[フロンティア実験社会科学 6] 「社会の決まり」 はどのように決まるか
現在、さまざまな社会科学を実験という手法を用いて接合しようとする大きな流れ (実験社会科学) が生まれつつある。この本は、科学研究費特定領域研究「実験社会科学 - 実験が切り開く21世紀の社会科学 -」(平成19—24年度) の成果を承けて劲草书房より刊行中の『フロンティア実験社会科学』(全7巻) の1巻であり、社会規範をテーマとする異分野交叉的なコラボレーションである。
私たちの社会にはさまざまな「決まり」が存在する。こうした「決まり」は、法律や契約に代表される「明文化された公式のルール」から、人々の間で暗黙のうちに共有されている「~すべき」、「~すべからず」という信念や相互期待に至るまで、さまざまな形を取りながら、私たちの行動に大きな影響を及ぼしている。同時に、そうした「決まり」は、私たちの社会をうまく成り立たせ、動かしていくうえで欠かすことのできない仕組みである。社会科学では、こうした仕組みのことを「社会規範 (social norm)」と呼ぶ。社会規範は、人間社会を成り立たせるもっとも重要な文化的装置であると同時に、ほかの哺乳類の社会、例えば、チンパンジーやゴリラなどの高等霊長類の社会と、ヒトの社会を進化的に区別するうえでの最も重要な鍵を握っている。
社会規範は、法学はもとより、政治学、社会学、人類学、経済学にわたる社会科学全体の共通テーマでありながら、個別の分野を超える学問的な連携はこれまで極めて乏しかったと言わざるを得ない。しかし、この事情は、ゲーム理論が社会科学の共通言语となったことをきっかけとして、過去10年の間に急速に変わりつつある。また、より最近では、行動生態学や進化生物学などの自然科学領域との間に、実験とモデル構築を軸とする、新たな研究連携も生まれてきている。本書では、社会規範の成立と維持を支える人間の行動?認知?感情的なメカニズムについて、個別分野を超えたさまざまな研究連携の具体的な展開を示す。進化ゲームと呼ばれる考え方を軸に、社会心理学者と進化生物学者が文理の壁を超えて共同した実証?理論研究の成果が本書では紹介されている。
本書でスケッチした実験社会科学という試みは、いまだ世界のどこにも存在していない「共和国」を目指す挑戦である。今から数十年の後に、現在、"部族的" に分断されている社会諸科学が、この未踏の「共和国」と豊かに連携できることを目指して、不断の努力を行うしかないと著者は考えている。その一環として、『モラルの起源 - 実験社会科学からの問い』(岩波新書) を2017年春に上梓する予定である。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科?文学部 教授 亀田 達也 / 2016)
本の目次
第1章 協力の進化 -- 人間社会の制度を進化生物学からみて [巌佐 庸]
第2章 集団における協力の構造と協力維持のためのルール -- 進化シミュレーションと聞き取り調査 [中丸麻由子?小池心平]
第3章 規範はどのように実効化されるのか -- 実験的検討 [高橋伸幸?稲葉美里]
第4章 間接互恵性状況での人間行動 [真島理恵]
第5章 人間と動物の集団意思決定 [豊川 航]
第6章 集団の生産性とただ乗り問題 --「生産と寄生のジレンマ」からの再考 [亀田達也?金ヘリン]
索引
执笔者绍介
関连情报
书评 shorebird 進化心理学中心の书评など 2015年2月26日