问いかける法哲学
新しいスポーツを始めるときには、2のアプローチがある。
第1のアプローチは、「とにかく基础」である。まずは地道なトレーニングで基础体力をつけ、パスやドリブルなどの基础练习を繰り返す。基础がしっかり身についてから実戦练习を开始するのが、このアプローチである。
第2のアプローチは、「いきなり実戦」である。まずは実际にゲームをしてみる。ゲームをしてみるとそのスポーツの面白さがよく分かる。だが実际にやってみると、思うようにできないことも少なくない。ゲームを通じて面白さと课题を学び、基础练习の意义を确认していくのが、このアプローチである。
こうした2つのアプローチを参考にすれば、法哲学を学び始めるときにも、スポーツと同様に2つのアプローチがあるといえそうである。
法哲学の通常の教科書は、第1の「とにかく基础」アプローチを採用する。まずは法哲学の基礎概念をしっかり覚える。権利とは何か、法実証主義とは何か、帰結主義と義務論はどう違うかを正確に学ぶ。そのうえで、応用問題を検討する力を身につけていく。私が共著で執筆した教科書『法哲学』(有斐閣、2014年) も、基本的にこのアプローチを採用している。このアプローチはオーソドックスな入門方法であり、このアプローチで順調にいけば、しっかりとした基礎理解に基づいた法哲学を身につけることが可能である。しかしながら、出だしのところで抽象的な議論につまずき、挫折してしまう人も少なくない。
そこで本书は、第2の「いきなり実戦」アプローチを採用することにした。賛否の分かれる法哲学の问いに、読者はいきなり挑んでいく。例えば、ドーピングは禁止すべきか、自分の臓器を売ることは许されるべきか、といった问いである。こうした问いに取り组むことを通じて、法哲学の基础的な概念や考え方がどのように役立つのかを确认しつつ、少しずつ身につけていく。法哲学の面白さにとりあえず触れることで、法哲学を学ぶことの意义をリアルに感じてもらい、学习意欲を唤起していくのが、このアプローチのねらいである。
本书で読者がいきなり挑む「実戦」は、下记の目次に掲げられたように多种多様である。いずれも论争的で実践的で现代的である。本书は、それぞれの问いに対する自分の考え方を锻えたい人だけではなく、これらの问いに通底する法の哲学を构想したい人に向けて书かれている。
(紹介文執筆者: 法学政治学研究科?法学部 教授 瀧川 裕英 / 2020)
本の目次
瀧川 裕英
第1部 自由
01 ドーピングは禁止すべきか?
米村 幸太郎
02 自分の臓器を売ることは許されるべきか?
鈴木 慎太郎
03 犯罪者を薬物で改善してよいか?
若松 良樹
04 ダフ屋を規制すべきか?
登尾 章
05 チンパンジーは監禁されない権利を持つか?
野崎 亜紀子
第2部 平等
06 女性専用車両は男性差別か?
松尾 陽
07 同性間の婚姻を法的に認めるべきか?
土井 崇弘
08 相続制度は廃止すべきか?
森村 進
09 児童手当は独身者差別か?
瀧川 裕英
10 年金は世代間の助け合いであるべきか?
吉良 貴之
第3部 法と国家
11 裁判員制度は廃止すべきか?
関 良徳
12女性议席を设けるべきか?
石山 文彦
13 悪法に従う義務はあるか?
横濱 竜也
14 国家は廃止すべきか?
住吉 雅美
15 国際社会に法は存在するか?
郭 舜
関连情报
那須耕介「特集?2016年学界回顧 法哲学」 (日本評論社『法律時報』通関1106号 88巻13号 2016年12月号)