「帝国」ロシアの地政学 「势力圏」で読むユーラシア戦略
2014年、ロシアが同じ旧ソ连の隣国ウクライナに突如として军事介入するという事件が起きました。覆面をしたロシア军の兵士や民兵がウクライナ南部のクリミア半岛を占拠したのに続き、南东部のドンバス地方でも大规模な戦闘が発生し、现在に至るも问题は解决していません。
ロシアの安全保障政策を研究している私にとって、これは衝撃でした。それまでにもロシアが旧ソ連の国に軍事介入をすることはありましたが、一国の領土 (クリミア半島は九州の7割ほどもある大きな半島です) を併合してしまうなどという振る舞いは初めてのことであった、というのが第一の理由です。
第二に、これを機に米国や欧州連合 (EU) はロシアに対する厳しい経済制裁を課し、北大西洋条約機構 (NATO) もロシアの軍事的脅威に対抗する姿勢を顕著にしました。冷戦が終わって以降、比較的平穏な地域と見られていたヨーロッパで、あっという間に軍事的な緊張が舞い戻ってきたわけです。
こうした状况をつぶさに観察し、特に军事面においてロシアや狈础罢翱が何をしようとしているのかを考察するのが私の「本业」であるわけですが、それだけでは十分ではないのではないか、という想いが思考の片隅に常に存在していました。つまり、ロシアは何故このような振る舞いに及んだのか、决定的に悪化してしまった米国や欧州との関係性をどうするつもりなのか、というより幅広い问いに答えないことには、现在のロシアが展开する安全保障政策についても十分に考察したことにならないのではないか、ということです。
そこで本書『「帝国」ロシアの地政学』では、旧ソ連空間に関するロシアの内在的な論理に焦点を当てて、私なりに議論してみたつもりです。ソ連が崩壊した後も、かつてのソ連諸国をロシアは「勢力圏」とみなし、その中で起こることをコントロールしようとしている。何から何までモスクワが命令することは不可能であるとしても、例えば旧ソ連の国がNATOに加盟するといった受け入れ難い (とロシアが考える) 事態に際しては軍事力を行使してでも阻止するし、それによって米国や欧州との関係が悪化することも厭わない…これが本書で描き出した21世紀のロシアの姿といえるでしょう。別の言い方をすると、ロシアの世界観においては本当の意味で主権を持っている国は一握りの「大国」(主に軍事面での) であって、それ以外の中小国は「大国」によって主権を制限された「半主権国家」であるということです。もちろん、ここではロシア自身は「大国」であり、旧ソ連諸国の主権を制限する権利があるとみなされます。
こうした考え方は歴史的に见るとさほど珍しいものではありません。しかし、问题は、実际にロシアがこのような考え方に基づいて行动を起こし、国际社会もそれを阻止できなかったことです。ロシアの行动は20世纪后半以降の国际秩序を大きく动揺させるものであるといえるでしょう。この先、世界のありようはどのようなものになっていくのか。本书がその一つの参照点となれば幸いです。
(紹介文執筆者: 先端科学技术研究センター 特任助教 小泉 悠 / 2020)
本の目次
第2章 「主権」と「势力圏」――ロシアの秩序観
第3章 「占领」の风景――グルジアとバルト叁国
第4章 ロシアの「势力圏」とウクライナ危机
第5章 砂漠の赤い星――中东におけるロシアの復活
第6章 北方领土をめぐる日米中露の四角形
第7章 新たな地政的正面 北极
関连情报
第41回サントリー学芸賞 (社会?風俗部門) 受賞 (公益財団法人サントリー文化財団 2019年)
着者コラム:
?イラン司令官暗杀を非难するロシアの论理と心理 ?势力圏??被害者意识?で考える大国の地政学? (东洋経済翱狈尝滨狈贰 2020年1月20日)
书评:
「『帝国』ロシアの地政学」小泉悠着 (日刊ゲンダイ顿滨骋滨罢础尝 2019年12月29日)
呉座勇一 評?『「帝国」ロシアの地政学』書評 特殊な「主権」観で動くプーチン? (『朝日新聞』掲載 2019年9月7日)
篠田英朗 (国際政治学者?東京外国語大教授) 評 (読売新聞オンライン 2019年9月1日)
『「帝国」ロシアの地政学 「势力圏」で読むユーラシア戦略』小泉悠著 (THE SANKEI NEWS産経新聞 2019年6月30日)
小林武史 評 (朝雲新聞社 2019年)