日本の先進技术と地域の未来
「先進技术は、地域をどのように変えていくのだろうか?」
最近、さまざまな先進技术が地域の現場に導入され、地域が実証実験の場として活用されることが増えている。こうした先進技术の導入は、人口減少や高齢化、既存产业の衰退、条件不利など、地域が抱えるさまざまな課題に、どのような貢献をすることができるのだろうか。個別の実証実験の成果や課題に留まらず、先進技术の導入が、国土や产业の未来をどのように変えていけるのだろうか、というテーマを扱った書籍は、まだあまり見られない。本書は、こうした視点から、複数の執筆者による論考をまとめたものである。
本書の第1部のねらいは、冒頭のテーマを考えるにあたり、日本における地域の現状と課題をまずは理解してほしいということである。この部では、东京大学地域未来社会连携研究机构 (以下、機構) の提供する部局横断型「地域未来社会」教育プログラムの講師陣と、日本政策投資銀行の方々により、人口、产业立地、地域活性化、国土構造、ウィズ?コロナをテーマとした日本の将来展望が論じられている。
第2部は、機構と日本政策投資銀行地域企画部 (現地域調査部) が、2019年12月から2021年3月まで開催してきた「地域未来产业研究会」がもとになっている。この研究会では、地域の未来に関わるさまざまな先進技术について、東京大学の理工系の先生方からお話を伺い、その可能性について活発な議論が交わされた。各章においては、ご登壇いただいた先生方に、ご自身の専門とする先進技术と、地域の課題解決との関係性について熱く語っていただいている。
第3部では、地域の未来を展望するにあたり、日本の地方創生の新局面としてのDXとGXや、ヨーロッパにおける先進技术の受容について述べられている。紹介者は、経済地理学者としてここに登場しているが、担当した第12章の中で掲げた「未来 (先進) 技术は地域間格差の是正に寄与するのか?」という問いは、本書を読み進める中で、ぜひ念頭に置いておいてほしいと考えている。この問いに答えるためのヒントは、本書の各所に散りばめられている。
本書は、多くの執筆者にご協力いただき、充実した内容になっているのであるが、各々の学術的な専門は極めて幅広いため、いわゆる「読みやすい本」ではないかもしれない。少しとっつきにくいな、と思った時は、各章の合間に配置されているコラムに目を向けてほしい。このコラムでは、機構の参加部局の先生方が、自身や所属部局における地域に関わる取り組みを紹介している。研究者が地域の現場をいかに捉え、どのような研究活動を展開しているのかを垣間見ることをきかっけに、本書のテーマである「先進技术と地域の未来」について、皆さんにも考えてみてほしい。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 准教授 鎌倉 夏来 / 2022)
本の目次
第滨部 地域社会の现状と课题
第1章 地域别将来人口の见通しとその影响(小池司朗)
1.はじめに
2.全国人口の推移
2.1 过去~现在の人口
2.2 将来の人口
3.地域别将来人口の见通し
3.1 「平成30 年地域推計」の枠組み
3.2 推计结果の概要
4.年齢构造が动态率に及ぼす影响
4.1 地域类型别の标準化出生率,标準化死亡率
4.2 算出结果
4.3 将来の地域类型别の自然増减率と社会増减率
5.おわりに
?コラム1 将来のものづくり人材の育成(新宅纯二郎)
第2章 产业立地の動向と地域社会の活力(加藤 讓)
1.はじめに
1.1 产业大分類別にみた产业立地の現状と推移
2.工场立地にかかる地域の问题
2.1 工场立地の动向と背景
2.2 工场立地に伴う雇用创出力
2.3 地域における製造业の赁金水準
3.商业,サービス业の立地にかかる地域の问题
3.1 产业立地による従業者割合の変化
3.2 サービス业等の就业构造と赁金水準
3.3 サービス业等の労働需要の増加による地域経済への影响と问题
3.4 人口减少社会と地方の商业,サービス业の立地にかかる问题
3.5 人口减少社会における地方のサービス业の生产性
4.地域の未来に向けた课题
4.1 地域资源を活用した国内拠点の确立
4.2 「ライフロング?ラーニング」の推进と评価システムの构筑
4.3 IT 企業等と地方企業のマッチング促進
4.4 地方発、地域の课题解决の実现
5.おわりに
?コラム2 釜石での希望学(玄田有史)
第3章 多様な地域资源を活用した地域活性化(清水希容子)
1.はじめに 63
2.地域に存在する产业と地域資源 64
2.1 第一次产业(農林水产业など)
2.2 第二次产业(製造業,エネルギー产业など)
2.3 第三次产业(生活関連サービス、専門的サービスなど)
3.地域资源の新たな価値と地域活性化
3.1 ご当地プレートに见る新たな地域资源
3.2 地域资源の新たな価値と地域活性化の事例
4.今后の地域资源の维持と魅力向上
4.1 食の素材を提供する农地と山林
4.2 アニメファンが求める地元でのふれあい
4.3 地域に蓄積された技术や技能の継承とイノベーション
4.4 大学?公设试験研究机関などの学术研究机関における产学连携と试行错误
5.おわりに
?コラム3 猫と人間の未来を構想する猫社会学(赤川 学)
第4章 国土政策における先進技术の導入(瀬田史彦)
1.はじめに
2.国土政策の変遷と技术の導入
2.1 国土政策の课题
2.2 国土政策と先進技术
2.3 技术の普及と国土政策
2.4 これまでの成果と国土政策の帰结
3.先進技术の利活用?導入による国土?地域への働きかけ
3.1 現在の国土政策と先進技术の導入
3.2 国土政策の目标の変化
3.3 コロナ禍と国土を変容させる技术の導入
3.4 デジタルとリアルの融合
4.事例から見る技术の活用
4.1 都市と農村の融合と新技术
4.2 リニア开通を想定した首都圏近傍での実証実験
4.3 マクロ?ミクロの両面からの先進技术の活用
4.4 実証実験における技术の活用
5.おわりに
?コラム4 自然を基盘とした解决策──古くて新しいグリーンインフラ(吉田丈人)
第5章 ウィズ?コロナにおける地域创生のあり方(地下诚二?足立慎一郎)
1.はじめに
2.地域における従前からの课题
2.1 人的资本──人口减少?高齢化,东京圏への人口流出,女性活跃
2.2 产业資本──地域所得の域外流出、地域発イノベーションの少なさ
2.3 社会资本──厳しい财政状况、インフラ老朽化
2.4 地域间の格差
3.新型コロナが地域にもたらした影响と「履歴効果」
3.1 新型コロナがもたらした胁威──交流人口の激减、経済状况の悪化、叁密の回避
3.2 新型コロナによって生まれた机会
──テレワークの浸透、DX、人々の意識の変化、SDGs に対する意識の高まり
3.3 新型コロナを契机とした「履歴効果」
3.4 交流人口减少やテレワーク移住等の定量的インパクト
3.5 テレワークを地域创生に活かす际の着眼点1
──受入地域毎の强みを活かしたマーケティング戦略
3.6 テレワークを地域创生に活かす际の着眼点2
──働く场所の选択の自由、「物理的距离」の概念の変化
3.7 テレワークに関する课题?留意点
4.ウィズ?コロナにおける地域创生へ向けた検讨方向性
5.住民満足度アンケート等に基づく新たな「地域価値指标」について
6.おわりに
?コラム5 国土?都市づくりの人材を育て活かす多様な取组(瀬田史彦)
第II部 未来技术と地域
第6章 カーボンニュートラルと地域のエネルギー戦略(瀬川浩司)
1.はじめに──2050 年カーボンニュートラルとは
2.気候変动への対応──温室効果ガス排出削减に向けた国际的な枠组み
3.脱炭素化への具体的な道筋──世界で顕着な再生可能エネルギーの导入拡大
4.日本の一次エネルギー供给とカーボンニュートラル
──再生可能エネルギーの现状
5.地域のエネルギー戦略に関する日本の政策
6.おわりに──「セクターカップリング」と「技术のベストミックス」
?コラム6 地域イノベーションエコシステムの醸成
──種子島における地域产业×科学技术×教育の連関(菊池康紀)
第7章 情報通信技术と产业のスマート化(中尾彰宏)
1.はじめに
2.情报通信の进化と5骋
2.1 5骋とは
2.2 5骋大容量通信の実証実験
2.3 超低遅延性とエッジコンピューティング
2.4 超低遅延性を利活用する自动运転と协调运転
3.ローカル5骋
4.地域創生への適用?一次产业のスマート化
5.自治体におけるDX の課題と必要な政策
6.おわりに──地域创生の顿齿を成功に导くために
?コラム7 地域林業のスマート化によるビジネス产业化(仁多見俊夫)
第8章 IoT?AI?データによる地域課題の解決?地域活性化(越塚 登)
1.はじめに
2.なぜ地域活性化?地域课题の解决か?
3.AI、IoT とは?
4.滨辞罢?础滨?データの利活用事例
4.1 データ駆动型スマート农业
4.2 IoT Smart 水产业
4.3 Smart Logistics、フレイル自動検出
5.スマートシティ
6.おわりに──スモール顿齿のビジネスモデル
?コラム8 地域安全システム学(加藤孝明)
第9章 人の移动とデジタル空间(関本义秀)
1.はじめに
2.人の流动に関する研究の経纬
3.都市のデジタルツインに向けて
4.おわりに──叁次元的な都市のデジタルツインへ
?コラム9 GISとリモートセンシング(小口 高)
第10章 ドローン?空飞ぶクルマと地域の未来(铃木真二)
1.はじめに
2.无人航空机がもたらすイノベーション
2.1 ドローンは老人の生活を助ける
2.2 ドローンは灾害を调査する
2.3 颁翱痴滨顿-19とドローン
2.4 无人飞行机の歴史
3.小型无人机の国内制度
3.1 日本における制度の整备状况
3.2 ドローン活用のためのロードマップ
3.3 アメリカでの小型无人机制度
3.4 日本での自治体の取组
3.5 無人機の運用に関する技术開発と制度設計
4.「空飞ぶクルマ」への期待
5.おわりに──新技术の社会実装の課題
?コラム10 ドローンによる地形学(须贝俊彦)
第滨滨滨部 地域の未来の展望
第11章 二重のパラダイムシフトをチャンスと捉えた地方创生(坂田一郎)
1.はじめに
2.二重のパラダイムシフトの时代
3.ニューノーマルと2つのパラダイムシフトの复合
4.パラダイムシフトに対応した新学习地域
5.おわりに
?コラム11 リビングラボ(小泉秀树)
第12章 海外での未来技术と地域の取組()
1.はじめに 311
2.贰鲍およびヨーロッパにおけるインダストリー4.0と地域
2.1 インダストリー4.0への期待と対象范囲の拡大
2.2 インダストリー4.0関連技术の地理的分布
3.EU 内におけるインダストリー4.0関連技术の受容
3.1 先進国内の伝統的な产业地域におけるインダストリー4.0の受容
3.2 中所得国におけるインダストリー4.0の受容
4.未来技术は地域間格差の是正に寄与するのか?
5.おわりに
?コラム12 リモートセンシングを用いた农业による环境负荷の軽减(吉野邦彦)
終 章 本書の総括(松原 宏?地下誠二)
1.各章のまとめ
2.日本における先進技术と地域に関わる政策
2.1 未来投资戦略0
2.2 地域におけるSociety 5.0の推進
2.3 国土交通省による「国土の长期展望」
3.地域の未来についての考察
あとがき(地下诚二)