讲谈社学術文庫 天皇の歴史 10 天皇と芸能
本書は『天皇の歴史』シリーズ全10巻のうち、第10巻として刊行された。古代から近世までの天皇が、芸能とどう関わったかを主題とした巻である。なお本書は、2011年に刊行されたのち、2018年に讲谈社学術文庫の一冊として、若干の修正を施して再版されている。全体は、「第一部 天皇と和歌――勅撰和歌集の時代 渡部泰明」「第二部 芸能王の系譜 阿部泰郎」「第三部 近世の天皇と和歌 鈴木健一」「第四部 近世の天皇と芸能 松澤克行」の4部から構成されており、4人の執筆者による分担執筆である。天皇とことに関係の深い和歌については、第一部と第三部の都合2部が当てられている。私渡部が担当したのは、このうちの第一部なので、この部分について紹介したい。
第一部は、平安时代から室町时代までの天皇と和歌の関わりを、『古今和歌集』から『新続古今和歌集』までの勅撰和歌集――天皇の命令で编纂されたアンソロジーである――を主とし、时代を追いながら记述している。9世纪から16世纪までの、おおよそ700年ほどの和歌の歴史を、天皇を中心としながら述べていることになる。天皇を中心としながら、という限定が加わっているとはいえ、この时代においては、和歌の歴史自体が天皇中心であるから、和歌史全体を语ることとほぼ等しいことになる。そして和歌は、物语などと违って、和歌作品そのものも、それを集めた歌集も、歌人も膨大に残されており、主要な固有名词を挙げるだけで、大半の纸幅の大半を费やしてしまう。おまけにそれでは読んでいて、ちっとも面白くないものになる危険性大である。
そこで、记述に当たっては、次のような工夫をした。和歌はなぜ続いたのか、という根本的な问いを设け、それを考える媒介として、「表现」と「仪礼的行為」という二つの视点を设定したのである。とくに后者の视点が斩新であったと自负している。従来のように「表现」のみから记述すると、和歌は様式性が强いだけに、変化に乏しい记述になりがちである。とくに鎌仓时代以降は、様式的な表现を最大限に尊重した二条派が覇権を握ったこともあり、个性的?特徴的な表现に注目して歴史を语ろうとしても困难であるという事情があった。また内容的にも、题を与えられて和歌を咏む题咏が主流であることから、虚构的?観念的であり、文学的な感动を求めたりしても、肩透かしを食らう。表现と「仪礼的行為」、すなわち演技的な行為との両面から、立体的に和歌を捉えることで、それぞれの时代の中で和歌が持った意味を考えつつ、和歌史の记述を试みたのである。
和歌における「仪礼的行為」とは、歌会や赠答などでの咏歌のほか、歌集の编纂や书写、歌学の伝受、神仏への法楽など、さまざまな和歌にまつわる様式的な行為を指している。和歌の表现だけ见ているとわからないが、これらの行為の中に、时代的な要请や、作者および作者の所属する集団の意思が浓厚に宿っているのである。それらの行為は神仏などの焦点を必要とするが、その焦点を可视化する役割を负うのが天皇であった、と见通したのであった。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科?文学部 教授 渡部 泰明 / 2019)
本の目次
第二部 芸能王の系譜 阿部泰郎
第三部 近世の天皇と和歌 鈴木健一
第四部 近世の天皇と芸能 松澤克行