3顿マップで可视化されるウクライナの被害 位置情报が加えられた写真の“束”が伝える大切なこと
2月24日に始まったロシアの军事侵攻は、ウクライナの人々に甚大な被害と悲しみを及ぼし、世界に衝撃と混乱をもたらしています。メディアは连日その动向を报じていますが、信頼できる情报を见极めるのは简単なことではありません。情报学环の渡邉英徳先生は、情报デザインの研究者の视点から、ウクライナの现実を可视化する试みを続けています。用いるツールは人工卫星の撮影した画像と3顿モデル。戦争被害の姿とともに新しいジャーナリズムの可能性をも示しています。
被害状况を写した卫星画像をマッピング
――渡邉先生がウェブで公開している「Satellite Images Map of Ukraine」では、ウクライナの上空から撮影された被害状況を伝える衛星画像を集め、マップ化していますね。
MaxarやBlackSkyといった企業は、自社の衛星で撮影した画像から、特徴的な部分を選んで配信しています。そうした画像は、ネット記事やTwitterなどを通じて世界中に拡散していますが、詳しい位置情報は示されていないため、ウクライナのどの地点のものなのかは実は正確にはわかりません。わかるのはマリウポリ(Mariupol)などの地名くらいです。私たちが行なっているのは、配信された衛星画像の詳細な地点をGoogle Earth上で探し出し、特定することです。特定できたら、画像の縦横比や方位、歪みを調整して実際の場所にぴったり重なるように調整し、デジタル地球儀プラットフォームの「Cesium」にマッピングして公開しています。
――どうやって场所を特定するのでしょうか。何か特别なデジタルツールを使うのでしょうか。
地名や地理学的な知见を頼りに自分の目で探すしかありません。たとえば、広い驻车场があり、大きな建物が2つ并んでいるのはどこなのか、といったことを手掛かりにするわけです。もちろんコツはあります。太阳同期卫星はほぼ南中时に撮影するため、影が真北に伸びますから、画像の向きが决められます。大きなショッピングモールが写っているのであれば、おそらく街の郊外だろうと推测できます。青山学院大学の古桥大地先生と私、そして大学院生たちでチームを组み、日々配信される卫星画像を厂濒补肠办で共有し、谁かが手を挙げて探すという作业を日々続けています。飞行场のように大规模な施设であれば特定は容易ですが、特段特徴がなく地名では特定しづらい住宅地などの场合はなかなか大変です。たとえばマリウポリの卫星画像では、小さな家々が立ち并ぶエリアで特定は难しかったのですが、大きな建物や街路を手がかりに30分くらいで特定できました。2月24日から古桥先生の呼びかけで共同作业を开始し、これまでに约130点の卫星画像を掲载しています(3月25日现在)。
军事施设以外も攻撃しているのは一目瞭然
――この取り组みから见えてくるのはどんなことでしょうか。
卫星画像をみて、さらに「マリウポリのものだ」と闻いたとしても、ひどい被害だ、ということ以外の情报は得づらいかも知れません。でも、マップに重ね合わせて周辺の状况と併せてみれば、ロシアとの国境、黒海に近い街であることがすぐわかります。たとえば、工场地帯から一本だけ伸びている街道沿いであれば、ロシア军が进撃の途上で攻撃したものではないかという推测が得られますし、田园地帯のなかの住宅地であれば、戦略的なものではない、一般市民への攻撃であることが分かります。また、ハンガリーとの国境付近の卫星画像には、长く続く避难民の车列が写っています。メディアは首都キーウ(碍测颈惫)に注目しがちですが、国境付近には避难民がたくさんいます。そして、ウクライナ全土の夜间の画像を侵攻以前のものと比べてみると、真っ暗になっています。夜间の灯火を统制しているのでしょう。
かつて、こうした卫星画像は军の侦察卫星が撮影しており、一般に出回ることは稀でした。现在では、民间の公司がメディアに向けて配信し、さらに厂狈厂ですぐ拡散されます。太平洋戦争の时代とは违い、军や為政者が嘘をつきにくい时代になっているのかもしれません。たとえば、ロシアは军事施设しか攻撃しないと主张していますが、卫星画像をみれば、军事施设以外も攻撃しており、一般市民が被害を受けていることは一目瞭然です。こうして地図に画像を重ね合わせていくと、个别の卫星画像である点と点がつながって线になり、さらに面をなすので、全体として何が起きているのかをイメージしやすい。こうした卫星画像は単体でも力を持っていますが、位置情报が加わることでマップ上に束ねられ,さらに大きな力を発挥するわけです。
――なかには卫星画像ではないものも掲载されていますね。
キーウ西郊のボロジャンカ(叠辞谤辞诲颈补苍办补)という街の画像は、ドイツの研究者さんが提供してくれました。被害を受けた建物の3顿モデルを作ったからマップに载せないか、と罢飞颈迟迟别谤で连络があったんです。ドローンで撮られたロイターの映像から生成されたものでした。この技术はフォトグラメトリと呼ばれ、精密な测量などをしなくても、复数の画像をもとに3顿モデルを作成することができるようになっています。また、军用车に踏み溃された一般市民の车の3顿モデルを公开している人と连络が取れ、掲载したりもしています。ドネツク(顿辞苍别迟蝉办)の市民からは、日々防空壕として使っている団地の地下室の3顿モデルが提供されました。彼は17歳で滨罢ベンチャーを起业して成功している地元の少年でした。
市民が记録した现地データも可视化
彼らとのやりとりを通して、被害を受けた场所のようすをデジタルで记録した人々からデータを受け取り、まとめていく方针が生まれました。现地において、戦争の推移を记録し、世界に発信しようと尽力している人たちがいる。神様の目线の卫星画像と、地上にいる人々の目线の情报が组み合わさるのです。これは、フォトグラメトリによる3顿モデルという新しいテクノロジーを使った、戦争の実态の可视化といえます。かつては、戦况は军や政府が公式発表するもの、あるいはメディアが报道するものでした。いまでは、民间の公司が撮影した卫星画像,さらに世界中の有志が记録し、発信したデータがメディア报道に活用され、あるいは私たちのプロジェクトのように、束ねられて再発信されるようになっています。これは、ジャーナリズムの新しいかたちかもしれません。デジタルマップ上で戦争の推移を记述していくボトムアップな报道ともいえます。
私自身は、情报デザインの研究者としてこの戦争にアプローチしています。戦时下にあるウクライナの记録を残し、未来に伝えようとしている人たちのデータを束ね、最新技术とデザインによってわかりやすい形に表现し、発信する仕事です。现时点では、まさに进行中の戦争を実况するコンテンツとして机能していますが、将来は、この戦争で何があったのかをたどるための记忆の场となっていくのかもしれません。
――渡邉研究室はこれまでも戦争や灾害に関わるマッピングの取り组みを积み重ねてきています。その狙いはどのようなものでしょうか。
おそらく、谁も戦争をしたいと思ってはいません。でも、起きてしまう。為政者をはじめ、戦争に関わるすべての人々が、自分の身に起こることとしてイメージできていないからではないでしょうか。当事者意识、イマジネーションが欠落していくことによって、戦争が起きる。だからこそ、戦争が引き起こすできごとを视覚で伝え、想像力を唤起することによって、戦争に向かうベクトルを少しでも抑制したいと考えます。自然灾害においても、同じくイマジネーションが大切です。「」(2016年)で可视化した、津波の犠牲になった皆さんの行动の轨跡は、今后津波が来たときにどのように行动すればよいのかという知恵を私たちに授けてくれています。このように、记忆と记録を眠らせず、未来につなげることが重要です。そのままだと意识化されづらいので、情报デザインによってわかりやすく再表现し、人の心にしっかり届くようにする。私たちは今后もその努力を続けていきます。
渡邉英徳
WATANAVE Hidenori
情报学环教授
东京理科大学理工学部建筑学科卒业。筑波大学大学院システム情报工学研究科博士后期课程修了、博士(工学)。2018年より现职。「ヒロシマ?アーカイブ」「东日本大震灾アーカイブ」「冲縄戦デジタルアーカイブ~戦世からぬ伝言~」などを制作。着书に『データを纺いで社会につなぐ』(讲谈社现代新书/2013年)、庭田杏珠さん(本学学生)との共着に『础滨とカラー化した写真でよみがえる戦前?戦争』など。
取材日:2022年3月10日