戦国史研究会史料集 7 足利义视?足利义稙文书集
本書は、室町幕府第10代将軍で、数ある征夷大将軍の中で唯一二度就任した足利義稙と、その父で、応仁の乱の一方の当事者となった足利義視 (8代義政の弟) の発給した文書を集成した史料集である。室町幕府の研究は、相対的に後半期、特に戦国期にかかる時代が手薄である。なぜかというと、そもそも戦国期の中でも室町幕府について興味が持たれず、1990年代頃まで研究の蓄積がされてこなかったことが一番大きいが、研究するにあたって基礎となる史料集が乏しいことも一因である。こうした背景のもと、研究に資するため、これまで8代足利義政?9代義凞 (義尚) の発給文書を二冊にわたって発刊しており、本書はその続刊に位置付けられる。室町幕府関連の史料集としては、今谷明『室町幕府文書集成』がよく知られているが、これは奉行人が出した連署奉書のみで構成されており、将軍や管領の出した文書を集積したものは無かった。その意味でも本書のシリーズは画期的であり、重要と言えよう。
本书の内容は、义视の発给文书21通、义稙の発给文书341通を収録し、付録として、义稙の后継者である足利义维と、その子で14代将军となった义栄の発给文书それぞれ3通と2通も収録している。ただ、この発给文书数は果たして多いのか、少ないのか、これだけではピンとこないだろう。例えば有名な戦国大名である织田信长が発给した文书は、现在确认されている分で约1400通にのぼり、羽柴秀吉が约7000通、徳川家康が约3800通确认されている。他にも武田信玄などは约1500通出している。室町幕府の将军全体でいえば、最も多いのが初代尊氏で、次に2代义詮となり、共に千通を超える。その次は、3代义満と8代义政で约800通、そして12代义晴と15代义昭が约500通となり、义稙は少ないほうである。しかも义稙文书で现在も出された当时のままで伝来しているのは、叁分一ほどしかない。
とはいえ義稙の活動時期は、明応二年 (1493) の明応の政変や、義稙と義澄 (11代) の二人の将軍への分裂など、室町幕府が大きく衰退する転換期でもあり、室町幕府や各地の大名との関係性を考える上で非常に重要である。義稙が二度目の将軍の座につく後半生の政治状況は、『大日本史料』によりある程度追えるが、同書はその性質上、項目として立てられた案件に関する史料しか載せられていないため、義稙や幕府を考える上では十分ではない。それ故に本書のような発給文書を集積した史料集の刊行は、大きな意義を有すると言えるのである。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科?文学部 助教 木下 聡 / 2019)
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末柄 豊 評 (『古文書研究』88号 2019年12月)