明治維新を担った人たち (2) 経済の维新と殖产兴业 一八五九~一八九〇
幕末の開港から日本における产业革命が始まる時期までの経済の変容を、その担い手であった人々に即して捉えようとした論文集。この時期の経済活動は政策、あるいは著名な政治家や明治になって東京や大阪に主たる活動の舞台を転じた渋沢栄一、五代友厚など財界の創始者たち、また企業や事業に着目して描かれて来た。その結果、地域における江戸時代との連続性や、事業相互の関係は見落とされがちであった。それに対して、本書では高校の教科書には出てこないが、当時の経済活動で顕著な役割を果たしていた人々に注目し、江戸時代の活動も含めて見通すことを基本的な方針とした。
第滨部では、明治政府が直営で进めた事业の担い手を、旧幕臣と、雄藩出身者それぞれ2名ずつとり上げて検讨した。これにより、幕府や旧藩の活动の遗产の継承、また官営事业を担うことが彼らの活动の中でどのような位置にあったのかが明らかになった。
第II部では、地域での活動の担い手を、内地と北海道で2名ずつ取り上げた。内地では武士と農民とを取り上げ、それぞれの地域の捉え方と、产业振興への取り組みを見た。北海道に関しては、幕府の指示で二宮尊徳に始まる報徳仕法を導入した農民と、箱館奉行として赴任して明治政府の開拓使でも活動した武士とを取り上げて、江戸時代から続く開拓の歴史を描いた。
第滨滨滨部は経済政策やその构想を扱った。儒教の実学の理念に基づいて幕末から殖产兴业に取り组んだ人物と、地租改正の理念の修正を迫る「米纳论」を展开した地方长官を扱うほか、本书の中では例外的に、着名な人物ではある五代友厚と大隈重信を扱い、それぞれ通説的な理解と异なった経済政策上の构想、役割を提示してその実像に迫った。
本書は、慶應義塾大学で行政学を学び、技术官僚を中心として明治初期の殖産興業政策について幅広い研究成果を挙げて来た現関西大学経済学部教授の柏原宏紀氏をお招きして、本学人文社会系研究科日本史学専門分野の演習参加経験者と共に上廣倫理財団の支援を受けて継続的な研究会を行ない、その成果をまとめようとしたものである。しかしそれぞれの対象とする人物を決めて簡単な報告をしたあたりでCOVID-19の流行により対面での研究会が不可能となり、原稿を共有してメールでコメントする形で進めた。その結果、調整が不十分で全体を見通しにくい面は残るが、調べることが中心になりがちな日本史研究者が、史料調査に行けず、手持ちの史料を中心に考えざるを得ない環境におかれていたこともあり、それぞれの人物や活動の意義づけは丁寧になされて、この時代の経済活動の変容を、江戸時代の遺産や社会状況全般の中でとらえる点では、一定の成功を収めたと考えている。なお、研究会としての原稿の完成後に、同じシリーズの他の巻の編者にもコメントをいただいて反映するなど、専門外の読者の読みやすさにもそれなりに留意したのだが、無名の人物が並び、文章も一般読者に読みやすいとまでは言えないためか、売れ行きが今一つなのは残念である。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科?文学部 教授 鈴木 淳 / 2023)
本の目次
第滨部 官业の担い手
第一章 武田昌次と明治初年の農政 (上西晴也)
第二章 咸臨丸機関長肥田浜五郎の明治 (鈴木 淳)
第三章 平岡通義と工部省――洋行経験なき長州藩出身者の官僚人生 (柏原宏紀)
第四章 得能良介と印刷?金融行政の近代 (小林延人)
第滨滨部 地域の近代をもたらした人々
第五章 三島億二郎と地域の近代化 (佐藤大悟)
第六章 飼育技术の改良からみる養蚕農民の近代――群馬県の養蚕家?松下政右衛門と井草太郎右衛門 (土金師子)
第七章 報徳仕法と北海道「開拓」――大友亀太郎の御手作場経営をめぐって (満薗 勇)
第八章 杉浦誠の北海道開拓 (谷川みらい)
第滨滨滨部 维新の経済制度を考えた人々
第九章 木下助之と経世済民 (池田勇太)
第十章 「牧民官」籠手田安定と地租?市場経済――地租米納論の比較から (中西启太)
第十一章 五代友厚の事業展開と市場経済 (崎岛达矢)
第十二章 明治一四年政変前夜における大隈重信の準備金回収政策――広業商会から横浜正金銀行へ (福田真人)
あとがき
人名索引