旧石器時代に作られ始め、新石器時代さらには現代においても作られ続けている。つまり、人類の歴史を一種類の道具から一貫した観点をもってながめることができる希有な人工物なのである。さらに言えば、石器製作は、時々の社会の構造や伝統を反映する複雑な技术であった。石器がもつこれらの際立った特徴は、西アジア新石器時代の文化発展を追跡するためのユニークな視点を提供するに違いない。
 
さて、今回の国际会议は、こうした视点を追求する一连の専门家会议の9回目であった。1993年にベルリンで発足して以来、この会议は西アジア新石器时代研究に重要な贡献をなしてきた。东京会议の特徴は、会场の立地もふまえ、西アジア以东の调査成果の検讨に多くの时间をさいた点にある。周辺地域における新石器化は、単に西アジアからの移住や文化拡散の结果として见られるべきではない。地元の先住集団と移住してきた新石器民との社会経済的相互作用の理解もが重要である。その理解は、起源地たる西アジア新石器文化の特质を理解する上で新たな光を当てることにもなるだろう。
 
そんな思いをふまえ、本书は17か国、100人以上の参加者によって発表された成果の中から选别した39の论文を収録した。时代的には后期旧石器时代から新石器时代、地理的にはエジプトからアラビア半岛、さらにはコーカサスや中央アジアを扱っている。石器、そうした一つの道具の研究が、先史时代农耕牧畜社会の构造や経済の変化をどのように反映しているのか、また、それをどんな方法でどう読み取っていくのか。さらには、日本の研究者もこの国际的课题にアクティヴに関わっていることを読者に理解いただければ幸いである。
 

(紹介文執筆者: 総合研究博物馆 教授 西秋 良宏 / 2024)