中国、香港、台湾におけるリベラリズムの系谱
20世纪前半の中华民国(民国)期にも、リベラリズムとしか形容できない政治思想は确実に存在した。しかも、それは、中华人民共和国(人民共和国)成立以降も中国に伏流し続けると同时に、香港や台湾に広がっていった。本书は、中华圏におけるリベラリズムの生成と紆余曲折の道のりを、各地域のそれぞれの政治情势と関连づけながら考察したものである。私が本书で分析したのは、储安平、銭端升、张君勱、张知本、殷海光、雷震、顾準ら20世纪半ばに活跃した知识人であり、『観察』、『自由阵线』、『民主评论』、『自由中国』といった20世纪半ばに注目された政论誌である。
そもそも、多くの人たちは「近现代以降の中华圏においてリベラリズムがあったのか。かりにあったとしても、それに何の歴史的意味があるのか」と不可解に感じることだろう。确かに、それらは政治的にも社会的にも何もなし得てこなかったように思われる。とりわけ、近现代中国においては、ナショナリズムの完成と社会主义の実现が革命史の名の下で最优先されてきたため、その印象はさらに强くなるはずである。
私も、革命史を否定するつもりは毛头ない。近现代中国は1949年に民国から人民共和国へと移行した以上、中国共产党による革命の歴史を研究対象とすることは今后も必要である。しかし、问题なのは、「近现代中国には中国共产党を中心とする革命史以外の歴史は存在せず、中国は自由や人権、あるいは民主政治や宪政とは无縁な特殊な地域だ」とする中国観が日本において蔓延していることである。
近现代中国も自らのやり方で近代化を模索してきたのであり、その模索のなかには、日本や世界と共通する试みも含まれていた。近现代中国にも、日本や世界と同质な一面があるわけである。そのような歴史を、学问の自由を享受する日本において、きちんと追究してもいいのではないだろうか。そうして近现代中国の実像を豊かに描き直し、それを中华圏や世界に対して発信していけばいいのではないだろうか。本书は、中华圏のリベラリズムを自由と権力という课题と向き合った「普遍的なリベラリズム」と政治情势や文化情势に左右された「现象としてのリベラリズム」に二分して、近现代中国における世界との共通性や特殊性を浮かび上がらせながら、日本の中国観を相対化しようとしたものである。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 准教授 中村 元哉 / 2019)
本の目次
第1部 中国、香港、台湾のリベラリスト
第1章 批判の自由を求めて――儲安平
第2章 自由と統制の均衡を求めて――銭端升
第3章 憲政の制度化を求めて――張君勱
第4章 憲法による人権の保障を求めて――張知本
第2部 中国、香港、台湾における连锁
第5章 文化論としてのリベラリズム――殷海光
第6章 日中戦争下の容共リベラリズム――広西、雲南から香港へ
第7章 米ソ冷戦下の反共リベラリズム――香港と台湾
第8章 反右派闘争から文化大革命までのリベラリズム
おわりに――苏る中国、香港、台湾のリベラリズム
関连情报
基調講演:中村元哉(東京大学 大学院総合文化研究科 准教授) (東京大学駒場 2019年6月15日)
http://cold-war-sf.blogspot.com/2019/
书评:
苦難つづきの歴史 列伝風に (『日本経済新聞』 2018年6月9日号)