[New Enlarged Version] Freedom to the Other: Liberalism as a Philosophy of Public World 増补新装版 他者への自由 公共性の哲学としてのリベラリズム
本書は、1999年に刊行した『他者への自由――公共性の哲学としてのリベラリズム』の増補新装版である。旧版の版元、創文社の廃業を機に、劲草书房より増補新装版として改めて世に送ることになった。私は正義理念を基底にしてリベラリズムを哲学的に再編し、その法的?政治的含意を解明する研究に長く従事してきたが、本書は私のリベラリズム論の哲学的原理篇で、以下のテーゼを展開している。
第一に、リベラリズムは「権力批判 (the critique of power)」の哲学だが、その批判は、理性の可能性の領域確定を試みたカントの理性批判 (the critique of reason) とパラレルな意味をもつ。すなわち、権力の全否定ではなく正統な権力行使の根拠の同定により、その限界を確定する狙いをもつ。この視点から、独断的理性の命法に従い反対者を殲滅する恐怖政治や全体主義 (ジャコバン主義やマルクス主義) を批判すると同時に、国家権力を全否定するアナキズムの代替的秩序構想 (市場アナキズムと共同体アナキズム) の限界も解明している。
第二に、リベラリズムの権力批判の根本原理は正義理念である。これは具体的な正義の判定基準をめぐって対立競合する「正義の諸構想 (conceptions of justice)」の一つではなく、それらに貫通する共通制約原理たる「正義概念 (the concept of justice)」を意味する。その規範的核心は自己と他者の普遍化不可能な差別 (non-universalizable discrimination) の禁止であり、これは「自己の他者に対する要求?行動が自他の立場と視点を反転させてもなお拒否できない理由により正当化可能か否かを批判的に吟味せよ」という反転可能性要請を含意する。
第三に、正義の反転可能性要請は、反卓越主義 (anti-perfectionism) を含意する。これは、自己と他者の間で対立する善き生の特殊構想から独立した理由による正義構想の正当化を要請し、そのように正当化された正義構想の善き生の構想に対する制約性を承認する。この点をめぐる共同体論 (communitarianism) や公民的共和主義 (civic republicanism) など現代の卓越主義 (perfectionism) のリベラリズム批判の欠陥を指摘し、自己と視点を異にする他者を受容するリベラリズムの公共性観念 (the idea of public world) を擁護している。
第四に、自由がリベラリズムの根本原理だとする伝統的な理解の欠陥を、自由概念の批判的再検討により解明している。いまや自由論の支配的図式となったアイザイア?バーリン (Isaiah Berlin) による「消極的自由 (the negative freedom)」と「積極的自由 (the positive freedom)」の区別の混乱と欠陥を指摘した上で、自由の核心は「自己力能化 (self-empowerment)」にあるがゆえに、自己の意志の貫徹を邪魔する他者を支配?同化吸収しようとする「権力への意志」を自由が内包していること、リベラリズムは正義理念を基底に据えて、その制約に自由を服せしめることにより、他者受容を通じた自己変容に開かれた「他者への自由 (freedom to the other)」を育むことを論じている。
増補では、ポスト冷戦期の夢の破綻をリベラリズムに帰責する傾向の誤謬を指摘し、本書で提示したような正義基底的リベラリズムの発展こそが、この破綻を克服する道を開くことを論じている。さらに、同じく正義基底的リベラリズムを提唱したとみなされているジョン?ロールズ (John Rawls) と私見との相違を明らかにし、ロールズが普遍主義的正義概念を無視?軽視した結果陥った思想的退廃を指摘している。
(紹介文執筆者: 法学政治学研究科?法学部 名誉教授 井上 達夫 / 2022)
本の目次
第一章 序説──なぜリベラリズムが问题なのか
一 「リベラル?ブーム」を超えて
二 正统性危机の位相転换
叁 共同体论の批判
四 ポスト共同体论的リベラリズムの问题状况
第一部 リベラリズムの秩序构想
第二章 自由への戦略──アナキーと国家
一 ハヴェルの懐疑
二 リベラリズム
叁 阶级的国家论
四 アナキズム
五 国家の内在的超越
第叁章 公共性の哲学としてのリベラリズム
一 価値対立と公共性
二 公共的価値としての正义
第二部 共同体论との対话
第四章 共同体论の诸相と射程
一 社会的背景
二 多面性と统一性
叁 意义と限界
第五章 共同体と自己解釈的存在
一 法の限界问题とリベラリズム
二 共同体论のリベラリズム批判
叁 解釈的自律性
四 自己解釈的存在と共同性
第叁部 自由の试练
第六章 「自由世界」のディレンマ
一 「自由世界」は胜ったのか?
二 ディレンマ
叁 二つの道
第七章 自由の逆説──リベラリズムの再定位
一 二重の逆説
二 自由の権力性
叁 他者性の政治──闘争的敬意から正义へ
四 自由の试练
[増补]浮かれし世界が梦の跡──リベラリズムの哲学的再构筑
一 「折り返し点」の総括
二 时代背景──ポスト冷戦时代の梦の崩壊
叁 幻灭のあとに──リベラリズムへの帰责
四 リベラリズムの再定义──自由に対する正义の优位
五 ロールズとの対峙──黙杀された普遍主义的正义理念の復権
六 サンデルとの対峙──リベラリズムにおける公共性志向の根源性
七 「一阶の公共性」から「二阶の公共性」へ
八 「他者からの自由」から「他者への自由」へ
〈追记〉 「井上戯画」の歪みを正す
関连情报
けいそうビブリオフィル: [増補] 浮かれし世界が夢の跡──リベラリズムの哲学的再構築 (劲草书房編集部ウェブサイト 2021年7月21日)
イベント:
『増補新装版 共生の作法』&『増補新装版 他者への自由』刊行記念 (下北沢 本屋B&B 2021年6月16日)