労働法 第7版
この本は、労働法の教科书である。
労働法については、既に多数の教科书が公刊されている。そのなかで、本书は、次のような特徴をもつ本になることを目指して执笔された。
第1に、労働法の初学者から実務家?研究者まで、幅広く読まれる本となることである。労働法が対象とする問題は、身近なものであると同時に、複雑な背景をもつことが多い。それゆえ、法律や裁判例の平板な羅列?解説だけでは問題の理解が難しく、問題の核心となる思考にたどりつけないことも多い。本書では、労働法全体を体系的に整理することや、「事例 (Case)」によって具体的な例をあげることなどを通して、労働法全体の地図のなかでいま自分がどこにいるのかをできる限りわかりやすく示すことに努めた。また、それぞれの論点を執筆するにあたっては、法的思考の起点となる各条文?法理の趣旨と根拠を明らかにし、そこから結論に至るまでの道筋をできる限り理論的に明確に叙述することで、本書を読むことを通じて、労働法の核心にある法的思考に近づいていけるよう工夫を施した。
同时に、それぞれの论点においては、判例の立场を重视しつつ、その理论的な分析?解説を试みるとともに、それに対する自らの见解を明らかにすることに努めた。そこでは、重要判例だけでなく、最新の裁判例をできる限り多く盛り込み、それらの理论的な位置づけを明らかにすることによって、本书が労働法実务にも理论的な影响をもちうるよう配虑した。さらに、自らの理论的な思考?立场とその根拠をできる限り明らかにすることによって、労働法研究の面でも议论を唤起できるよう心掛けた。
第2に、労働法の背景にある歴史や社会などの基盤を踏まえた本となることである。労働法は、他の多くの法と同様に、単に現在の社会で生じている多数の問題を表面的に取りあげて処理するという技术的なものではなく、その基盤にある歴史や社会などに規定されながら動態的に変化している法である。それゆえ、労働法をめぐる問題を考察するにあたっては、その基盤にあるものに思いを致すことが重要である。このような視点は、労働法の未来を考えるうえで決定的に重要な役割を果たす。本書では、労働法の基盤にある歴史や社会について、第1編でかなりの紙幅を割いて体系的に考察し、また、各箇所で「探究 (Reflection)」を設けて労働法の基盤や未来に対する本質的な思考を促すことを試みている。ケース?スタディを中心とした法科大学院の授業では、これらの点に直接触れることは必ずしも必要ないかもしれないが、実務的な問題解決の前提として、これらの箇所も自分で読み、労働法の基礎にある思索を深めてほしい。
本书は、このような意図をもって书かれた教科书の第7版である。改订のたびに、最新の法律、判例等をフォローし、変化する労働法の全体図を描くことを心掛けている。
(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 水町 勇一郎 / 2018)
本の目次
第1編 労働法の歴史と機能―労働法の背景や基盤を知り、その意味を探る
第1章 労働法の歴史
第2章 労働法の機能
第2編 労働法総論―労働法の全体像と枠組みを知る
第1章 労働法の基本構造
第2章 労働法上の当事者
第3章 労働法の法源
第3編 雇用関係法―労働者と使用者の個別の関係を規律する法
第1章 雇用関係の変遷
第2章 雇用関係の内容
第3章 非正規労働者に関する法
第4編 労使関係法―労働者、使用者と労働組合の集団的な関係を規律する法
第1章 労使関係の基本的枠組み
第2章 団体交渉促進のためのルール
第5編 労働市場法―求職者と求人者との取引に関する法
第1章 雇用仲介事業の規制
第2章 雇用政策法
第6編 労働紛争解決法―労働紛争を解決するための法
第1章 日本の労働紛争の特徴
第2章 労働紛争解決システム
むすび―日本の労働法の特徴と课题について、もう一度考える