放送大学教材 中国と东部ユーラシアの歴史
本書は、2020年度から始まった放送大学の科目「中国と东部ユーラシアの歴史」の教科書である。定評の高い放送大学の中国史の講義を担当して欲しいという依頼を受けたとき、実は少々戸惑った。というのも、私は中国史の中でも唐以前の時代を専門とする研究者である。いったい通史をどう論ずればよいのか。もちろん、この講義を何人かで分担することは最初から頭にあった。過去の放送大学の講義もそうであったし、もとより私に大学講義のレベルで中国史の全体を論ずるような力はない。しかし、そうはいっても、通史である以上、全体を通じてのテーマは必要である。そこで私は古代史の分野で最近よく使われるようになった「東部ユーラシア」をキーワードとして使うことを考えた。
「東部ユーラシア」は歴史学のなかで使われている「東アジア」よりも広い「中国とその近隣世界」である。しかし、「近隣世界」にせよ「周辺世界」にせよ、それには中国中心主義がつきまとう。これに対して「東部ユーラシア」は、中国と相互に影響関係をもつ諸民族が活躍する歴史の舞台である。本書はそういった広い視野から中国史を見ることを目指した。ただし、その際に常識的には「東部ユーラシアのなかの中国史」であるところ、あえて「中国と东部ユーラシアの歴史」としたことには理由がある。
歴史とは时代を区分することであると言われる。ただし、たとえいくつに区分しようと、最终的には近代にいたる过程である。そしてその近代とは国民国家の时代である。ゆえに古代なり中世なりは近代の国民国家にいたる発展段阶として捉えられる。これは近代の歴史学が国民国家の形成とともに生まれた科学であることを考えれば当然のことであった。したがって、近代になって考えられるようになった「中国史」も、「中国」という国民国家を到达点として、そこにいたる过程を明らかにしようとするものであった。
しかし、そのような「目的意識」から離れて、前近代の歴史に目を向ければ、そこに現れてくる特徴的な変化というものは、必ずしも国民国家の成立に向かって真っ直ぐに進んできたわけではない。むしろ始皇帝が試みたような一元的な「統一」は失敗し、中華の下に多民族の多元的な世界を多元的なまま「統合」しようとする方向への発展もあったのである。そのような歴史は、今日の中国においてある面では欧米型の国民国家にはない強みとして現れ、ある面では深刻な矛盾として現れている。本書のタイトルをあえて「中国と东部ユーラシアの歴史」としたのは、そうした今日の中国に帰着しない歴史の発展も描きたいと考えたからである。
この私の素朴な着想に、通史としての具体的な姿を与えてくれたのは、杉山清彦先生と小野寺史郎先生である。お二人の理解と协力なしにこの通史は実现しなかった。最良の共着者が得られた幸运を今も感谢している。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科?文学部 教授 佐川 英治 / 2021)
本の目次
まえがき
1 中国史の见方(佐川英治)
2 中国王朝の诞生(佐川英治)
3 秦汉帝国と汉人の形成(佐川英治)
4 中华の拡散と多元化(佐川英治)
5 隋唐帝国と东部ユーラシア(佐川英治)
6 东部ユーラシアの変动と再编(杉山清彦)
7 モンゴル时代の大统合(杉山清彦)
8 明と内陆世界?海域世界(杉山清彦)
9 「清の平和」と东部ユーラシア(杉山清彦)
10 近代への変容と动乱(杉山清彦)
11 清の近代国家化の试み(小野寺史郎)
12 模索する中华民国(小野寺史郎)
13 国民政府と日中戦争(小野寺史郎)
14 中华人民共和国と东部ユーラシア(小野寺史郎)
15 现代の中国と东部ユーラシア(小野寺史郎)
年表
索引
関连情报
放送大学「中国と东部ユーラシアの歴史('20)」(テレビ科目紹介)
中国と东部ユーラシアの歴史 (’20) 第4回 (放送大学)
中国と东部ユーラシアの歴史 (’20) 第5回 (放送大学)
中国と东部ユーラシアの歴史 (’20) 第6回 (放送大学)
中国と东部ユーラシアの歴史 (’20) 第7回 (放送大学)
中国と东部ユーラシアの歴史 (’20) 第8回 (放送大学)