中世史料との邂逅 室町?戦国?织豊期の文书と记録
学問としての歴史とは、史料に基づいて描かれるものである。この場合の史料とは、古文書?古記録といった当時の人々が書き残した文字資料のこと。ではその史料たちとはどう出逢うのか。またどう分析するのか。この疑問について一助となるのが本書で、前者については序章 (犬歩当棒記)、後者については本編がそのサンプルとなろう (やや特殊ではあるが)。本編は、私が2000年4月に東京大学史料编纂所に勤務を始めて以来、様々な機会に、様々な場所で、偶然出逢った室町?戦国?織豊期の史料たちについて、その都度、それぞれの史料から「わかったこと」を書いてきた文章をまとめたものである。本書を『邂逅』と名付けた所以である。また序文を「犬歩当棒記」とした理由だが、『日本国語大辞典 (第二版)』で「犬も歩けば棒に当たる」の項目をみると、二番目に、「なにかやっているうちには、思いがけない幸運に会うこともあるものだ、また、才能のない者でも、数やるうちにはうまいことに行きあたることがあるの意にいう。」とあり、これが本書の全てを言い表してくれているからである。すなわち、偶然?たまたま?運良く出逢うことのできた史料たちに書かれていることを読解?分析し、それまで知られていなかった事実 (と思われるもの) を浮かび上がらせること、紹介すること、そして史料自体の面白さを伝えることが本書刊行の最大の眼目である。したがって、特定の対象?テーマを深く追求したものではなく、また、確固たる見通しのもとに、主張したい「何か」があって記された書物とは自ずとその性格を異にする。そこに予定調和は存在しない。この点あらかじめお断わりしておきたい。かつて、個人の主義主張や理想を投影したものこそが歴史叙述とされていた時代があった。しかし現在そのような著作は学問的業績として扱われることはない。学問としての歴史を志す方々には、まずこの点を最初に認識していただきたい。
日本中世史、しかも后期という狭い分野に限ったものではあるが、一つのモノグラフとして読んでいただければ、当分野を、史料をもとに探求していくことの醍醐味が味わえると考えている。
(紹介文執筆者: 史料编纂所 准教授 村井 祐樹 / 2024)
本の目次
【本编】
第一章 南北朝期室町幕府における将军足利义満の水论裁定――湖东の一用水相论から/附?柿御园山上郷用水沙汰记録
〔附録〕柿御园山上郷用水沙汰记録 翻刻
第二章 戦国期における六角氏と小笠原氏との関係について――成簣堂文庫蔵「小笠原文書」より
第三章 「管領」就任降の六角定頼――当時天下の執権
第四章 三好にまつわる諸々事――『戦国遺文 三好氏編』より
第五章 松永弾正再考――京都におけるその勢威
第六章 幻の信長上洛作戦――出せなかった書状/新出「米田文書」の紹介をかねて
〔附録滨〕针薬方?独见集 写真と翻刻
〔附録滨滨〕针薬方?独见集纸背文书 写真と翻刻
補論一 織田政権期の播磨国人間嶋氏の文書
第七章 秀吉の報?連?相――中国攻めをめぐって
〔花押集〕
補論二 本能寺の変直後における秀吉の預物対策
第八章 戦国期湯原氏の動向について――地方武士の苦闘/「湯原家文書」原本による分析
第九章 毛利輝元と吉川家――三本の矢その後
補論三 初期秀吉政権と材木
補論四 堅田文書に遺る秀吉関係書状二通
【附编】
附編一 『戦国遺文 佐々木六角氏編』続補遺
附編二 戦国時代佐々木六角氏関係記録史料集 (稿) 補遺
関连情报
「秀吉の書状がネットオークションに… “失われゆく古文書”」 (NHKオンライン 2024年11月2日)
「「秀吉の新史料」か?ヤフオクに」 (文藝春秋ウェブサイト 2024年5月9日)
「【新発見】秀吉の押しの強さ物語る手紙見つかる 三木合戦などに関する35通 兵庫県立歴博で4月公開」 (ラジトピ 2024年2月8日)
「秀吉の自己顕示欲くっきり お手柄アピールに信長側近から返事」 (『毎日新聞』 2024年2月8日)
「別所長治、信長方から離反の理由は… 三木合戦の新史料発見 「上司にアピール」秀吉の弁明手紙も 姫路で展示へ」 (神戸新聞NEXT 2024年2月8日)
「羽柴秀吉は承認欲求強め?功績自慢の「一斉メール」うかがえる新史料」 (朝日新聞デジタル 2024年2月8日)
「「六角定頼」最初の天下人 信長?秀吉?家康より先に滋賀で権勢 「天下」の範囲見直し進む」 (『中日新聞』 2023年11月18日)
関连展示:
「新史料発見 三木合戦と羽柴秀吉」 (兵庫県立歴史博物館 2024年4月6日~2024年7月7日)