トルコ?シリア地震と情报のデザイン ――発灾直后、被灾状况を伝える卫星画像はどう现地に届いたか
トルコとシリアで発生した大地震は甚大な被害をもたらしました。灾害の全貌を把握するために出来ることは何か、発灾直后に卫星画像マップを公开し、被灾情报を発信し続けている渡邉英徳先生に闻きました。
即时性のある情报発信をデザインする
── トルコとシリアの地震について、翌々日(2023年2月8日)には発信を開始されていました。
トルコの地震による破壊状況を捉えた,Maxar Technologiesの衛星画像。現地の天候が悪く,光学衛星の画像は得られにくいようです。僕もSARイメージを用いた検証を始めます。
— 渡邉英徳 wtnv (@hwtnv)
今回の地震は、衛星画像を提供する企業(後述)が社会貢献とおそらくは企業価値のアピールのために、ウクライナ戦争を契機として衛星画像データを無料公開するようになってから起きた、初めての大規模な災害でした。そこで、生の衛星画像データをもとにして被害を分析し、状況を俯瞰する動画をツイッターで発信したところ、公開後1週間で約2万8000人のトルコのユーザーからアクセスがありました。当時は現地上空の悪天候により光学的な撮影による観測が難しく、人工衛星からマイクロウェーブを地上に発射し、反射されてきた信号をもとにして地表を観測する「SAR(Synthetic Aperture Radar、合成開口レーダー)」のデータからイメージを合成しました。
── 現地からの反応はどのようなものでしたか?
今回の地震における被灾范囲はたいへん広く「个々の地域の被害状况だけではなく、全体像を俯瞰したい」という要望が、トルコの方々から多く寄せられました。必要な情报がトルコ政府からは出てこない状况において、卫星画像をリアルタイムでウェブに公开する私のツイートは、トルコ语に翻訳され、拡散されていきました。トルコ国営放送(罢搁罢)やアナトリア通信(国営通信社)からも取材があり、地元の人々に届いた実感があります。
というのも、発灾直后のタイミングで公开されているデータをスマートフォンで简単に见られるように加工し、発信した人は他にいなかったようです。生データに适切な情报デザインを施すことによって、一番必要としている人々に情报を届けることができる。トルコ现地からの大きな反响は、このことの証明になっており、大いに勇気づけられました。
── 「情報デザイン」にあたって、どのような処理や作業をされたのでしょうか?
代表的な衛星画像企業である「MAXAR Technologies」は、最新で高精細な衛星画像を、誰でも自由に使えるオープンデータとして災害時に公開しています。しかし実際には、数百メガバイトもある大きなファイルがサーバにただ置かれているだけです。GIS(地理情報システム)を扱える専用のソフトウェアが無ければ、ファイルを開くことすらできません。
まず、どんなに最新であっても生の卫星画像データをただ眺めるだけでは、どこが被灾しているのか分かりません。そこで、过去の卫星画像と见比べつつ、破壊箇所をしらみつぶしに探し当てました。次に、それらの被灾箇所を顺次、自动的に表示していくように、ストーリーテリング型のデジタルマップを作成しました。
YEN? GÖRÜNTÜLER!!!!!
— Rachel Hebun Özdemir ???? (@RachelHebun)
Türkiye-Suriye Depremi 2023
Uydu Görüntüleri Haritas?
Satellite Images Map of Turkey-Syria Earthquake 2023
これはドイツ在住のジャーナリズム関係者が「トルコ?シリア地震 衛星画像マップ」を紹介してくれたツイート(2023年2月11日)で、トルコ語で「新画像!!!!!」と書かれています。このマップはウェブブラウザがあれば閲覧できますから、パソコン?タブレット?スマートフォンを使えば、誰でもアクセスすることができます。トルコ国内外のジャーナリストや地理情報に関心のある方などが、マップの情報を現地の言葉でも発信してくれています。
── 「誰でもアクセスすることができる」ものであったために、活用されていったのですね。
このデジタルマップは、地震で地表に现れた断层を探すことにも役立ちました。地表の割れ目の开始地点を卫星画像上で见つけ、割れ目を连続的に辿ることができるようにストーリーマップを构成します。こうして可视化することによって、断层が集落を贯いており、断层に沿って建物群が破壊されていることなどが分かってきます。このマップを活用した専门家が画像から新たな断层を発见することもありました。
さらに、デジタルマップを操作している様子を短い动画にして、ツイッターで発信しました。マップに直接アクセスしなくても、そこから得られる知见を届けられるようにするためです。こうして、卫星画像の提供元の公司と、情报を求めている人々との桥渡し的な役割を果たすことになりました。
発災から20日後、ようやく「グーグルアース」でもMAXAR Technologiesの衛星画像が参照できるようになりました。しかし、災害対応としては遅いように思われますし、専用のデスクトップアプリをインストールしないと閲覧できず、一般ユーザーには敷居が高いのです。
今回の地震では、オリジナルの卫星画像データは専门家?灾害対応の组织などのプロフェッショナルにしか届いておらず、一般の人々には扱いにくいということを改めて実感しました。スピーディに、かつ谁でも被害状况を観られるようにデジタルマップを公开した点に、私たちの仕事の意义があります。
状况を多面的に「可视化」する
── 被災したトルコとシリアでは、被害にどのような違いが見られますか?
シリアの都市は、トルコと比べると低层の建物が多いため、卫星画像を眺めても、壊れている箇所を识别しづらいのです。そこで、厂础搁によって地上の起伏を検出する技术を応用しました。地震により地上物が破壊されると、起伏が変化する。つまり、被灾前后で厂础搁のデータを比较し、差が现れているところ、この画像で赤く示した箇所が、破壊されていることが推测できます。トルコに比べ报道される机会が少ないシリアでも、実际にはひどい被害が生じていることが分かり、さらなる支援が必要だということです。
シリア?アザスの被害状况评価。厂础搁(合成开口レーダー)イメージの差分?卫星画像を利用しています。地震前后で形状が変化し,破损が视认できる箇所を示しました。
— 渡邉英徳 wtnv (@hwtnv)
―― 被災地や被害情報をマッピングする際に大切なことは?
例えば、地中海沿岸の港湾都市?イスケンデルンの火灾は日本でも报道されましたが、消火后、この町は忘れ去られているといってもいい。しかし卫星画像マップを参照すると、多数の高层ビルが崩壊しており、多面的な被害がみえてきます。
东日本大震灾では発生から1年后、という、震灾后のマスメディア报道がどのように変迁したか、报道の空白地域がどこかわかるマップを作成しました。例えば茨城県における津波被害は、ほとんど报道されなかったことなどが见えてきます。この経験を活かして、シリアのように、メディアでは取り上げられづらい地域の被害状况を可视化し、支援の手が届くようにしたいと考えてきました。
今回の地震でも多く报道されている都市のカフラマンマラシュとアンタキヤはおよそ170キロ离れています。これは日本でいえば、东京から福岛県いわき市の距离と同じです。その间には、报道されないけれども壊灭的な被害を受けた街が多数存在します。そうした「目立たない」被灾地の情报こそ、求められているのです。
―― 今後に向けて、どんなことが進んでいますか?
地元の有志によるフォトグラメトリ(3顿データ)の作成と公开も始まっています。これらの3顿データは、被灾状况を立体的に捉えるための重要なものです。ウクライナ戦争の3顿マップで培った技术を用いて、マップへの掲载を始めています。
灾害の発生から、あっという间に时间は経过していきます。今回の卫星画像マップはリアルタイムに构筑し、リアルタイムに役立てられてきました。一方、これからの復兴に活かすためにも、被灾状况をいつでも参照できる场所としてのアーカイブ化が必要になってきます。その际には、これまでに手掛けてきた东日本大震灾関连のデジタルアーカイブなど、被灾地の方々とも中长期的なコミュニケーションを継続して行うさまざまなマッピングや可视化の知见が生かせると思っています。
そして、こうした活动を社会全体で支えていく仕组みも必要です。东日本大震灾から12周年を机に、を立ち上げました。デジタルアーカイブの开発?运用、若い世代の育成や被灾地との连携に活かしていきたいと考えています。
渡邉英徳
WATANAVE Hidenori
情報学環?学際情報学府 教授
东京理科大学理工学部建筑学科卒业。筑波大学大学院システム情报工学研究科博士后期课程修了、博士(工学)。2018年より现职。「ヒロシマ?アーカイブ」「忘れない:震灾犠牲者の行动记録」「冲縄戦デジタルアーカイブ~戦世からぬ伝言~」などを制作。着书に(讲谈社现代新书/2013年)、共着に『础滨とカラー化した写真でよみがえる戦前?戦争』(光文社新书/2020年)など。
写真:中岛みゆき
取材日:2023年2月27日
取材:寺田悠纪、ハナ?ダールバーグ=ドッド