中央アジアのネアンデルタール人 テシク?タシュ洞窟発掘をめぐって
ネアンデルタール人は、30~20万年前ごろのヨーロッパで生まれ、5~4万年前顷に絶灭した人类です。700万年前にもさかのぼる人类史からすれば最近の集団で、私たちホモ?サピエンスと最も近縁な种の一つとされています。1858年にドイツのネアンデルタール谷で最初の化石が见つかって以来、彼らは数々の谜を提起してきました。どんな颜つきをしていてどんな暮らしをしていたのか、そして、なぜ絶灭したのか。そもそも、私たちとどう违っていたのか。
研究史が长い割には谜だらけなのですが、考古学者にとっては、彼らがいつ、どこに住んでいたのかが気になります。それを最も确実に语るのは化石人骨です。ヨーロッパで多々见つかることは周知でしたが、1932年にイスラエルでも化石が见つかり、局面が変わりました。
そして、その分布が中央アジアにまで拡がっていたことを明らかにしたのが、本書で扱うテシク?タシュ洞窟、1938年に今のウズベキスタンで発掘された化石人骨なのです。しかも、埋葬された全身骨格であったことからセンセーショナルな発見となりました。長らく、この遺跡がネアンデルタール人分布の最東端でしたが、2007年になってさらに局面が変わります。遺伝研究によって、彼らがアルタイ山脈にもいたことが明らかになりました。加えて、彼らがホモ?サピエンスと混血 (交雑) していたこと、私たち日本人もネアンデルタール人の遺伝子を受け継いでいることなどもが判明し、アジアの研究動向が一気に関心を集めるにいたりました。
この状况をふまえて编んだのが本书で、アジア?ネアンデルタール研究の定点となったテシク?タシュ洞窟の过去と现在について整理しました。実のところ、中央アジア以东のネアンデルタール人情报原は化石の断片であったり遗伝データであったりでしかなく、彼らの姿形や生活の実相を直接语るものではありません。ほぼ完全な人骨化石、埋葬痕跡、石器、动物骨等々、古人类遗跡の研究に必要な証拠が全て出そろった遗跡は、今なお、テシク?タシュ洞窟以外にはないのです。
二部构成となっています。第一部では、旧ソビエト时代に刊行された古典的発掘报告の初めての邦訳を提示し、第二部には笔者による解釈、最新の研究动向の解説等を掲载しました。私自身、ここ10年ほどウズベキスタンでネアンデルタール人遗跡の调査を続けていますので、その成果についても述べています。
ホモ?サピエンスとネアンデルタール人の関係と言えば、长くヨーロッパや西アジアが研究の中心でした。中央アジア以东についての本格的な研究が始まったのは旧ソビエト崩壊后、ここ20数年间のことです。考古学的に研究が进んでいなかった地域が相手なのですから、今后も斩新な発见が続くに违いありません。その中には、私たち日本人のルーツにかかわる新知见もあるでしょう。それらを読み解く际に、研究の出発点、テシク?タシュ洞窟について知っておくことは有効に违いありません。
(紹介文執筆者: 総合研究博物馆 教授 西秋 良宏 / 2022)
本の目次
序 章 テシク?タシュ洞窟の调査
第1章 1938~1939年调査の背景
第2章 立地と地域环境
第3章 层序と出土遗物の分布
第4章 ネアンデルタール人埋葬
第5章 出土遗物
第6章 旧石器时代の文化と生活
附 章 オクラドニコフ博士の功绩
第2部: テシク?タシュ洞窟とその周辺 (西秋良宏)
第1章 アジアのネアンデルタール人
第2章 テシク?タシュ洞窟ネアンデルタール人の文化伝统
第3章 テシク?タシュ洞窟ネアンデルタール人の居住空间と墓
第4章 テシク?タシュ洞窟の现在
あとがき
関连情报
Yoshihiro Nishiaki, Otabek Aripdjanov “A new look at the Middle Paleolithic lithic industry of the Teshik-Tash Cave, Uzbekistan, West Central Asia” (『Quaternary International』Volume 596, p.22-37 2021年9月20日)
[サイエンス Report] ネアンデルタール人 滅びた謎 (読売新聞オンライン 2021年7月18日)
北ユーラシアの旧人?新人交替劇 ─ウズベキスタン旧石器遺跡調査 (2012~2019年)─
西秋良宏 (東京大学総合研究博物馆教授?館長)、オタベク?アリプジャノフ (ウズベキスタン国立歴史博物館副館長) (『第28回西アジア発掘調査報告会』 2020年)
北ユーラシアの旧人?新人交替劇 ─第6次ウズベキスタン旧石器遺跡調査 (2018年)─
西秋良宏 (東京大学教授)、オタベク?アリプジャノフ (ウズベキスタン国立歴史博物館副館長) ほか (『第26回西アジア発掘調査報告会』 2018年)
A01班 | 2010年度 | 研究報告: 交代劇 | 考古資料に基づく旧人?新人の学習行動の実証的研究 1 (『文部科学省科学研究費補助金 (新学術領域研究) 2010-2014』 2010年)
A01班 | 2011年度 | 研究報告: 交代劇 | 考古資料に基づく旧人?新人の学習行動の実証的研究 1 (『文部科学省科学研究費補助金 (新学術領域研究) 2010-2014』 2011年)
A01班 | 2012年度 | 研究報告: 交代劇 | 考古資料に基づく旧人?新人の学習行動の実証的研究 3 (『文部科学省科学研究費補助金 (新学術領域研究) 2010-2014』 2012年)
A01班 | 2013年度 | 研究報告: 交代劇 | 考古資料に基づく旧人?新人の学習行動の実証的研究 4 (『文部科学省科学研究費補助金 (新学術領域研究) 2010-2014』 2013年)
A01班 | 2014年度 | 研究報告: 交代劇 | 考古資料に基づく旧人?新人の学習行動の実証的研究 4 (『文部科学省科学研究費補助金 (新学術領域研究) 2010-2014』 2014年)
国际シンポジウム:
International Symposium: Insights Into Human History in the Eurasian Stone Age: Recent Developments in Archaeology, Palaeoanthropology, and Genetics (東北大学 知のフォーラム 2022年9月27日)