反転する环境国家 「持続可能性」の罠をこえて
大学院时代にタイの奥地でフィールドワークをしているときに、先进诸国や后発诸国の都市部では明らかに「良いこと」とされる热帯林保护政策が、地元住民を苦しめている様子を目撃しました。国家による森林の囲い込みによって、农民の生活范囲と使える资源が大きく制约されていたのです。それでも森林减少は止まらず、政府の森林局がますます强大化していることも不思议に思えました。
本書では、反対のしにくい「環境保護」の大義の下、地域の人々の生活が国家の枠組みに翻弄されて、人々と自然環境との関係がかえって悪化していくことを「反転」と呼びます。そして、後発諸国は立派な環境保護の制度をもっているのに、なぜ実効性が伴わないのか。国家による環境政策は、(環境そのものではなく) 人間社会に何をもたらしているのか。環境にやさしいはずの政策が、いつしか反転して地域住民を苦しめることがあるのはなぜなのか、を問うていきます。
具体的な反転の事例として検讨するのは、インドネシアの灌漑用水、タイの共有林、カンボジアの渔业资源管理です。これらの国々では、「コミュニティー资源管理」のスローガンで、一见すると资源管理の権能が地域社会に委譲されているようにみえますが、実际には、人々の国家への依存は益々深まっています。総论において「环境を守ること」に反対する人は少なく、环境政策の悪影响を受ける人がいたとしても、奥地に暮らす政治的弱者である场合が多いため、私たちの多くは「反転」への気づくことすらありません。
身の周りの天然资源に依存しながら暮らす后発诸国の人々にとって、谁が资源を支配するか死活问题です。それは、环境への配虑や経済効率という面からだけ议论されるべきテーマではなく、権力や政治という観点から取り上げなくてはならない课题です。环境政策の评価は、「水や大気はきれいになったか。森は増えたか」という観点からのみ行うのではなく、「环境政策は人に何をしたか」という観点が必要です。
反転のメカニズムは何なのでしょう。一つは、後発国の発展プロセスが急激であるために、開発を優先した時代の発想や考え方が、環境の時代になってもそのまま受け継がれているということがあります。あるいは、「個人の解放」に力点をおく経済発展のプロセスで、国家権力への抵抗の礎になるはずの様々な中間的集団 (地縁集団、民族集団など) が弱体化したことも考えられます。権限の集中化した開発国家が環境政策を強く打ち出すようになる過程に問題があるというのが本書の見立てです。環境政策は必要ですが、それが国家と社会の関係をどのように変化させてきたかを問わなくてはなりません。
本书では、现状分析にとどまらず、「どうすればよいかのか」という政策论にも积极的に踏み込みます。とくに终戦后から高度経済成长に至る过程で生み出された日本产のアイディア―公害原论、文明の生态史観、资源论―に注目して、「反転」を食い止めるためのヒントを探ります。経済成长にまい进していた时代の日本には、いまの后発国に活用すべ教训が多く眠っています。いわゆる「环境本」に饱きた方、いま流行りの厂顿骋蝉はどこか违うな、と思っておられる皆様に、ぜひ本书を手にとっていただければと思います。
(紹介文執筆者: 东洋文化研究所 教授 佐藤 仁 / 2019)
本の目次
序 章 环境国家の到来
1 21世纪の「宣教师」
2 「反転する环境国家」とは何か
3 连锁する反転
4 反転をくい止める力
第滨部 环境国家をどう见るか
第1章 「問題」のフレーミング—— 環境国家の論理基盤
1 マレーシアの森を壊したのは谁か?
2 ヒマラヤの森林にひそむ不确実性
3 フレーミングの基本パターン —— 境界線の綱引き
4 フレーミングと环境国家
第2章 環境を介した人間の支配 —— 環境国家のメカニズム
1 环境国家による色づけ
2 国家による统治领域の拡张
3 「人間支配」のメカニズム
4 支配を媒介する自然环境
第3章 包摂と排除—— 初期環境国家の形成過程
1 环境国家のはじまり
2 なぜ日本とシャムを较べるのか
3 日本における包摂的な集権化
4 シャムにおける排他的な集権化
5 シャムと日本の比較 —— 変わる国家?社会関係
6 包摂と排除を分けたもの
第滨滨部 环境国家とアジアの人々
第4章 維持への力—— インドネシアの灌漑施設と地域社会
1 维持への强制が呼び込む「反転」
2 热帯アジアの灌漑事业
3 国家権力の诸侧面
4 国家関与の诸次元
5 地域に迎え入れられる権力
第5章 備える力 —— タイにおける共有地と自然災害
1 共有地という备え
2 タイの土地问题
3 津波被灾と反転する灾害支援
4 国家をかわす
5 先见的国家に备える
第6章 手放す力 —— カンボジアの漁業と利権放棄
1 动き回る资源の囲い込み
2 カンボジアにおける渔业と政治
3 政府はなぜ渔区を手放したのか
4 反転する「地域への権限委譲」
第滨滨滨部 反転をくい止める日本の知
第7章 文明の生態史観 —— 京都学派と「下からの」環境国家論
1 京都学派と「下からの」国家论
2 生态学的脱国家论
3 国家が嫌う人々、国家を嫌う人々 —— スコットのゾミア論
4 東西の脱国家論比較 —— スコットと京都学派の共鳴
5 环境国家论との関係
第8章 公害原論 —— 被害に寄りそう認識論
1 公害原论とは何だったのか
2 环境国家と特権化される知
3 忘却と暗黙知の回復
4 公害原论の教训
第9章 資源論 —— 縦割りをこえた「総合」論
1 「何もしない」という反転
2 アッカーマンの挑戦
3 縦割りへの挑戦 —— 資源委員会
4 现代环境国家への教训
终 章 反転をほどく
1 再びラオスの村を考える
2 问题をつくらないために
3 环境ガバナンス论の限界
4 「良い依存関係」へ
5 想定される反论
6 手段と目的をつなぐ依存构造の解明
注
あとがき
参考文献
図表一覧
索 引
関连情报
书评:
書き手: 喜多川 進 「SDGsブームのいま、「持続可能性」を問う - 環境問題をいわゆる「環境好き」の人びとの考察対象にとどめず、統治?支配のあり方を議論するうえでの格好の素材として見出す書」 (ALL REVIEWS 2020年1月21日)
松原隆一郎 評 読書欄特集「2019 この3冊」 (毎日新聞 2019年12月15日)
喜多川進 評 (『図書新聞』第3421号 2019年11月2日号)
展示:
CLIMATE CHANGE 気候変動~それについて話すとき、わたしたちが語っていること~ (六本木ヒルズライブラリー 2020年3月25日)