大日本古记録 陽明文庫本 勘例 (上?下)
陽明文庫本『勘例』は、五摂家の筆頭である近衞家の文化財を保存する陽明文庫 (公益財団法人) に所蔵される古文書?古典籍類のひとつで、もとは一組であった七巻の総称です。「勘例」自体は一般名詞で、上位者の諮問に応じ、朝廷の行事やその日取り、位階?官職の補任などの先例を調査して報告することであり、その結果が記された文書をも指します。陽明文庫本『勘例』は、こうした「勘例」を集めて分類整理した書物で、勘例集として大きな規模のものです。ただ江戸時代に写本?刊本として広まることがなく、本所で出版してきた『大日本史料』や、あるいは自治体史の史料編で引用される程度で、全体像が知られない幻の史料といった状態が続いていました。
しかしながら、本所の図書室では、マイクロフィルム撮影による写真帳が閲覧に供され、さらにデジタル画像の端末閲覧 (京都府立京都学?歴彩館でも公開) も可能となり、田島公編『禁裏?公家文庫研究』四 (思文閣出版、2012年) には内容目録が掲載され、そうした段階からは脱しています。とはいえ原文を簡単に参照できないことは否めず、『大日本古记録 陽明文庫本 勘例』上?下は、この陽明文庫本『勘例』の全文翻刻 (活字化) であり、傍注や欄外注を加えて理解の参考とし、索引を附載して目当ての人物等に当れるようにしました。今後は、平安時代から鎌倉?南北朝時代の、特に貴族社会に関する研究において、一定の位置を占める史料として利用が進むでしょう。
内容面では、今までの認識を覆すような記述が含まれるというよりも、いたって地味な箇条書きが続きます。さしあたり分かりやすいところでは、平安時代前期までの六国史の時期で本文が失われた年代の出来事や人物の履歴、律令や公家日記の逸文 (もとの書物は散逸し、引用された断片として知られる記文) などがあります。また、すでに紹介されていますが、鎌倉時代における官職売買 (成功) の基準額を列挙した箇所は興味を呼ぶでしょう。官職を得た武士には、平清盛の家人なども見えます。
史料集の刊行自体に研究の側面があり、望むらくは準備段階で気づいておればという点もあります。その最たるものは、原書名です。膨大な陽明文庫所蔵史料の一枚物の中には、「類聚雑例」なる巻子本の表紙が残されています。その裏面 (見返し) に書かれた項目の列挙は、陽明文庫本『勘例』と対応し、原表紙と認定できました (補遺として下册に収録)。これにより、実務官人の中原家で代々増補されていた「雑例」という書物が本史料の根幹という見通しが得られ、構成要素の重層的な性格も浮かびあがってきました。
短文でさほど複雑でない記事が羅列される史料ながら、孫引きされた文章や編集作業の度合いの見極めなど、扱いには手管を要します。吟味検討の力量を備えた研究者による利用が進むことで、史料としての理解も深まります。全文翻刻の刊行は、研究がスタート地点に至ったという側面もあります。より詳しくは、『史料编纂所報』53?58の出版物報告、さらに本書附載の解題を手がかりとして、史料原文をご参照ください。
*绍介文公开日:2024年5月22日
(紹介文執筆者: 史料编纂所 准教授 藤原 重雄 / 2023)
本の目次
『勘例 御薬?朝賀?小朝拝』 〔第13函18号〕
『勘例 拝礼?列立等之事』 〔第14函83号〕
『勘例 始終位階越階等之例』 〔第13函17号〕
『勘例 賭弓之事』 〔第13函16号〕
下册
『除目旧例』 〔第13函21号〕
『勘例 自前大納言任大臣以下諸叙任例』 〔第13函19号〕
『勘例 納言以下諸例』 〔第13函20号〕
&苍产蝉辫;本文补遗
&苍产蝉辫;附録
解題
補訂表
索引 (人名?地名?書名)
関连情报
大日本古记録 陽明文庫本 勘例 下巻 (発行年月日:2023年3月28日)
大日本古记録 既刊行書目一覧
自着解説:
出版報告『大日本古记録 陽明文庫本 勘例 上』 (『東京大学史料编纂所報』第53号 pp. 56-60 2018年10月)
出版報告『大日本古记録 陽明文庫本 勘例 下』 (『東京大学史料编纂所報』第58号 pp. 47-49 2023年10月)
新刊绍介:
鈴木蒼 (『史学雑誌』132編第12号 pp. 56-57 2023年)