贬?笔?ラヴクラフト 世界と人生に抗って
本書は、フランスの作家ミシェル?ウエルベックによる、アメリカのSFホラー作家の贬?笔?ラヴクラフトの評伝 (Michel Houellebecq, H.P.Lovecraft: Contre le monde, contre la vie) の邦訳です。著者のウエルベックは、セックス?ツーリズムを題材にした小説『プラットフォーム』(2001) をはじめとして、何作もの「問題作」を発表してきた作家で、最近では、フランスにイスラーム政権が誕生するという設定の近未来小説『服従』(2015) が話題になりました。一方で、イスラーム教に対する批判を繰り返すなど、その言動も問題含みと言える作家です。本書の原著書の初版は1991年に出版されており、ウエルベックの最初の著書となります。評伝の対象であるラヴクラフトは、多くの作品が日本语にも訳されているので、皆さんの中にも名前を聞いたことのある人、あるいは読んだことのある人もいるかもしれません。
本書の第一部は次のような言葉から始まります―「人生は苦しみと失望に満ちているものだ。したがって、あらたなリアリズム小説を書くことは無益である。現実一般についてなら、わたしたちはすでに、どれくらいのところで我慢すればいいかを知っているし、人生についてそれ以上を学ぼうという気にはほとんどなれない」。小説、ないしは文学は、人生の真実に迫り、それをいかに説得力ある形で、ないしはリアルに描き出すかが重要である―そんな考え方が文学についてのいわば「穏健な」捉え方だとすれば、ウエルベックは初手からそれとは真っ向から対立する立場を表明しています。彼によれば、そもそも「人は人生を愛しているときには読書はしない」のであり、「芸术の世界への入り口は多かれ少なかれ、人生に少しばかりうんざりしている人たちのために用意されている」のです。そんな出発点から、ウエルベックの記述は人生において「いつも敗者を演じ続け」つつ、驚異的な想像力で悪夢の世界、人智を超えた怪物たちの住まう神話的世界を構築してゆくラヴクラフトの創造の秘密を辿ってゆきます。
このようなウエルベックの構えについては、異論を抱く読者も多いかもしれません。本書に序文を寄せているスティーヴン?キングも、「人生」は本当に「苦しみと失望に満ちているもの」なのか、ウエルベックが言うようにラヴクラフトは本当に「セックスに無関心で、フロイトを退けている」のだろうか、と自問しています。それにそもそも、評伝形式の本書自体がラヴクラフトの「人生」をも描き出している、という逆説を見て取ることもできるかもしれません。ただ、そんなことも含めて、本書は芸术と「人生」、あるいは「世界」との関係を再考するための多くの―ときには挑発的な―切り口を提供していると言えるでしょう。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 教授 星埜 守之 / 2019)
本の目次
序
第一部 もう一つの世界
仪礼としての文学
第二部 攻撃の技术
晴れやかな自杀のように物语を始めよ
臆することなく人生に大いなる否を宣告せよ
そのとき、大伽蓝の伟容が见えるだろう
そしてあなたの五感、いわく言い难い错乱のベクトルは
完全な狂気の図式を描きだすだろう
それは时间の名づけ难い构造のなかに迷い込むだろう
第叁部 ホロコースト
反伝记
ニューヨークの衝撃
人种的憎悪
わたしたちはハワード?フィリップス?ラヴクラフトから魂を生贄にするすべを
いかに学ぶことができるのか
世界と人生に抗って
読书案内
訳者あとがき
関连情报
大野英士 評 「20世紀文学史の見直しを迫る」 (『ふらんす』2018年4月号)
世界一センセーショナルな作家の“処女小説” (日刊ゲンダイDIGITAL 2018年2月3日)
東 雅夫 (アンソロジスト、文芸評論家) 評 ラヴクラフトへの「知的な恋文」 (週刊読書人ウェブ 2018年1月27日)
土方正志 (出版社「荒蝦夷」代表) 評 (読売新聞オンライン 2018年1月15日)
&濒诲辩耻辞;しなやかな社会をつくる&谤诲辩耻辞;メディア「鲍狈尝贰础厂贬」编集部が选ぶ今年の一册 (鲍狈尝贰础厂贬 2018年12月28日)