起こりうる最悪のこと 分断の政治がもたらす人类絶灭リスク
本書『起こりうる最悪のこと』は、哲学者らによる人類存亡リスク研究を、経済学者の観点から政治経済に重点を置いて再構成した議論として特徴づけることができる。人類存亡リスク (existential risk) とは、人類の文明が回復不可能なほどに破壊されるようなリスクを指す。
人類存亡リスクは人為的リスクと自然リスクに区別される。自然リスクとしては過去の生物大絶滅のような状況が想定されており、隕石の衝突、超巨大火山がその原因となりうる。人為的リスクとして、主に感染症、温暖化、核兵器、超知能が念頭に置かれる。存亡リスク研究者の間では通常、自然リスクよりも人為的リスクの方がはるかに大きな脅威だと考えられている。というのも、実際に人類 (ホモサピエンス) は、自然リスクにさらされながら2~30万年間生存しているため、自然リスクの確率は非常に低いことが推測できる。他方で、人為的リスクは20世紀以降に急激に大きくなっており、今後もさらに大きくなると想定される。
本书では、人為的リスクはなぜ确率が高いのか、そしてどのような対策が可能なのかが详细に考察される。
まず感染症 (第2章) については、人類の活動領域が広がっているため、未知のウイルスとの出遭いが増している。さらには、生物工学の技术が飛躍的に向上しているため、人工ウイルスが大感染を引き起こす可能性もあることが指摘される。
地球温暖化に関する議論 (第3章) では、可能性は低いが起こりうる極端な結果 (テールリスク) が特に強調される。つまり、产业革命前より4度以上気温が上昇する可能性にも十分注意を向ける必要があると指摘される。
核兵器 (第4章) については、過去の様々な人的ミスや異常型指導者との戦略的関係を指摘し、相互確証破壊に基づく平和という考え方は決して完全なものではないと強調される。
超知能 (人間の能力を超えた人工知能) が人類に害を及ぼすリスク (第5章) については、人間の価値観に合致した判断を機械に行わせることが非常に難しいことが指摘される。早い段階から国際的取り決めを結ぶことで安全性を担保することが重要だと指摘される。
以上のように存亡リスクを説明したのち、著者のより根本的な懸念が示される。それは、ポピュリストの台頭と民主主義の後退である (第7~9章)。というのも、ポピュリスト政府は世界的?長期的問題である存亡リスクを軽視する傾向があるからである。対策として、民主主義制度の改善が叫ばれる。著者の力強い民主主義擁護論に強い印象を受ける人も多いのではないだろうか。
新型コロナウイルスによるパンデミックがいまだ记忆に新しい中、この时期に本书が読まれる意义は高い。軽率な判断を行う政治家を许容したり、存在すると分かっているリスクを軽视したりしないように本书は强く诉えている。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 准教授 高見 典和 / 2024)
本の目次
第2章 悪い菌
第3章 第二の金星
第4章 僕らが最初に原爆を手に入れた
第5章 最后の発明
第6章 起こる确率はどれくらいか
第7章 ポピュリストリスク
第8章 民主主义の死
第9章 政治を改善する
第10章 终わり
関连情报
Andrew Leigh, What’s the Worst That Could Happen?: Existential Risk and Extreme Politics, The MIT Press, 2021.
原着書評:
Bill McKibben、Angela Kane 評 (ACADEMY OF THE SOCIAL SCIENCES IN AUSTRALIA)
Gareth Evans 評「Serious risks: Meeting the challenge of global extinction」 (AUSTRALIAN BOOK REVIEW 2022年3月)