ワクチン配布のロジスティクスとマーケットデザイン
笔者は、本学の経済学研究科で、最适な制度を科学的に设计することを目指す学问であるマーケットデザインの専门家です。
コロナ禍で、筆者は東京大学マーケットデザインセンター (UTMD)?東京大学エコノミックコンサルティング株式会社 (UTEcon) の合同チームの一員として、マーケットデザインの観点から日本のコロナワクチンの配布の改善に取り組んできました。ワクチンの開発や、接種事業の根幹を設計するのは医学の仕事ですが、ワクチンの特性や配り方の方針が与えられたときに、最適な形で、いつ?誰が?どこで?どのワクチンの接種を受けるかを上手く決めるロジスティクスの策定には、経済学?オペレーションズリサーチ?計算機科学の分野で研究されているマーケットデザインの知見も役に立ちます。考察した内容の一部は、自治体へ直接フィードバックされ、一部は進行中の学術論文の礎となり、一部は政策提言として公開されました。本書は、混乱が大きかった接種開始時期を乗り越え、色々なものがひと段落したタイミングで、これらの内容を整理し、全体を俯瞰できるようにまとめたものとなります。
日本は、最终的に先进国でも随一の接种スピード?接种率を达成するなど、ワクチン配布のロジスティクスの策定について目覚ましい成果を挙げましたが、配布の过程ではいくつかトラブルも発生しました。最も有名なものは、受付开始直后に発生してしまった予约の杀到でしょう。この予约の杀到により、サーバーに余分な负荷がかかったり、市民が予约を取るために大変な苦労をしなければならなくなったり、自治体の侧も、ただでさえコロナへの対応とワクチン配布事业で忙しいところ、余分な対応の手间をかけなければならなかったりと、多くの人々が不便を被り、余计なコストを负担するはめになりました。このような事态は、予约の受付の仕方を适切に设计することで回避することができます。本书では、理论モデルを使い、予约杀到を起こしてしまう先着制の予约システムのメリットとデメリットを绍介した上で、そのメリットをほぼ引継ぎつつ、デメリットをほぼ打ち消すことができる招待制の予约システムを绍介しています。
コロナ祸でのワクチン配布は、想像以上に速いワクチン开発のためか準备期间も短く、いくつか反省点も见当たるものとなりました。笔者がこれまで対话してきた関係者らはいずれも限られた时间で最善を尽くしてきたと感じており、本书は彼らを批判するものでは决してありません。しかし、コロナ祸で起きたことの反省を活かして灾害时の物资の効率的な配分を追究していけば、次なるパンデミックへの対策ができ、灾害に强い社会を作ることができます。本书もそれに少しでも贡献できれば幸いです。
(紹介文執筆者: 経済学研究科?経済学部 講師 野田 俊也 / 2023)
本の目次
第2章 笔者らの取り组み
第3章 接种率とマッチングサイズ
第4章 スクリーニング
第5章 予约システムの検讨
第6章 その他の论点
関连情报
「東大教授『ゲーム理論でワクチン配布の最適化を』」 (週間エコノミストOnline 2021年7月23日)
「ワクチン推進にGo To活用を 野田俊也?加UBC助教授」 (日本経済新聞電子版 2021年6月21日)
大竹文雄?栗野盛光?小島武仁?小林慶一郎?野田俊也?室岡健志「進まないワクチン予約の劇的改善求める緊急提言――政府分科会メンバーらが予約システム改善を提案」 (東洋経済ONLINE 2021年5月19日)
「日本のワクチン予約は欠陥 トイレ紙買い占めとの共通点」 (朝日新聞DIGITAL 2021年5月13日)
野田俊也「『マッチング理論』で考える、望ましいワクチン配布」 (経済セミナー編集部|note 2021年4月6日)
野田俊也「COVID-19ワクチンの配布計画とマッチング?マーケットデザイン」 (東京大学マーケットデザインセンター 2021年1月13日)