コーダ きこえない亲の通訳を担う子どもたち
きこえない親をもつきこえる子どものことを「コーダ」(Children of deaf adults:CODA) と呼ぶことがあります。両親ともきこえなくても、どちらか一方の親だけがきこえなくても、また、親のきこえの程度や、親がろう者であるか難聴者であるかにも関わらず、きこえる子どもは皆コーダと定義されます (CODA International)。
本书は、コーダと呼ばれる子どもたちの「きこえない亲への通訳の役割」に注目した研究书です。
「ヤングケアラー」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。こども家庭庁や日本ケアラー連盟などのホームページでは、ヤングケアラーのケアの代表例として、「障がいや病気のある家族に代わり、買い物?料理?掃除?洗濯などの家事をしている」といったケアと同列に、「日本语が第一言语でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている」という、コーダがきこえない親に行う通訳の例が紹介されています。(すべてのコーダがヤングケアラーという意味ではなく、コーダの中に、大人が担うようなケア責任を引き受けるヤングケアラーに該当する子どもたちも存在するという解釈です。)
ヤングケアラーという言叶が社会に広まり、その大きな枠组みの中でコーダについても议论がなされるとき、通訳という固有の役割を担うコーダに特化した资料が必要ではないかと考え、この本を书きました。
本书では、通訳の役割をとおして揺れ动くコーダの気持ちや、亲子関係のダイナミズムに迫りながら、コーダときこえない亲には何が起こりうるのかを、たくさんのコーダと亲の语りを取り上げて包括的に解説しています。コーダの通訳経験や亲との関係性はさまざまですが、その多様性についても科学的に分析し、解説しました。また、中高生や専门外の方々にも手に取ってほしいという愿いを込めて、わかりやすい表现を心がけました。
本書を通して、社会に伝えたいことがあります。たとえば、きこえる人ときこえない人とのコミュニケーションがすれ違う場面があるとします。本書ではそれを、コミュニケーションに困らないきこえる人と、コミュニケーションに困るきこえない人が存在すると考えるのではなく、多数派が用いる音声言语中心の環境は、きこえない少数派向けではなく、両者の“間”にコミュニケーションのすれ違いという現象が生じると捉えます。つまり、きこえる人ときこえない人とのコミュニケーションの問題を、個人の問題ではなく社会的な課題として捉える視点です。このような考え方に基づけば、コーダとその親だけがコミュニケーションのすれ違いを必死に解消しようとするのは、まだ不十分な社会だといえそうです。社会にこの考え方を共有していくこともまた、コーダの生きづらさを軽減させることに繋がるものと思います。本書が、社会が「障害」に対する理解を深めるきっかけとなることを願っています。
本书に缀ったのは、きこえない亲をもつコーダという子どもたちの物语です。たくさんのコーダの気持ちに触れていただければ嬉しく思います。
(紹介文執筆者: 多様性包摂共创センター 特任助教 中津 真美 / 2024)
本の目次
序章 この本を読むにあたって
1. 通訳の役割に注目した理由
2. 各章の内容
第1章 コーダとは?
1. コーダの定義
2. コーダの人数
3.「コーダ」という言叶の始まり
4. コーダから見た親との日常と外の世界
5.「コーダ」という言叶があることの意味
第2章 コーダときこえない亲との会话状况
1. コーダと親との会話方法
2. コーダと親との会話は、どれくらい通じるの?
第3章 コーダの通訳というケア役割
1. コーダが担う通訳とは
2. コーダの青年期における通訳の実態
3. 通訳の役割とは
第4章 コーダと亲の変わりゆく気持ち
第1节 コーダの変わりゆく気持ち――児童期?青年期?成人期
1. コーダへのインタビュー
2. 児童期のコーダの気持ち
3. 青年期のコーダの気持ち
4. 成人期のコーダの気持ち
第2节 亲の気持ち―コーダの児童期?青年期から成人期
1. きこえない親へのインタビュー
2. コーダの児童期?青年期での親の気持ち
3. コーダの成人期での親の気持ち
第3节 きこえない亲が大好きなまま大人になったコーダ
1. 親が大好きなコーダのこと
2. 想像以上にコーダの心に突き刺さる言葉
第4节 亲を受け入れる时期が遅いコーダ
1. コーダが親を理解して受け入れた時期
2. 親を受け入れる時期が遅くなるのは、なぜ?
3. 親を受け入れる時期が遅いコーダのこと
第5章 コーダが亲を守る気持ち,亲がコーダに頼る気持ち
第1节 コーダが亲を守る気持ちは、何によって形作られるのか
1. 小さいときから、親を守る気持ちをもってきたか?
2. 青年期のコーダがもつ2つの親を守る気持ち
3. 青年期のコーダがもつ3つの心理状態
4. 親を守る気持ちを形作るもの
5. コーダの健やかな親子関係形成のための3つのポイント
第2节 亲がコーダを頼る気持ちは、何によって形作られるのか
1. きこえる子どもを頼りにしているか?
2. きこえない親がもつ子どもに頼る気持ち
3. きこえない親がもつ2つの心理状態
4. 子どもに頼る気持ちを形作るもの
第6章 亲子関係のかたち
1. 青年期のコーダの3つの親子関係のかたち
2. 3つの親子関係のかたちとは
3. 3つの親子関係のかたちと関連するもの
4. 3つの親子関係のかたちのまとめ
5. 役割逆転型のコーダは、ヤングケアラーかもしれない?
6. 固定化されない親子関係
第7章 コーダの健やかな未来のために
第1节 周囲の方々へ
1. コーダの通訳の負担を減らしていくために
2. “きこえないこと”が特別にならないために
3. もしもコーダに出会ったら
第2节 きこえない亲の方々へ
1. コーダの通訳の役割を見直す
2. 前向きにコーダと向き合う
第3节 コーダの方々へ
1. 自分を見つめ直す
2. 親を取り巻く世界のことを知ってみる
3. 他のコーダのことを知ってみる
4. きこえない親をもった自分だからこそ、できることがある
引用文献
おわりに
関连情报
「コーダ」 (CODA:Children of Deaf Adults) についてご存知ですか (東京人権啓発企業連絡会 2024年10月)
特集エッセイ「ことば」ことばを伝える役割:とあるコーダの回顾録 (东京大学搁贰顿顿驰多様性の経済学 2024年6月12日)
CODA 知っていますか? “耳が聞こえない”親がいる子どもたち (NHK NEWS WEB 2023年10月13日)
CODA(コーダ)親が聴覚障害の子 社会全体で支えるには (NHK首都圏ナビ 2023年9月25日)
【时の人】中津真美さん~聴覚障害の亲の日常を支える中高生「コーダ」の调査を始めた (山梨日日新闻电子版 2023年9月1日)
聴覚障害の亲の日常を支える中高生「コーダ」を调査 中津真美さん 学问の世界で、コーダに向き合いたい ひと (福井新闻顿刊 2023年8月30日)
聴覚障害ある亲の子ども、负担の実态初调査 东大特任助教ら、中高生対象 (日本経済新闻 2023年7月19日)
コーダという子どもたちのこと:きこえない親をもつきこえる子ども (金子书房note 2022年3月22日)
今、社会の仕組みの中でCODAを考えるとき…東京大学バリアフリー支援室?中津真美さんインタビュー[コーダを語る] (読売新聞オンライン 2022年10月22日)
「コーダ」の私が、思うこと ろう者の亲がいる、闻こえる子 (朝日新闻デジタル 2022年6月1日)
障害のある家族をもつ私たちのこと:CODA(コーダ)の立場から[寄稿] (Sibkoto 2019年7月27日)
动画
【特集】手話と生きる 第14回「映画などで注目!コーダとは」 (YBS山梨放送 2022年10月25日)
书籍绍介:
私の読書日記:橋本愛 (女優)「二つの世界に橋を架ける」 (『週刊文春』 2024年3月14日号)
讲座?セミナー:
コーダ きこえない亲の通訳を担う子どもたち (金子総合研究所 2024年7月20日)
高校生と大学生のための金曜特別講座「コーダの悩みから社会の“不便”がみえてくる ~障害とは何だろう~*コーダ(CODA)とは、きこえない/きこえにくい親をもつきこえる子ども」 (東京大学大学院総合文化研究科?教养学部 2024年7月5日)