ミャンマー 「民主化」を問い直す ポピュリズムを越えて
一般の人々が知ろうとした時、ミャンマーほどわかりにくい国はないのではないか? 民主主義のヒーローだったはずのアウンサンスーチーは、数十年の軟禁生活を経て突然政権を奪取したかと思えば、2017年のロヒンギャ危機では権威主義者としての烙印を押された。そして2021年の国軍によるクーデターを経て、今は再び囚われの身となっている。マスメディアに散発的に情報が出るものの、その都度「見せる顔」が異なり捉え所がない。
本書は、基礎的な社会科学、ミャンマーに関する (主に日本における) 重厚な地域研究、および統計資料や現地新聞などの一次資料を土台とした一般書である。5年間スーチーNLD政権に入り込んだ経験を元に幅広い知見を統合し、本書前半ではクーデターに至った経済、社会、政治の背景を説明する。具体的には民族間での経済格差と再分配政策の不在、周期的なナショナリズム高揚の最新版としてのロヒンギャ危機、スーチーNLDの対国軍の態度硬直化 (ポピュリズム) という流れを説明する。その上で、本質的課題として「不完全な国民国家における『国民 (nation)』の不在」を指摘する。
筆者は、スーチーNLD政権における中央経済員会 (自民党「政務調査会」に相当) 内において「国民不在」の問題意識から“Energy for Peace” イニシアチブを主導した。具体的には、経済格差解消のための村落開発基金の根拠法となる「村落開発法」の立法に関与した。本書後半では、内側から見た立法過程を「私」目線のルポとして記録する。さらに、この法律自体の概説、それを用いた具体的な改革案を示す。一例を挙げると、農村電化に必要な試算額、基金の財源調達案としての揮発油税の規模?導入可能性、また基金管理における外部監査の導入などである。
このような具体的な政策提言に鑑みて、本书の想定読者には援助関係者や政策関係者が含まれる。また、ミャンマー政治や経済を学びたい人には概説としてその前半部は适当であり、后半部の「ルポ」の生々しさに兴奋する若い学徒もいることだろう。読者の多様な兴味に応じて拾い読みできるように、各章の构成は工夫されている。
とはいえ、主たる想定読者层は、都度の事象を目の前に、捉え所のないミャンマーを知ろうとする一般の人々である。ミャンマーは中国とインドに挟まれた地政学的要衝にある。彼我を切り分け内戦が长引く中で、脆弱な国民国家は失败国家へと転げ落ちる盖然性がある。干渉国の国力が低下し、地域秩序が不安定になる时、様々な地政学的リスクが悬念される。少数民族を尖兵として中国とインドが事実上の武力衝突をミャンマーで繰り広げるかもしれない。覇権主义をますます强める中国を背景に、このような地政学的リスクが今后増すことに鑑みると、ミャンマーを知ろうとする人の层は、ミャンマー一国だけではなくインド太平洋の地域秩序を知ろうとする人の层に拡大することも考えられる。
踏まえて、本书では国民国家ミャンマーを论じた。一般読者层がインド?太平洋の地政を案じてミャンマーに兴味が向いた时、振り返られるべき书になることを期待したい。
(紹介文執筆者: 公共政策大学院 特任講師 山口 健介 / 2023)
本の目次
第一章 「豊かな社会」の貧困と格差――なぜ「再分配」が」必要か
第二章 「民主化」はなぜクーデターを招いたか――ポピュリズムへの道
第叁章 前近代的な権力构造――亲分?子分関係をいかに解体するか
第四章 「政治」と「行政」のあいだ――国づくりの実践に関与する
第五章 法律をもとに社会をつくる――基金?运用?财源と「改革」のために
終章 「新しいナショナリズム」から国民統合へ
関连情报
「アウンサンスーチー、ロヒンギャ、クーデター……なぜミャンマーはニュースが多いのか? 深層にある問題の解決策を示す」 (本がひらく|狈贬碍出版公式note 2022年5月26日)