イタリアの文化と日本 日本におけるイタリア学の歴史
『イタリアの文化と日本』は、イタリア文学?哲学?演剧?映画?音楽の研究者が集まって作った本で、イタリアの文化が日本でこれまでどのように绍介?研究されてきたかということが考察されている。イタリア文化の受容の歴史をまとまった形で叙述するというのは、これまでになかったことである。また、日本において长年にわたって蓄积されてきたイタリア学という知的财产を确认し、それを未来へつなげようとする试みでもある。
この本は、しかし、単なる受容の歴史についての本ではない。『イタリアの文化と日本』の妙味は、日本におけるイタリア文化受容史という「過去」を踏まえた上で、今後の研究の方向性という「未来」も見据えているところなのである。各章を読んでもらえばわかるが、ほとんどの著者が、担当するテーマに沿ってイタリア文化の紹介を執筆の主眼に据えている。その上で、それが日本でどのように紹介されて、受け入れられていったのかということが書かれ、さらに、これから研究をしよう (卒論を書いてみよう) という人がどのあたりのテーマを狙えばおもしろそうか、ということまで丁寧に書かれているのである。また、各章の書誌情報も充実しているので、この本自体が、イタリア文化について学ぶためのとても良いブックガイドとなっている。イタリアの文化に少しでも関心を持った人が最初に読む本としてもお勧めだ。
私が執筆を担当した箇所は「女性作家の受容」であり、分野ごと、時代ごとに分かれて章立てされている本書の中では少し異色のテーマである。けれども、いまだに女性を蔑むことが多くの人にとっての当たり前である日本という国においては、道なき道を歩んで驚くべき成果をあげた女性たちについて書き、その功績の可視化に努めることは確かに必要なことだと思う。まずは、二〇世紀のイタリア文学紹介において多大な貢献のあった須賀敦子 (1929-1998) という人について書こうと考えた。須賀敦子はエッセイスト?作家として有名である。しかし、イタリアに長く暮らし、優秀なイタリア文学者でもあったのに、その作品にみられるイタリア文学の影響についてはこれまであまり言及されてこなかった。そこで、須賀敦子が特に影響を受けたイタリア人女性作家ナタリア?ギンズブルグ (Natalia Ginzburg, 1916-1991) の作品を取り上げ、須賀敦子の作品との関係について分析した。
そのほかにも、二〇世纪后半から二十一世纪に活跃する女性作家については幅広く绍介した。さらに、原稿を书くために九段下のイタリア文化会馆図书室に通ってイタリアの女性作家たちの翻訳书を読んでいくうちに次第に见えてきたのは、作家、编集者、翻訳家、研究者、大使馆の文化オペレーターといった、立场の异なる日伊の女性たちがさまざまに繋がって协働する姿だった。女性作家が绍介されるまでの水面下の出来事、ミクロな歴史も救い上げて记録したつもりである。
日本でイタリア文化について専门的に学べる大学はあまりない。実は东京大学はそんな稀な大学のひとつだ。この本でイタリアに兴味を持った人がいたら、本学で思う存分勉强できるので、ぜひ教养学部后期课程か文学部に进学して、ヨーロッパ文化の源流たるイタリアの奥深さに触れてほしいと思う。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 准教授 山﨑 彩 / 2023)
本の目次
第一部 文学
第一章 ダンテからルネサンスまで――人文学と翻訳の使命|原 基晶
第二章 啓蒙主義と浪漫派|霜田洋祐
第叁章 ファシズム期と戦后|菊池正和
第四章 女性の言叶による世界|山﨑 彩
第二部 思想
第五章 中世から初期人文主義まで|星野 倫
第六章 ルネサンスと近世|フランチェスコ?カンパニョーラ
第七章 新観念论から现代思想まで|国司航佑
第三部 芸术
第八章 美術――美術史教育と美術史研究、コレクション、展覧会|石井元章
第九章 音楽――イタリア音楽の二つの顔、音の学と楽|森田 学
第一〇章 映画――イタリアン?スペクタクルの衝撃|石田聖子
第一一章 演劇――ピランデッロからフォーまで 近代演劇の革新者たち|高田和文
イタリア文化の本质――あとがきにかえて|土肥秀行
编者?执笔者绍介
関连情报
土肥 秀行?菊池 正和?國司 航佑?高田 和文 出版記念対談『イタリアの文化と日本』 (IIC OSAKA EVENTI ONLINE 2023年4月7日)
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「ローマへ。不思議な旅の記憶」 (東京大学教養学部 国際交流センター グローバリゼーションオフィス|note 2022年10月25日)