心理疗法がひらく未来 エビデンスにもとづく幸福政策
本书は、2008年からイギリス政府がおこなっている「心理疗法アクセス改善政策」について、提唱者であるレイヤードとクラークが解説したものである。レイヤードはロンドン大学スクール?オブ?エコノミクスの労働経済学者、クラークはオックスフォード大学の心理学者である。
うつ病や不安障害がイギリス国民の幸福度を下げており、その経済的損失も何兆円にもなる。「うつ病と不安障害には認知行動療法が効果がある」という科学的根拠 (エビデンス) があるにもかかわらず、セラピスト不足のために、国民は心理療法を受けられない。そこで、希望する国民全員に心理療法を提供しようという「心理療法アクセス改善」 (Improving Access to Psychological Therapies: IATP) 政策が構想され、時の労働党政権が実行したのである。政府は5億ポンド (800億円) を投じて、5年間で5000人のセラピストを養成した。これにより、2008~2013年に、38万人が治療を受け、その46%が回復した。
日本の心理学からみると、IAPTは驚くことばかりである。少し前ならば、うつ病や不安障害が心理療法で治療できるなどとは誰も思わなかった。心理療法というものは、芸术文化や宗教と同じで、科学的根拠などあるわけがないと思っている人も多いだろう。その心理療法を、科学の国イギリスが国を挙げて大規模に実施したのである。
また、心理疗法は、ただ薬物を処方すればすむようなものではなく、长い时间と高い予算を使ってセラピストを养成しなくてはならないので、一种の「ぜいたく品」であり、以前は一部の裕福な人しか受けることができなかったものである。一时は「イギリス病」とまで呼ばれた财政难のイギリスが、心理疗法のために800亿円も支出したことは惊きである。なお惊くべきことに、よく闻くと、この政策は政府の支出を减らすためのものだという。いったいこんなことが可能なのだろうか。
しかも、たった5年間でセラピストを5000人も養成したというのも驚きである。さらに、IAPTのような政策がイギリス以外 (例えば日本) でも可能なのだろうか。
こうした多くの谜や疑问を解き明かしてくれるのが本书である。
監訳者は、臨床心理学の基礎理論や政策論を専門としており、「心理療法は科学的根拠 (エビデンス) にもとづくべきである」と長年主張してきた。本書を読んで、このIAPT政策は、本当は日本においてこそ必要であると確信するようになり、ぜひ翻訳したいと考えた。2017年9月には国家資格である公認心理師制度が施行され、今後、本書に示されたような心理療法 (とくに認知行動療法) が公認心理師によって実施され、広く国民に無償で提供できるようにしたいと強く願うものである。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 教授 丹野 義彦 / 2017)
本の目次
第1章 何が问题か?
第2章 精神疾患とは何か?
第3章 どれだけの人が苦しんでいるのか?
第4章 援助は得られているのか?
第5章 精神疾患は生活にどう影响するのか?
第6章 経済的负担はどれくらいか?
第7章 精神疾患の原因は何か?
第2部 何ができるか?
第8章 治疗は有効なのか?
第9章 治疗法はどのように発展したのか?
第10章 どの治疗法が谁に効くのか?
第11章 心理疗法を提供する経済的余裕はあるのか?
第12章 心理療法アクセス改善 (IAPT) 政策はどう生まれたか?
第13章 子どもと若者に対する効果的な治疗法は何か?
第14章 精神疾患を防ぐことができるのか?
第15章 よりよい文化は助けとなるのか?
第16章 この苦痛を止められるか?
监訳者あとがき:心理疗法アクセス改善政策
関连情报
心理疗法がひらく未来: エビデンスにもとづく幸福改革
书评:
毎日新聞「今週の本棚」大竹文雄?評 『心理疗法がひらく未来…』=リチャード?レイヤード、デイヴィッド?M?クラーク著 (2017年8月27日朝刊)
「今月の本棚」『児童心理』2018年1月号 (松見淳子 評)
「ほんとの対話」『こころの科学』2018年3月号 (東畑開人 評)