世俗の彼方のスピリチュアリティ フランスのムスリム哲学者との対话
本书は、2019年にフランスのムスリム哲学者アブデヌール?ビダール氏を日本に招いて开催した3つのシンポジウムや対谈に基づくものである。彼と出会い、招聘に至るまでの経纬の里话を绍介しておこう。2018年に出版された拙着『ライシテから読む现代フランス』にはビダール氏について論じたくだりがあるのだが、その箇所に彼の写真が掲載されている。2015年1月にパリでシャルリ?エブド事件が起きたとき、彼のテクスト「イスラーム世界への公開書簡」はフランス語圏ではよく読まれたが、日本ではほとんど知られていない人物と思われたので、写真を入れておくほうがよいと判断したのである。この本を日本语が読めないフランスの友人に献本したところ、写真からビダール氏と分かり、彼なら紹介できると言われて知り合うことができた。
フランスではライシテという厳格な政教分离体制が敷かれ、政治と宗教を分けないイスラームとは相性が悪いと思っている日本人は多い。ビダール氏は、リベラルなムスリムとしてフランスで信仰実践しながら、ライシテの理念を支持する立场の哲学者である。彼を日本に呼んで话をしてもらえば、ライシテとイスラームをともに生きることは可能であるばかりか、现状の问题点を突破し希望を语ることもできることを日本の聴众にわかってもらえるのではないか。その际、彼の论点を広げたり、彼の议论に异论を投げかけたりできる讨论相手を揃えることができるとよい。シンポジウムや対谈はこのようにして企画された。
本书は最初に「イスラーム世界への公开书简」の翻訳を配し、第滨部ではビダール氏の主张に耳を倾けたうえで、中田考氏が日本のムスリムの视点から発言し、私が日仏の宗教と世俗を比较する観点からビダール氏と対谈している。第滨滨部では、おもに20世纪という危机の时代を、スピリチュアリティを手がかりにして生き抜こうとしたムハンマド?イクバール、铃木大拙、ミシェル?ド?セルトーという、一见まとまりのない3人の生き方の共通点を探っている。
大局的な観点に立つならば、近代は宗教の时代から世俗の时代へと特徴づけることができ、现代はその世俗のあり方が揺らいでいる时代と言うことができる。「ポストセキュラー」という言叶は、「世俗のあとの时代」という意味では使いにくいが、世俗の时代の趋势とその危机的侧面に批判的态度を取る议论と生き方という意味で使うならば、世俗の时代と同时的に生まれた批判精神と言うこともできる。それは现代においていっそう意义を有する批判精神であり、过去の思想家たちとの実りある対话も可能にしてくれる。読者にはそのようなメッセージを受け取ってもらえたらありがたい。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 教授 伊達 聖伸 / 2022)
本の目次
イスラーム世界への公開書簡 (アブデヌール?ビダール/翻訳: 伊達聖伸)
第滨部 他者をつなぐ开かれた想像力
序 対話の扉を開く――イスラーム、フランス、日本 (鵜飼 哲)
第1章 「イスラーム世界への公开书简」をめぐって
――イスラームを蚀む悪の根を突き止めるための呼びかけ
(アブデヌール?ビダール/翻訳:中村拓人)
第2章 イスラームの世俗化の起源と现代の时代相
――日本の視点から (中田 考)
第3章 宗教からの脱出、世俗からの脱出 (アブデヌール?ビダール&伊達聖伸)
第滨滨部 危机の时代のスピリチュアリティ
序 スピリチュアリティを新たに活かす (鶴岡賀雄)
第1章 神の死后のスピリチュアリティの行方
――ムハンマド?イクバールから见たイスラームと西洋の危机
(アブデヌール?ビダール/翻訳: 白尾安紗美)
第2章 鈴木大拙の「霊性」――2つの危機の時代を通して (安藤礼二)
第3章 キリスト教の破砕/灿めき
? ――現代カトリックの危機とミシェル?ド?セルトー (渡辺 優)
終 章 現在進行形の危機と向き合う (伊達聖伸)
あとがき (伊達聖伸)
関连情报
石井剛 評 (『教養学部報』637号[東京大学教養学部発行] 2022年6月1日)
(キリスト新闻)
関连企画:
「Sortir de la religion, sortir du sécularisme (宗教からの脱却、世俗主義からの脱却)」[発表者: アブデヌール?ビダール/討議?司会者: 伊達聖伸] (日仏会館 2019年10月21日)
国際シンポジウム「イスラーム世界を見る視線の交錯――日本とフランスの対話」[登壇者: 伊達聖伸、鵜飼哲、アブデヌール?ビダール、中田考、池内恵] (東京大学駒場キャンパス[主催: 東京大学東アジア藝文書院 (EAA)] 2019年10月16日)
EAAセミナー「『イスラーム世界への公開書簡』を読む」[講師: アブデヌール?ビダール/司会?通訳: 伊達聖伸] (主催: 東京大学東アジア藝文書院 (EAA) 2019年10月15日)
関连论文:
「アブデヌール?ビダールにおけるライシテとイスラーム」 (『フランス哲学?思想研究』22巻 pp. 42-53 2017年)
シンポジウム:
「日仏におけるイスラームと政治的?社会的価値観」 (オンライン[主催: 日仏会館?フランス国立日本研究所、科研費補助金基盤(A)20H00003] 2022年7月8~9日)