巨大地震と向き合い、より安全なまちと建物を再建する トルコ?シリア地震の建物被害と现地调査から
多くの建物が壊灭的な被害を受けたトルコ?シリア地震。安全なまちを再建するために何ができるのか、现地调査でトルコを访れた东京大学地震研究所の楠浩一教授に闻きました。
── 今回の地震で、甚大な被害が出てしまったのはなぜでしょうか?
建物が倒壊した理由としてまず考えられるのは、そもそもの揺れが、日本の建物であったとしても損傷を受けてもおかしくないほどの強い揺れであったことです。今回のトルコ?シリア地震で観測された地震波には、2016年の熊本地震や、2011年の東北地方太平洋沖地震 で特に揺れが強かった場所の観測記録と似た特性があります。一般的には中高層の建物のほうが地震で受ける影響は小さいといわれていますが、地震波の周期が長く、加速度のある揺れ方は、中高層の建物にも壊滅的な被害を与えます。
もう一つの原因として考えられるのは、建物の强度です。トルコにおける现行の耐震基準は、日本や贰鲍をはじめ世界各地で採用されている内容に劣るものではありません。トルコは有数の地震国として、これまでにも耐震规制を何度も改正してきました。また、建て替えが早いと言われる日本でさえ、建物は40年、50年にわたって使われています。たとえば新しく建物を建てるための设计法を改善しても、継続して使われている既存の建物に遡及して适用することができないので、街全体の强化にはつながりません。自然灾害では、弱点や欠点がある建物からまず被害を受けます。多くの建物が倒壊したことに鑑みて、実际にどこに问题があったのかを一つ一つ调査することが必要です。
「安全に壊れる」建物を目指して
── 建物倒壊のメカニズムとしては、どんな説明ができますか?
建物の壊れ方には大きく2种类あり、飴のように壊れる场合とガラスのように壊れる场合があります。引っ张られて伸びるなかなか切れない飴のように壊れる建物は、损伤してもエネルギーを吸収しながら変形していくため、中にいる人はその间に逃げることができます。
対照的に、损伤の度合いが一线を越えると、ガラスが割れるように一瞬でバラバラになってしまう建物もあります。建物の重さを支えている柱が损伤すると全ての阶が溃れるように壊れるため、救助も非常に困难です。今回の地震で倒壊した建物の多くが、この壊れ方をしていると考えられており、建物が瞬间的に破壊される非常に危険な状况であったでしょう。専门的には「脆性破壊」と呼ばれています。
── どのような建物であれば、安全であるといえるのでしょうか?
どんな地震が来ても絶対に壊れないような设计で建物を建设している国はありません。どれだけ大きな地震が来るかは、まさに青天井なのです。仮に、とてつもなく大きい地震を想定した设计では柱を过度に太くせざるを得ず、窓がとても小さい原子力発电所や要塞のような建物になってしまい、居住环境としては相応しくありません。そもそも、巨大な地震の発生频度が低いことを考えると、ほとんどの建物は何事もなく耐用年数を迎え、建て替えられることになります。耐震设计ではそういった社会的要素を考虑する必要があるので、たとえば日本では、地震はその建物が建っている期间に発生するかどうかわからないほど强い地震を想定して、そういった地震が起きたら「安全に壊れる」ように设计されているのです。地震が起きたときに建物の壊れ方を调べるのは、いわば「安全に壊れる」建物を设计するためなのです。
── 建物の壊れ方の研究は、これまでどのように耐震性の向上に生かされてきたのでしょうか?
日本では、1968年の十胜冲地震以降、建物の壊れ方の研究が进みました。柱の中の鉄筋の量を増やすことが有効だと分かり、柱や梁の中でベルトのように鉄筋を一定の间隔で巻き付ける「フープ筋」の量が一定以上となるよう、法改正を行いました。にもかかわらず、1978年の宫城県冲地震では再び多くの建物が倒壊しました。その教训から、1981年に建筑基準法が改正されます。それまでは建物が建っている间に2、3回は起こりうる程度の强さの地震を想定した耐震设计をしていましたが、さらに、それよりも强い地震を想定して设计を行うための基準が适用されるようになりました。それでもなお、1995年の兵库県南部地震で「脆性破壊」を含む住宅倒壊の被害を完全に防ぐことはできませんでした。
新筑建筑物のための设计基準を改正するだけでなく、既存の建物にも耐震诊断が义务づけられるようになったり、耐震改修を促进するなど、时代とともに少しずつ、様々な条件にある建物の安全性を高めています。地震研究においては日本と関係が长く深いトルコの関係者と、まさにこれから古い建物の耐震性の强化に向けた动きが始まりつつあったところでした。大変残念ながら、その矢先に、今回の地震が起きてしまったのです。
再建を见据えて
── トルコ?シリア地震の被災地に対して、日本の地震研究が貢献できることはありますか?
まず、今回の地震で過去の設計法で建てられた建物が倒壊したのか、それとも現行基準で設計された建物が被害を受けたのか、あるいは施工自体に欠陥があったのか、 調査で解明する必要があります。街全体の復興に関して言えば、地盤の調査も重要です 。地盤の良い場所には昔から人が居住していますので、どうしても新興住宅街は新しい地盤の条件の良くない場所に作られる傾向があります。今回の地震で街全体が被害を受けた場所では、その土地にもう一度街を作るのかを慎重に検討しなければなりません。
そして建筑基準法を守り、耐震性の高い建物を再建することが大切です。今后、建物の审査をする际に日本の行政システムが参考になるかもしれません。また、材料の品质や管理の面でも、日本政府や日本の研究が协力できることが多くあると考えています。
── 建物の被害に関する調査で、現地を訪問されたと伺いました。
文部科学省の科学研究费助成事业(特别研究促进费)、日本建筑学会、土木学会の合同调査団の団长として、2023年3月28日から4月4日まで现地调査のためトルコを访れました。主な调査内容は、鉄筋コンクリート造建物、免震建物、钢构造建物の被害、地盘被害に関する调査です。数百キロを超える极めて広い范囲で、甚大な被害が生じていました。现行の基準で建てられた高层の集合住宅が倒壊している例も复数确认できました。
── トルコの現地調査をふまえて、どんなことをお考えですか。
これから復兴が始まります。现在の建筑基準や施工の方法に问题があるのかを早急に検讨し、復兴时の新しい建设に生かす必要があります。今后も継続して、トルコ侧研究者と共同で研究を実施していくこととしています。
ひとたび地震が発生すると、その被害は甚大で、一瞬にしてたくさんの人が亡くなります。これを防ぐためには、基準や设计法を改善していくことはもちろんのこと、すでに建っている建物にも目を向けて、必要に応じて补强をすることが大切です。しかし、そのためには非常に长い时间がかかります。まちを安全にしていくためには、継続した地道な努力が必要です。世界の地震国と共同して、その长い道のりを一歩一歩进んでいく必要があります。
楠 浩一
东京大学地震研究所教授
东京大学大学院工学系研究科修了。博士(工学)。东京大学生产技术研究所助手、国土交通省建筑研究所研究员、独立行政法人建筑研究所主任研究员、横浜国立大学准教授、东京大学地震研究所准教授を経て、2018年より现职。
関连论文
1. 兵庫県南部地震(阪神?淡路大震災)(1995)――被災度調査と地震観測――, 楠 浩一, 建築防災, p23, 2019
2. ネパールゴルカ地震日本建築学会災害調査結果の速報, 楠 浩一, 建築防災, pp.16-19, 2015
3. トルココジャエリ地震被害調査報告, 楠 浩一, 建築雑誌, pp.7-10, 1999
取材日:2023年3月9日、4月13日
取材:寺田悠纪、ハナ?ダールバーグ=ドッド