森林科学シリーズ 12巻 [全13巻] 森林と文化 森とともに生きる民俗知のゆくえ
「森林と文化」を主题に掲げた本书は、森林科学シリーズの1册として编まれた。「森林科学」という枠组みの中で、文化を取り上げることは场违いに思われるかもしれない。しかし、森林のありさまを理解しようとする科学を「森林科学」とするならば、人间文化はその基础的视座の一つとして置かれるべきものだろう。というのも、现実の森林のありさまは、そのほとんどが人间活动の影响を受けた结果としてのものであり、その人间活动を根底で规定しているのが文化だからである。
とはいえ、文化の定義はあいまいで、人によって捉え方が大きく異なることもある。そこで本書では、人々の「知」に焦点を定めて森林に関わる文化を読み解こうと試みた。人間が生み出した「知」には、私たち大学にいる人間が日常的に接する図書やデータの形で蓄積されたものや技术も含まれるが、特に表立って蓄積されないが、経験や語りを通じて継承されてきた知識や手わざもある。森と暮らす人々の「知」(本書では「民俗知」と表現した)は、多分に後者の性格を持つ。前者を「外装」された知だとすれば、後者は「内装」された知であると特徴付けることができる。
この「内装」された知は、人々が森とともに暮らすにあたり、実に大きな役割を果たしてきた。例えば、あるものを暮らしに有用なものであると见出し、それを获得する技を繰り出し、同时に、取りすぎを抑制するためのしきたりに従う。こうした営みは、すべて「内装」された知がなせるわざである。しかし、この「内装」された知はいま、大きな転换期にある。多くの地域で民俗知は、近代的な「外装」された知の前に无用なものと烙印を押され、または、衰退する山村の営みとともに消え失せようとしている。その一方で、その意义を见出し、环境保全や地域振兴の文脉で「活用」する动きも目立つようになってきた。本书では、世界の寒帯から热帯にいたる各地の森林地帯でフィールド研究を行ってきた研究者(森林科学のみならず、文化人类学?民俗学を専攻する者)が、森林をめぐる民俗知の実像をつぶさに描き、その移ろいを论じる。
本書は、森林や自然環境について学ぼうとしている人はもちろん、科学あるいは学問に携わる人にも広く読んでいただければありがたいと思っている。というのも、自らが身を置く科学?学問界の知のあり方を内省する機会にもなりうると考えているからだ。科学技术、つまり「外装」された知が極度に発達してきた現代社会において、本書は「内装」された知の存在意義を確かめる機会になるだろう。本書が文化の視点から森林のありさまを、そしてまた人間社会の自然環境との付き合い方や人間社会における知のあり方を考える糸口となれば幸いである。
(紹介文執筆者: 农学生命科学研究科?农学部 助教 齋藤 暖生 / 2019)
本の目次
はじめに
1.1 森林との関わりとしての文化と知识
1.2 民俗知に注目する意义
1.3 民俗知から森林文化论へのアプローチ
1.4 本巻の构成
【第1部 民俗知を知る:热帯と冷帯に暮らす森の民の事例から】
第2章 民俗知と科学知:カメルーンの狩猟採集民バカの民俗知はどのように语られてきたか
はじめに
2.1 民俗知はどのように语られてきたか
2.1.1 エスノサイエンス研究と民俗知
2.1.2 民俗知と科学知
2.1.3 民俗知は生态系の保全に役立つのか
2.2 狩猟採集民バカ
2.2.1 アフリカの热帯雨林とピグミー系の狩猟採集民
2.2.2 调査地の概要
2.3 バカの民俗知
2.3.1 バカの植物知识の概要
2.3.2 植物知识の多様性
2.3.3 知识の创造性と状况依存性
2.4 バカの民俗知はどのように语られてきたか
2.4.1 カメルーンの森の现在
2.4.2 先住民运动と参加型マッピング
2.4.3 非木材之b物 (NTFP) の開発
おわりに
第3章 森林环境问题と住民の森林観:なぜプナンは森林を守るのか
はじめに
3.1 森林环境问题と民俗知
3.1.1 森林とくに热帯林问题
3.1.2 热帯林问题の原因と背景
3.1.3 热帯林问题への対策と関係者の重层性
3.1.4 住民と民俗知の位置づけ
3.2 ボルネオ热帯雨林と住民
3.2.1 ボルネオの概略:森林?人?开発?保全
3.2.2 狩猟採集民と森林
3.2.3 农耕民と森林
3.2.4 开発?保全と狩猟採集民?农耕民
3.3 プナンによる伐採反対运动
3.3.1 プナンが守り抜いた森林
3.3.2 プナンが商业伐採に反対する理由
3.3.3 狈骋翱の役割
3.3.4 民族间関係
おわりに
第4章 热帯林ガバナンスの「进展」と民俗知
はじめに
4.1 热帯林ガバナンスの「进展」
4.1.1 保护地域の协働管理
4.1.2 纸?パルプ公司の「自主的取り组み」
4.2 森とともに生きてきた人びとの暮らしと民俗知の现在
4.2.1 国立公园に隣接するセラム岛础村の事例
4.2.2 产业造林地に囲まれたジャンビ州L村の事例
4.3 统治のための新たな装置
4.3.1 方向づけられた「协议」
4.3.2 无効化される知
おわりに
第5章 近代化と知识変容:カナダ先住民の「知识」をめぐる议论と実践
はじめに
5.1 北米における先住民の知识に関する议论
5.1.1 どのような知识なのか
5.1.2 ドミナント社会と知识
5.1.3 森 (ブッシュ) の全体性
5.2 カナダ先住民カスカの森 (ブッシュ) の知識と生業
5.2.1 获得の过程に见るカスカの知识の特徴
5.2.2 具体的な知识とその活用
5.3 社会の変化と「伝統的な (土着の経験的な)」知識?技术
5.3.1 様々な変化
5.3.2 伝承の问题
おわりに
【第2部 民俗知をつなぐ:国内山村の事例から】
第6章 和纸原料栽培の民俗知から见る新たな森林像
はじめに
6.1 日本の森林における共同の中の民俗知
6.2 和纸原料栽培における民俗知
6.2.1 日本文化?地域社会の核としての和纸
6.2.2 植物としての特长を活かす和纸の民俗知
6.2.3 山の自然特性を活かす民俗知
6.2.4 他の作物?生业との组み合わせを活かす
6.2.5 楽しみややりがいを生み出す
6.2.6 和纸原料を巡る民俗知とその衰退
おわりに
第7章 山を知る:森とともに生きるマタギたちの民俗知
はじめに
7.1 「生き方」としての民俗知
7.2 朝日连峰山村における山と人とのかかわり
7.2.1 雪に育まれた朝日山地の自然
7.2.2 五味沢地区における林野利用の歴史
7.2.3 近代以降の狩猟の変化
7.3 春グマ猟と山の「知识」
7.3.1 山形県における春グマ猟の法制度的位置づけ
7.3.2 五味沢地区の春グマ猟
7.3.3 春グマ猟の実例
7.3.4 山の地形?地理に関する「知识」
おわりに
第8章 ありふれた资源をめぐる民俗知:山菜?キノコをめぐる民俗知とその现代的意义
はじめに
8.1 森の食べものと山菜?キノコ
8.1.1 森がもたらす食材
8.1.2 食材としての山菜?キノコ
8.1.3 商品としての山菜?キノコ
8.1.4 稀少性の低い资源
8.2 山菜?キノコ採りにみる知识と文化
8.2.1 利用対象を选ぶ民俗知
8.2.2 採取の民俗知
8.2.3 利用过程の民俗知
8.2.4 小括:マイナー?サブシステンスとしての山菜?キノコ採り
8.3 山村の强みを活かした山菜?キノコの活用可能性
8.3.1 山菜?キノコの流通
8.3.2 长野県小谷村における山菜採りツアー
8.3.3 福井県大野市和泉地区 (旧和泉村) の特産化
おわりに
第9章 保护地域を活用した地域振兴や山村文化保全の可能性
はじめに
9.1 多様化する保护地域
9.1.1 保护地域の定义
9.1.2 地域「规制」型の保护地域から地域「活用」型の保护地域へ
9.1.3 繰り返される保护地域ブーム
9.2 保護地域を活用した产业:エコツーリズム
9.2.1 エコツーリズムの定义
9.2.2 日本におけるエコツーリズム推进
9.2.3 地域振兴の一方策としてのエコツーリズムの有効性と限界
9.3 保护地域を活用した地域振兴の动き:文化庁の动き
9.3.1 日本遗产
9.3.2 文化财保护法の改正
9.4 保护地域と地域振兴の関係性
9.5 保护地域「指定」がもたらす地域文化への影响
おわりに
【第3部 民俗知のゆくえ:まとめにかえて】
第10章 民俗知のゆくえと现代社会
はじめに
10.1 森林文化の源泉としての民俗知
10.1.1 民俗知の特质
10.1.2 森の民にとっての民俗知
10.2 民俗知の近现代
10.2.1 近代科学との対峙
10.2.2 技术の発展
10.2.3 市场経済の広がり
10.2.4 近代的法制度
10.3 民俗知への期待
10.3.1 持続的资源管理,环境保全への期待
10.3.2 地域発展への活用
10.3.3 地域文化の涵养
10.4 民俗知を「活用」する危うさ
10.4.1 切り取られる民俗知
10.4.2 単纯化がもたらす悬念
10.5 民俗知をつなぐ
10.5.1 民俗知継承の危机と课题
10.5.2 现代社会における新たな民俗知継承のあり方
10.5.3 「翻訳者」に求められること
おわりに:残された课题