Creative Ageing Cities Place Design with Older People in Asian Cities
本書は、2016年にシンガポールで開催された“Creative Ageing Cities”というシンポジウムの内容をもとに、2018年に編集?出版されたもので、東アジア諸国の都市部において今後深刻な社会課題となっていく超高齢社会に、建築?都市デザインとしてどのように対応すべきかについて、各国での取り組みを紹介したものであり、シンガポール、台北、ソウル、香港、上海、東京という都市が取り上げられている。
紹介者は、東京の章を執筆したのだが、表題を「Community design to prevent solitary death in super-aged Japan (超高齢社会日本で孤独死を防ぐためのコミュニティ?デザイン)」としている。
この章では、まず「Introduction: Challenges for Japan’s Super Aged Society」において、アジア諸国の中でも一際早く超高齢社会に突入した日本の高齢化の状況を各種データとともに紹介した上で国が取り組む「地域包括ケアシステム」の目指す姿を解説している。
次ぐ、「Ageing of “new towns” and the fight against shifting demographics」では、ニュータウンなどの新規開発住宅地が急激な高齢化を迎え、高齢者の発生率が異常に高い値を示しつつあることを踏まえ、民間開発住宅地であるユーカリが丘ニュータウンで取り組まれている、「少しずつ町をつくっていく」取り組みを解説している。通常の住宅開発では、住宅が売れさえすれば大量の住宅が一挙に供給され、結局それが極めて偏った人口パターンの固定化をもたらすようになるが、年間の供給戸数に制限を課すことにより、一挙に高齢化が進まない町づくりが可能であることを示している。
次の、「Making use of collective memories of the housing estate in Tokyo」では、団地の建て替えが進む赤羽台団地の取り壊し予定の空き店舗を利用した団地資料館が、地域の高齢者の居場所を形成し得ることを紹介している。紹介者らは、引越しの際に捨てられたゴミの中から「昭和の記憶物」を回収し、それを空き店舗に展示して資料館をつくったのだが、「集合的記憶」を手掛かりに、団地の高齢者が懐かしんでここに寄って来てくれるようになった。そしてここに、小さなワークショップを仕掛けることによって、子育て世帯なども集まる場となり、結果として世代交流の機会をつくることができた。こうした空間デザインと社会デザインの融合が、今後の高齢社会にとって重要だと思っている。
最後は、「Community care and temporary housing for the victims of Tohoku Earthquake」として、東京大学高齢社会総合研究機構 (IOG) で取り組んだ、コミュニティケア型仮設住宅の提案?実践の取り組みを紹介している。IOGでは、東日本大震災直後に建設された仮設住宅について、高齢者が孤独死をしないような「お互いにゆるく見守りができる環境」を目指して、コミュニティケア型仮設住宅の提案を行い、岩手県の釜石市と遠野市にそれを実現することができた。住宅の入り口の前に木製のデッキと屋根を設置することによって、住宅の前が第二のリビングルームのようなみんなの居場所になることを目指したものであり、実際にここではよく「お茶っこ」と呼ばれるご近所のコミュニケーションの場が形成されるようになった。このような小さな実践的なデザインは、欧米では現在Tactical Designとして注目を浴びているが、その目標として「高齢者の多様な居場所づくり」が、超高齢社会にとって重要である、というアピールを行っている。
(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 大月 敏雄 / 2019)
本の目次
Part I: Singapore
1. Reclamation of Urban Voids and the Return of the ‘Kampong Spirit’ in Singapore Public Housing (Keng Hua CHONG)
2. A Case Study in Re-imagining Healthy Communities (Sweet Fun WONG)
Part II: Taipei
3. Regenerating Public Life for Ageing Communities through the Choreography of Place-ballets and the Weaving of Memory Tapestries (Min Jay KANG)
Part III: Seoul
4. Fostering Government-Citizen Collaboration and Inter-generational Cooperation: The Alternative Neighbourhood Regeneration Project in Jangsu, Seoul (Jiyoun KIM and Mihye CHO)
Part IV: Hong Kong
5. Participatory Action Research: Public Space Design by Older People (Jackie Yan Chi KWOK)
6. A Participatory Design Experience with Older People: Case Study of Participatory Design in the HKSKH Tseung Kwan O Aged Care Complex Project (Robert Kin Ming WONG, Crystal Man Chong HO, and Gwyneth Wing Lam CHAN)
Part V: Shanghai
7. New Prototype for Ageing-in-Place in Megacities: An Empirical Study of Shanghai (Dong YAO)
Part VI: Tokyo
8. Community Design to Prevent Dying Alone in Super-Aged Japanese Cities (Toshio OTSUKI)
Conclusion (Mihye CHO and Keng Hua CHONG)