新潮新书 决定版 日中戦争
本書は、2006年から2010年までおこなわれた日中歴史共同研究のメンバー (波多野、戸部、庄司の各先生、および川島) に、日本財政史の松元崇先生を加えて実施された研究会の成果である。日中戦争史研究は、2010年代も一層進展してきた。日本史研究は従来以上に精緻になるとともに、中国史研究では蔣介石日記を始めとする新たな史料の利用が進み、かつ欧米史研究などグローバルな観点から日中戦争史研究を捉える傾向が強まった。他方で、政治外交史や軍事史だけでなく、宣伝、心理、さらに財政、経済、送金、そして留学生、文化交流など多元的な研究が展開してきた。これらの論点を可能な限り包括的に議論すべく共同研究を進め、この共同研究が一段落した段階で書籍化の話が出た。そして、2018年2月には日本国際問題研究所にて執筆者メンバーを報告者、北海道大学の岩谷將教授をディスカッサントとした日中戦争史セミナーを開催し、書籍化への基礎とした。
本书の特徴は叁点あろう。第一に、日中戦争史のプロセスが政治、军事过程として実証的に描かれている点である。歴史认识问题が多く议论される中で、史料に基づく実証研究が最も説得力を持つ。この点は、波多野、戸部両先生の担当された各章に见られるだろう。第二に、财政史の観点が取り入れられたことだ。戦争と财政という课题は极めて重要であるが、従来、必ずしも十分に検讨されてきたわけではない。大蔵省、财务省勤务の経験を有する松本崇先生の分析は、これまで学界では指摘されてこなかった视点を提供する。第叁に、国际的な観点からの日中戦争という観点が取り入れられている点だ。庄司先生の担当された章にはドイツ、あるいはより広い国际的な観点が示されている。この点について言えば、川岛の担当した各章、つまり中国の视点を示した部分も该当するだろう。
他方、川島の担当した章には傀儡政権に関する内容も含まれている。日中戦争は「戦争」と言いながら、宣戦布告を伴う戦争ではなかった。1941年12月9日に重慶の国民政府が日本に宣戦布告をしても、日本側は宣戦布告をしていない。それは南京の国民政府 (汪精衛政権) を承認していたからだ。満洲国も含めて、そうした傀儡政権はなぜ必要とされ、そして何をしていたのか、ということもまた重要な論点である。
「决定版」というのは编集部がつけたタイトルで、执笔者の考え方ではない。このような新书が「决定版」にはなり得ないし、歴史研究の世界に「决定版」などというものは存在しないだろう。だが、本书が多くの読者の目に触れることで日中戦争がどのような戦争であり、研究によって何がどこまで明らかになってきているのかということを社会に伝えることができれば幸甚である。
歴史认识问题が大きな课题となる现在、国际社会で活动する人々には、自らの育った国や地域の歴史について説明し、同时に自らとは异なる歴史観を许容し、时には客観的に议论できる资质も求められる。そうした侧面でも本书がもし社会や教育现场で役立つことがあればと愿ってやまない。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 教授 川島 真 / 2019)
本の目次
第一部 戦争の発起と展开
第一章 日中戦争への道程
张作霖爆杀/石原莞尔の构想/満洲事変の拡大/独立国家案/犬养首相の和平工作/犬养构想の挫折/リットン报告书/不抵抗方针/国际连盟脱退/日中関係安定化の模索
第二章 日中戦争の発端
梅津?何応钦协定/华北分离工作/衝突事件の频発/绥远事件と西安事件/対中政策の再検讨/卢沟桥事件とその后のエスカレーション/和平の试み/船津工作/第二次上海事変
第叁章 上海戦と南京事件
日中戦争勃発前の陆海军の构想?计画/一方、国民政府も「受けて立つマインド」に/海军は不拡大方针ながらも全面戦争に备える/空军に自信を持った蒋介石の対応/陆军も不拡大方针を放弃/海军航空部队による爆撃/蒋介石の上海への固执/进撃する陆军、追认する指导部/南京陥落/南京事件/日中双方の过信と误り
第四章 南京/重庆国民政府の抗日戦争
国民政府という呼び方/国民政府、抗戦开始/蒋介石も认识していた农村の重要性/国民参政会と共产党/武汉陥落と重庆への移动/さまざまな和平工作/国防最高委员会の设置と総力戦/国民政府の四川省依存と重庆空袭/日本の仏印进驻と宣伝戦/中国共产党の抗日根拠地/太平洋戦争の勃発と日中戦争
第二部 戦争の広がり
第五章 第二次上海事変と国际メディア
当初は日本にも好意的だった国际世论/圧倒的な効果をあげた「悲惨な写真」/アイコン化した蒋介石夫妻/内阁情报部、「写真报道事业」に着手するも&丑别濒濒颈辫;&丑别濒濒颈辫;/米国世论は中国支持が圧倒的/宣伝巧者の中国/日本が宣伝戦に失败した要因/活かされなかった近卫の提言
第六章 「傀儡」政権とは何か――汪精卫政権を中心に
中国では「偽」政権と呼ばれる「傀儡」政権/対日协力者は中国では「里切り者」とされる/映画「万世流芳」の世界/満洲国建国の论理/「傀儡」性をめぐって/満洲国に関わる中国人/华北の自立性と南京国民政府/冀东防共自治政府と冀察政务委员会/叁つの対日协力政権/汪精卫の「脱出」/汪精卫政権の成立/汪精卫政権の宣戦布告/华侨问题/「傀儡」政権の存在意义
第七章 経済财政面から见た日中戦争
金解禁不况と満洲事変/高桥财政の时代/国内経済を犠牲にしての満洲の発展/东京ラプソディー/失われた军への抑制机能/経済的な败戦/予算?金融统制の有名无実化/対英米协调路线の破绽/误った情势判断と対英米开戦
第三部 戦争の収拾
第八章 日中戦争と日米交渉――事変の「解决」とは?
「国际的解决」か「局地的解决」か/内向化していく东亜新秩序构想/「局地的解决」构想の后退/「日米谅解案」と日中和平条件/アメリカの回答と顶上会谈构想/日支和平基础条件/ハル覚书の衝撃/「甲案」「乙案」と日中和平问题/ハル?ノートの「国际的解决」构想と日本/仮に「日中直接交渉」が実现していたら&丑别濒濒颈辫;&丑别濒濒颈辫;
第九章 カイロ宣言と戦后构想
戦后国际秩序の形成/蒋介石の「算盘」/カイロ会谈/カイロ宣言の内容/カイロ宣言の「重要性」/カイロ宣言と歴史研究
第一〇章 终戦と日中戦争の収拾
「负けた気がしない」败戦/歴史の颈蹿―ポツダム宣言の受诺を拒否し、戦争を継続していたら/分离された日米戦争と日中戦争/武装解除をめぐる駆け引き―支那派遣军?国民党军?中共军/国民政府军と日本军の接近/中ソ友好同盟条约と中共の方针転换/復员?引扬げ―送还计画の迷走/居留民の「现地定住」方针と挫折/「留用」とその波纹/山西の日本军/「以徳报怨」の波纹
日中戦争関连年表
参考文献
関连情报
板谷敏彦 (作家) 評 これまで多くを語られることのなかった“歴史”を平易に解説 (『週刊新潮』 2019年1月17日迎春増大号)
ブックレビュー (朝云新闻社 2018年)
『讀賣新聞』書評 2018年11月19日