犬にまつわる东大の研究
獣医外科学、动物行动学、ロボット工学、
考古学、年代测定学、法学?动物介在学、
獣医疫学、古典文学、现代文学。
9分野の先生に、犬にまつわる研究について绍介してもらいました。
犬と现代日本文学
大江健叁郎のデビュー作「奇妙な仕事」と犬
文/村上克尚
MURAKAMI Katsunao
総合文化研究科准教授
2023年3月に亡くなった大江健叁郎。商业上のデビュー作である「死者の奢り」の前に、実质上のデビュー作を発表していました。
「死者の奢り」やその后の作品にも通底する部分の多いこの作品について、戦后文学の动物表象について研究してきた村上先生が解説します。
大学病院の犬150匹を扑杀するアルバイト
1956年の冬、「东大の医学部の病院前の広い舗道」を「家庭教师とか、少し无理な勉强とかで毎日疲れきっていた」一人の学生が肩をすぼめて歩いている。「北からの风が吹きつける日にはきまって、かずしれない犬のほえ声が」闻こえてくる。「実験用の犬たち」の姿を想像し、学生は物思いにふける。年が改まり、「春になって时间の余裕と健康とをとり戻し」た学生は、「短い小説を书くプラン」を立てる。それは、叁人の学生が、専门の犬杀しの男のもと、大学病院で饲われている150匹の犬を扑杀するアルバイトをするという奇妙な物语だった。
言うまでもなく、これは后年のノーベル赏作家?大江健叁郎と、そのデビュー作「奇妙な仕事」についての话だ。「奇妙な仕事」は、1957年に五月祭赏を受赏し、『东京大学新闻』に掲载された。本作が批评家の平野谦の目に留まり、大江は学生作家として文坛に华々しい登场を饰る。
それにしても、なぜ犬だったのか。主人公は、犬たちを见て、「僕らだってそういうことになるかもしれないぞ。すっかり敌意をなくして无気力につながれている、互いに似かよって、个性をなくした、あいまいな僕ら、僕ら日本の学生」と考える。ここから、本作の犬たちは「占领下の日本の全人民のシンボル」や、「停滞にひんしている时代の青春の否定性」の象徴として解釈されてきた。しかし、その解釈で留まると、犬に自分の写し身を见たはずの学生たちが、なぜ犬を扑杀しようとするのか、という次の段阶を理解できないままになる。
他者を「动物」と蔑んで己を惨めに肯定
当时の大江が、ナチスの强制収容所の记録を热心に読んでいたこと、また本作の「イメージと轴になる论理」を明かした文章で「ファシズム」という言叶が用いられていること。この二点から、拙着『动物の声、他者の声』では、本作を、「动物」とみなした自分の似姿を否认し、「人间」が「人间」であることを周囲に証明するための暴力を振るうさまを描いた作品として论じた。自分自身の闭塞感と正面から対峙することなく、弱い他者を「动物」と蔑み、暴力を振るうことで、自分の优位性を惨めに肯定しようとする者たち&尘诲补蝉丑;&尘诲补蝉丑;。思えば、2016年の相模原障害者施设杀伤事件の犯人もまた、当时の众议院议长に宛てて、障害者は「动物」と同じだと书き送り、社会での自分の有用性を証明するかのように犯行を予告したのだった。反対に、1957年の大江の小説は、犬たちの眼によって见つめられ、徐々に「人间」としての优位性を胁かされていく若者たちを描くことで出発したことを、ここで强调しておきたい。
2021年には、大江家より1万8000枚に及ぶ原稿と着者校が东大に寄託され、「大江健叁郎文库」が开设されることが発表された。残念ながら「奇妙な仕事」の原稿はそこに含まれていないが、近い将来、文库を访れる人たちは、いずれの原稿を繰っても、そこに过去のみではなく、自分たちの现在と未来とが描かれていることを実感して顶けるのではないかと思う。
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『动物の声、他者の声』(新曜社/2017年)
动物の表象を手がかりに日本の戦后文学の伦理を论じた一册。
●村上先生による详しい解説动画はこちら(2021年度开讲?高校生と大学生のための金曜特别讲座)
大江健叁郎文库がオープン!
2021年1月21日、大江健叁郎氏代理のご家族と寄託契约书が取り交わされ、人文社会系研究科?文学部が自笔原稿をはじめとする资料を受け入れました。『同时代ゲーム』(1979年)、『燃えあがる緑の木』(1993年)など、大江氏の自笔原稿がまとまった形で公的机関に寄託されるのは初めて。2023年9月1日には「大江健叁郎文库」が弥生キャンパスにオープンしました。1万8千枚超のデジタルアーカイブ、3500点超の资料の閲覧の场を研究者に提供し、贬笔やセミナーを通して研究成果を発信します。