高雄山神护寺文书集成
本書の概要を一言で述べれば、神護寺という寺院に伝わった古代?中世の文書 (もんじょ) および記録をまとめた史料集ということになる。ここで、「伝わった」と言い、「伝わっている」と言わないところが重要である。
京都の北西に位置し、紅葉の名所として知られる高雄山神護寺は、真言宗の寺院としておよそ1200年の歴史を有する。同寺は、平安時代末期および戦国時代に複数度の火難に遭ったものの、空海自筆の『灌顶暦名』や伝源頼朝像をはじめとして、教科書などで目にするような文化財をいまなお多数伝えている。毎年5月の連休には、普段は国立博物館に寄託されてある国宝?重要文化財までもが寺内に里帰りをはたし、曝凉 (虫払い) を兼ねて一般に公開されるので、機会があれば、ぜひ新緑の神護寺の風致ともども味わってもらいたい。
曝凉される文化財のなかには、『神護寺文書』の名で重要文化財に指定されている院政期から室町時代にかけての文書 (巻子23軸と掛け軸1幅に整理されている) があり、その大部分 (19軸?1幅。274通) は、すでに1940年代に学術雑誌『史林』誌上で活字化がなされている。にもかかわらず、今回あらためて神護寺にかかわる文書をまとめて史料集を編んだのだから、当然そこには新機軸がある。
本書では、おおむね16世紀までを対象に、『神護寺文書』(23軸?1幅) をはじめ現在も神護寺に伝わっている文書だけではなく、かつて同寺に伝わり、現在は他所にのこされている文書、さらには、文書を出した側がのこした控えなどから、神護寺に充てられたことが知られる文書までを探索収集し、かつて神護寺に伝わったであろう文書を能う限り集めてまとめている。そこで、すでに活字化されている『神護寺文書』と区別し、集めてまとめたことが分かるようにという意図をこめて、『高雄山神护寺文书集成』という書名とした。このような編集方針は、個々の文書が持っている情報量は必ずしも多くないが、旧蔵文書をまとめることで、個々の文書の理解が変化ないし深化する場合は少なくないという認識にもとづくものである。
本书に収めた文书496通のうち、现在も神护寺に伝わっている文书は302通で、旧蔵文书が194通ということになる。神护寺に限らず、现在まで长い时间を経て伝わっている古代?中世の文书は、必ずしもすべてが本来伝わった场所にのこされているわけではない。すでに同时代から、寺院间での僧侣の移动にともない文书が移动する场合があった。さらに、文书が现用としての意味を失うと、早くは江戸时代のうちから、好古の対象として、时には再生纸の材料として寺外に流出することが少なくなかった。明治以降の大きな社会変动も移动を后押しした。博物馆や个人コレクターの所有する文书の多くは、本来のかたまりからはぐれてしまったものなのである。
旧蔵文书を探し出し、かつて存在した文书のかたまりを復元する试みは、完成形が不明で、失われたピースも多数あるジグソーパズルを组み立てるような作业だといえる。それゆえ、本书を手かがかりに新たなピースを探し、かつての神护寺文书の復元を続ける営みは、本书の読者に开かれているのである。
(紹介文執筆者: 史料编纂所 准教授 末柄 豊 / 2018)
本の目次
例言
灌顶暦名
文书篇
记録篇
解题
花押集
寺外流出文书?记録所蔵者别索引
神护寺所蔵文书?记録目録