美術に関わる東大の研究 芳贺京子の西洋美术史 | 広報誌「淡青」38号より

西洋美术史 |
痴搁技术が明らかにする
古代ギリシア?ローマ彫刻のリアル
バーチャルリアリティ(痴搁)技术が身近な存在になってきた昨今。実はその影响は美术史研究の世界にも及んでいます。最新の3顿スキャンを武器に古代彫刻像の复製や作者同定の问题に切り込んでいる芳贺先生が、痴搁技术が垣间见せる纪元前のリアルを绍介します。
![]() Kyoko Sengoku-Haga 准教授 |
ラテン语で芸术のことは「アルス」という。これは本来は「技」という意味だが、英语の「アート」の语源にもなっているからまだ耳になじんでいる。だがギリシア语で芸术が「テクネー」だと闻くと、「テクニック」や「テクノロジー」の语源ということもあって、何か违和感を覚えるのではないだろうか。
しかし古代ギリシアにおいて、芸术家はまぎれもなく第一线の技术者だった。纪元前6世纪后半に等身大ブロンズ像の鋳造技术が开発されると、日焼け色に辉き、まるで生きているかのような动きを表现している等身大の男性裸体像に、人々は感嘆するとともに、われわれがリアルなロボットに抱くような不気味さすら感じたらしい(図1)。
一方、古代ローマは建设技术で有名だが、大规模建造物はたいてい膨大な数の彫像で饰られていた。それを可能にしたのは、纪元前1世纪に考案された大理石彫刻の精密复製技术だった。オリジナルから石膏像をつくり、表面のポイントをコンパスなどを用いて细かく叁次元的に计测し、大理石ブロックに写すことで、ひとつのオリジナルから大量の精密コピーが生产された。

リアーチェの戦士像础
纪元前460~440年
イタリア半岛南端のリアーチェ?マリーナ冲で発见 レッジョ?カラブリア国立考古学博物馆 ローマ时代のコピーではない、贵重なオリジナルのブロンズ像

ポリュクレイトス
枪を持つ人
1世纪の大理石コピー(オリジナルは纪元前450~440年) ポンペイのパラエストラ(运动场)出土 ナポリ国立考古学博物馆

ポリュクレイトス
鉢巻する人
纪元前100年顷の大理石コピー
(オリジナルは纪元前420年顷)
デロス岛出土 アテネ国立考古学博物馆
彼らの技術力を、現代の最新技術を用いて検証してみよう。紀元前5世紀のギリシア人彫刻家ポリュクレイトスの《枪を持つ人》は、ローマ時代に数多くコピーされた。オリジナルのブロンズ像は現存しないが、ローマ時代のコピーなら大理石像もブロンズ像も残っている(図2)。試しに、質が高い4つのコピー作品を3Dスキャンし、3Dモデルをコンピュータ上で重ね合わせてみたところ、腕や脚の角度はコピーによってずれがあり(パーツごとにコピーしたためだろう)、スケールにもわずかながら差があるものの(ブロンズの収縮が原因か)、顔や足のパーツの形状はほぼ一致し、誤差は多い箇所でも2mm以内という結果が出た。彼らの複製技術は、驚くほど高かったのだ。
それだけ精密なら、コピーを介してオリジナルの形状も比較できそうだ。ポリュクレイトスはのちに《鉢巻する人》という作品もつくっている(図3)。そこで両作品のローマ時代のコピーを3Dモデルにして比較したところ、なんと顔と足の形状が一致した。ポリュクレイトスは《枪を持つ人》の原型を保存し、それをもとにして《鉢巻する人》の原型をつくっていたのだ。作業効率化の工夫は、芸術家というより技術者の精神を感じさせる。

ポリュクレイトスの《枪を持つ人》《鉢巻する人》と3体の《アマゾン》の顔部分の3D形状比較(東京大学生産技術研究所 大石岳史研究室)
それなら3D形状比較の手法を用いて、作者の同定もできるのではないか。古代の文献によれば、ある時、彫刻家たちがそれぞれアマゾン族の女性像をつくり、互選で最優秀作を決めたところ、1位はポリュクレイトス、2位はフェイディアス、3位はクレシラスになったという。ローマ時代のアマゾン像のコピーも、ちょうど3種類が知られている。ところがそのうちのどれがポリュクレイトスの作品なのか、研究者の意見は2つに分かれ、決着がつきそうにない。そこで3種類のアマゾンの頭部を3Dスキャンし、《枪を持つ人》《鉢巻する人》と比較してみた。すると見事に、ひとつだけがぴたりと一致した(図4、ソシクレス?タイプ)。3D技術は、古代彫刻の研究になかなか役に立つのである。