空とアメリカ文学
ご存知の通り、アメリカは世界に冠たる航空大国であり、日本とは比较にならないほど空をモチーフにした文学作品を数多く生み出してきました。にも関わらず、空や飞行とアメリカ文学の関係を正面に据えた研究は、これまでほとんど存在していません。本书は、こういったほぼ手つかずの研究分野で新たな地平を切り拓くべく、アメリカ文学を駆动してきた空を巡る文学的想像力の重要性を解き明かします。具体的には、19世纪から20世纪に及ぶアメリカの主要作家による文学作品、着名な厂贵作品やその映画版、また20世纪前半にベストセラーとなった飞行家によるノンフィクション、また戦后から21世纪のアメリカ现代文学などが分析対象となっています。19世纪から21世纪まで时代顺に构成された全10章を読み进めることで、読者はアメリカ文学における空や飞行の重要性について深い理解を获得することができるでしょう。
本書の前半部では、冒頭、編者がアメリカにおける飛行の歴史と文化について重要な先行研究に言及しつつ概観した後 (序章)、19世紀のアメリカの主要作家の作品を中心に、空や飛行の問題を論じる章が続きます。具体的には、気球による月旅行を題材にしたエドガー?アラン?ポーによる空想小説「ハンス?プファールの無類の冒険」(第1章)、ハーマン?メルヴィルの海洋小説『白鯨』と『マーディ』(第2章)、トム?ソーヤーの気球による空の旅行を扱ったマーク?トウェインの『トム?ソーヤーの外国旅行』(第3章)、そして同じトウェインによる時空を超えた宇宙旅行をテーマにした「ストーム?フィールド船長の天国訪問」(第4章) といった作品が議論されます。そして、本書の後半部では、20世紀以降、つまり人類が飛行機という翼を手にしたライト兄弟以降の時代に発表された作品となります。アメリカの20世紀SF文学やSF映画における空のモチーフや (第5章)、飛行家でもあったフランス人、アントワーヌ?ド?サン=テグジュペリの作品における飛行テーマの変遷や彼の作品のアメリカでの受け止め (第6章)、アン?モロウ?リンドバーグの極東飛行に基づいたノンフィクション文学と飛行機の暴力性の問題 (第7章)、1930年代の巡回飛行士たちを描いたウィリアム?フォークナーの長編小説『標識塔』(第8章) といった作品やテーマが詳細に分析されています。そして本書を締めくくる最後の2章では、戦後のアメリカ現代文学が主題です。特に、レイモンド?カーヴァーの短編小説における空の表象の問題に加え (第9章)、21世紀のアメリカのロード?ナラティヴにおける電波やドローンや資本のネットワークの問題について独自の議論が展開します (第10章)。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 教授 石原 剛 / 2021)
本の目次
第1章 空飞ぶ时代の坠落の梦想
──ポーの気球谭「ハンス?プファールの无类の冒険」
(西山けい子/関西学院大学文学部教授)
第2章 メルヴィルの海?メルヴィルの空
──19世纪アメリカの空间认知と21世纪の地球
(下河辺美知子/成蹊大学名誉教授)
第3章 気球乗りの视线、反転するパノラマ
──マーク?トウェインの『トム?ソーヤの外国旅行』を読む
(细野香里/庆应义塾大学大学院文学研究科博士课程)
第4章 マーク?トウェインの空への憧れ
──気球物语から宇宙のファンタジーへ
(有马容子/敬爱大学国际学部教授)
第5章 宙空都市マンハッタン
──ガーンズバック、テスラ、イニャリトゥ
(巽孝之/庆应义塾大学文学部教授)
第6章 空と大地から、砂漠と宇宙へ
──サン=テグジュペリ作品における飞行のテーマ
(藤田义孝/大谷大学文学部教授)
第7章 空を飞ぶということ
──アン?モロウ?リンドバーグの东アジア飞行
(石原 剛)
第8章 空のフォークナー文学
──『标识塔〈パイロン〉』をめぐるプリントカルチャーについて
(山根亮一/东京工业大学リベラルアーツ研究教育院环境?社会理工学院社会?人间科学系准教授)
第9章 レイモンド?カーヴァーの空
──あるいは、空を舞う文学
(桥本安央/関西学院大学文学部教授)
第10章 ロードから共感、资本から监视へ
──21世纪小説における「空」
(藤井 光/同志社大学文学部教授)
関连情报
BOOKS & MEDIA (『月刊エアライン』 2019年12月号)
山本裕子 評 (日本アメリカ文学会『アメリカ文学研究』第57号 2020年
山城新 評 (『英文学研究』97巻 2020年)