概説 中華圏の戦後史
民主化をめぐる香港の社会运动が、2010年代に、中国と香港との间で新たな摩擦を生んだ。そして、その余波が、民主化した台湾にも広がった。こうした中国と香港と台湾をめぐる现状に対して、日本に住む多くの人たちは、これらの地域との心理的距离が近い分だけ、世界のどの国よりも高い関心を示している。ところが、日本では、中国と香港と台湾がそれぞれに解説されることはあっても、これらの地域の歴史的関係性を踏まえて各地域の歩みを手軽に解説した本は、これまで无かった。本书は、こうした社会的?教育的ニーズに応えようとした概説书である。
しかし、本书が刊行されるにあたり、二つの难题が立ちはだかった。
一つ目の難題は、「中国や台湾という呼称を国家概念として使用するのか否か」という政治問題を回避しながら、対象とする地域を学術書としてどのように記すのか、ということだった。本来ならば、「両岸四地」 (大陸中国?香港?マカオ?台湾) という表記が、現状では最もしっくりくる。なぜなら、「一つの中国」を原則とする中国共産党政権は「両岸四地」の使用を禁止するようになり、他方で、自らの独自性を重視しつつある台湾社会は「両岸四地」という概念を必ずしも受け入れていないからである。つまり、消去法的発想ではあるが、「両岸四地」は現状では最も中立性のある概念だと考えられる。ところが、「両岸四地」という表記は日本语にはない。そのため、代わりの日本语表記が必要になってくる。そこで、マカオを含めた中国語圏の地域を暫定的に「中華圏」と記すことにした。
二つ目の难题は、歴史的関係性を踏まえるとはいっても、「両岸四地」の现状につながる歴史性を重视して、その一つのまとまった时代をどのように呼称するのか、という问题だった。私たちは、熟考の末、戦后史という概念を选択した。その理由は、「両岸四地」の现在の関係性の根底には、日本の败戦による各地域の再编と中国分断と呼ばれる国制の分裂があり、それらはいずれも戦后直后の歴史と深くかかわっているからである。现代史という表记の可能性も十分にあり得たが、戦后史という表记のほうが现在へとつながる「両岸四地」の歴史的深みを表せる、と判断した。
もちろん、本书の「中华圏」という见せ方をめぐっては、様ざまな立场からの様ざまな批判があるだろう。それだけ、「両岸四地」は激动の真っただ中にあるということである。また、本书の「戦后史」という见せ方をめぐっても、様ざまな立场からの様ざまな批判があるだろう。确かに、戦后史という呼称は、もはや世界の歴史学界では通用しない。日本社会は、自らが戦后ととらえてきた约80年の年月を、そろそろ适切に総括しなければならない。
本书の企画と出版は、まさに「火中の栗を拾う」かのようなものだった。それでも、谁かが「戦后史」に起因する「両岸四地」の歴史性と相互の関连性を最新の学术成果の知见に基づいてまとめなければ、日本の「両岸四地」に対する见方は更新されないだろう。このような书き手の热意を汲み取って下されば幸いである。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 教授 中村 元哉 / 2023)
本の目次
序 章 近代国家中国のあゆみ──変革の時代 (1900年代-40年代)
1. 文明と近代と革命という時代性
2. 第二次世界大戦後の風景──出発点としての1945年
3. 中国国民党から中国共産党への政権交代
摆史料解読1闭 胡适「近代西洋文明に対する吾人の态度」
第一章 大陆中国─建設と混乱の時代 (1950年代-70年代)
1. 毛沢東体制の始動と展開
摆図版解説1闭 政治运动に动员された人びと
摆史料解読2闭 日本人が観察した「大跃进」
2. 毛沢東体制の動揺と終焉
摆図版解説2闭 笔を执る毛沢东
摆史料解読3闭 邓小平「どのようにして农业生产を回復させるか」
3. 混迷のなかの知識人
摆図版解説3闭 壁新闻
摆史料解読4闭 巴金「胡风を偲ぶ」
摆コラム1闭 人民解放军の歴史
第二章 大陆中国──発展と強国の時代 (1970年代-)
1. 対外開放と体制改革
摆史料解読5闭 1982年宪法の主な部分改正
摆史料解読6闭 赵紫阳「中国の特色のある社会主义の道に沿って前进しよう」
2. 経済成長の光と影
摆図版解説4闭 改革开放と経済成长率
摆史料解読7闭 「復兴の道」展を参観した际の习近平による讲话
3. 多様化する思想文化と管理される社会
摆図版解説5闭 中国共产党と『中国青年报』
摆史料解読8闭 胡平「言论の自由を论ず」
摆コラム2闭 人民共和国期の映画史
第叁章 香港?マカオ──中国と世界の狭間 (1950年代-)
1. 植民地としての展開と矛盾
摆図版解説6闭 日本军票の交换を求める老人
摆図版解説7闭 九龙石硤尾の新兴集合住宅
摆図版解説8闭 香港の映画雑誌
2. 返還への動きと社会の変容
摆図版解説9闭 マカオ半岛にあるホテルリスボアとビル群
摆コラム3闭 オリンピックの代表権
第四章 台湾──民主化の成熟 (1950代-)
1. 中国国民党一党体制の確立と展開
[図版解説10] 国立故宮博物院 (台北)
摆史料解読9闭 彭明敏?谢聪敏?魏廷朝「台湾人民自救运动宣言」
2. 体制の動揺と民主化
摆図版解説11闭 金门包丁
[史料解読10] 李登輝「Always in My Heart」
3. 中華文化の優勢から多元社会の尊重へ
摆図版解説12闭 ひまわり学生运动
摆史料解読11闭 李筱峰「台湾史は中国史の一部分なのか?」
摆コラム4闭 中华圏のジェンダー
终 章 中华圏と中华文明のゆくえ
文献案内
中华圏を知るための年表
関连情报
倉田徹 (立教大学法学部教授) 評 (『中国研究月報』第908号 2023年10月号)
倉田徹 (立教大学法学部教授) 評 (『史学雑誌』第132編第6号 2023年6月)
関连研究:
基盤研究 (C)「中華圏におけるナショナリズムとリベラリズム:連関する大陸中国?台湾?香港」 (2017年4月-2021年3月)