Springer Briefs in Economics: Development Bank of Japan Research Series Rationality and Operators The Formal Structure of Preferences
人間は、どのような場合に「合理的」と言えるのでしょうか。本書は、社会科学や価値理論にとって本質的問題とも言える「合理性」と「選択」に関わっています。人間にとって、選択の結果として起こる状態 (事態) を比較するためには、価値や選好が必要となります。ものごとを比較する分析的ツールのうち最も強力で一般的なものは、「二項関係」と呼ばれるものです。二項関係は、二つのものがどのような関係にあるかということを、おおよそいかなるものでも数学的に表現することを可能にします。二項関係の典型的なものは選好関係であり、それを「状態Xが状態Yよりも好ましい」といった形で形式的に考えることができます。他にも、所有関係や家族関係などの社会的関係も二項関係で捉えることができます。
いったん選好 / 望ましさを二項関係で表してしまえば、合理性をより効果的に理解することが可能になります。例えば、二項関係に対する推移性の要請は次のようなものになります。それは「状態Xが状態Yよりも望ましく、状態Yが状態Zよりも望ましいならば、状態Xは状態Zよりも望ましい」というものです。この推移性は合理性の要請の一つと見ることができます。推移性以外にも合理性のさまざまな概念を、二項関係によって構成することができます。また、選択というものは、可能な状態の中での最も望ましいものを与える選択肢として理解することができます。これは「どちらの方がより望ましいか」という問題と「何が良いか」という問題の間に対応関係を作ることを意味しています。
本書はさまざまな二項関係の性質に対して、操作子 (オペレーター) を用いて一貫した表現を与えることから出発しています。操作子とは、一つないしは複数の二項関係に対して、何らかの二項関係を与えるような写像です。二項関係上にさまざまな操作子を定義し、その分析を行うという作業を通じて、社会科学や価値理論において、選好 / 望ましさがどのような意味合いを持ち、どのような限界があるのかということを理解できます。個人の価値と社会の価値 (あるいは道徳的価値) のつながりといった問題に取り組むためにもこうした作業は不可欠なように思えます。本書のアプローチに従い合理性と規範性の形式的な分析をすることで、社会科学と価値理論 / 倫理学がどのように組み合わさっていくのか、ということが少しでも明らかになることを望んでいます。
(紹介文執筆者: 社会科学研究所 准教授 加藤 晋 / 2023)
本の目次
Introduction, Pages 1-10
Preferences and Operators, Pages 11-34
Rationality and Operators, Pages 35-68
Operations Over the Set of Binary Relations, Pages 69-88
Application to Welfare Economics, Pages 89-109
Conclusion: Beyond Ordinal Operators, Pages 111-119
Back Matter, Pages 121-124
関连情报
Gianni Bosi 評 (Mathematical Reviews 2019年7月)