别-水产学シリーズ 東日本大震災から10年 海洋生態系?漁業?漁村
東日本大震災 (東北地方太平洋沖地震) の発生から12年の歳月が流れた。千年に一度と言われる大地震とそれに伴う大津波は、三陸?常磐沿岸の地域社会に甚大な被害を生んだが、同時に沿岸の海洋生態系にも直接的、間接的に様々な変化をもたらし、被災地域の主要产业である水产业にも大きな影響を及ぼした。
日本の水産に係わる様々な分野にまたがる研究者で構成される日本水産学会では、震災の直後から被災地の水产业や沿岸地域社会への支援につながる各種の活動を開始し、2012年6月に設置した「東日本大震災災害復興支援検討特別委員会」を軸に、学会として組織的、計画的に取り組みを進めてきた。被災地の水产业を取り巻く状況にはまだまだ多くの困難や課題が残されており、学会として取り組むべきことも少なくないが、発災から10年となる2021年3月末に委員会としては解散し、以降は各学会員がそれぞれ活動を継続していくこととなった。2021年3月には、委員会活動の取りまとめの一環として、「東日本大震災の教訓:10年後の現状と地域社会の将来」と題するシンポジウムを開催し、東日本大震災による被災地の海洋生態系への影響とその後の変化、および地域の水产业や社会全体への影響について、特に、残された課題を中心に議論を行った。
本書では、このシンポジウムにおける議論の内容のうち、特に、東日本大震災による海洋生態系の変化とそれに伴う漁業への影響、発災から10 年を経過した被災地の地域社会への影響と残された課題について改めて俯瞰的に整理を行った。それらの情報を、水産科学分野の研究者だけではなく、国や地方自治体の関係者、さらには広く一般の人たちも利用可能な形で残すことにより、残された課題の認識と解決に資するとともに、今後再び発生する可能性がある大地震や大津波に備え、市町村や地域社会における防災や被災後の復興計画の策定にも貢献できると考える。
今回の大地震と大津波が三陸?常磐沿岸域に及ぼした直接的、間接的影響を科学的に解明し、記録として残すことは日本の研究者に課せられた最低限の責務であろう。その責務を果たせたのか、また、それが被災地の水产业や地域社会の復興に貢献したのか、を今一度振り返り、被災地域の復興?発展や生態系の保全に今後何をすべきか、さらには、今後世界のどこかで再びこのような災害が発生した時に何をすべきかを考えたい。
(紹介文執筆者: 大気海洋研究所 教授 河村 知彦 / 2023)
本の目次
第1部 海洋生态系の変化と渔业への影响
第1章 震灾后の东北沿岸资源の変动
――漁業活動の低下とその影響|栗田 豊?成松庸二?富樫博幸
第2章 福岛第一原発事故による海域、淡水域における水产物の放射能汚染と渔业復兴
和田敏裕?森田贵己
第3章 津波による贝毒原因プランクトンの大発生とその后
奥村 裕?加賀新之助?渡邊志穂?田邊 徹?増田義男?筧茂 穂
第4章 岩礁藻场生态系の変化とエゾアワビ资源への影响|高见秀辉
第5章 震災後の復興工事が沿岸環境の回復に与えた影響|朝日田 卓
第2部 渔业?渔村における今日的课题と今后
第6章 被灾地における復兴事业の功罪|片山知史
第7章 被災地産水産物に対する消費者意識の変化
――応援买いと风评被害を踏まえて|铃木崇史?
関连情报
落合芳博 評 (『日本水産学会誌』89巻3号 2023年)