「倭寇図巻」「抗倭図巻」をよむ
史料编纂所が所蔵する「倭寇図巻」は、中学?高校のほとんどの教科書に登場する、よく知られた絵巻である。20世紀初頭、古書店により中国から輸入され、その後購入により史料编纂所の所蔵となった。本書は、この『倭寇図巻』をめぐって6年にわたって続けられた、日中共同研究の研究成果の集大成である。
「倭寇図巻」は著名な絵巻ではあるが、その史料的性格は、従来十分に解明されていたわけではない。そもそも「倭寇図巻」が倭寇図巻と名付けられたのは、史料编纂所に入架されてからであり、絵巻の題簽には「明仇十洲画台湾奏凱図」と記される。絵の内容から、倭寇図巻と名付け直され、16世紀に中国を襲った倭寇を描いたものと解釈されてはきたが、15世紀に朝鮮半島を襲った倭寇を描いた絵とされることもあり、その性格付けは多分に曖昧なものであった。
研究が大きく進展する契機となったのは、「倭寇図巻」の赤外線撮影による文字の発見と、「倭寇図巻」とそっくりな構成をもつ中国国家博物館所蔵「抗倭図巻」の再発見である。赤外線撮影により判読できた文字から、「倭寇図巻」は16世紀の明軍と倭寇との合戦を描いたものであることが確定された。この新たな発見を契機に、中国国家博物館と史料编纂所は共同研究を開始し、日本史?中国史?美術史?中国文学など多様な専門の研究者によって研究が進められた。これにより倭寇図巻研究は一新され、当該絵巻には新たな歴史的および美術史的意義が付与されることになったのである。
本书第一部の冒头には、2010年に最初に行なった研究集会の内容をまとめた3本の论文を配した。研究の进展に伴い涂り替えられた部分ももちろんあるが、出発点として重要なものである。さらに赤外线撮影の详细、また中国で2010年以前になされていた「抗倭図巻」研究をまとめた论文を配した。
続く第二部には、「倭寇図巻」「抗倭図巻」を美术史的にはどのように位置づけうるか、第叁部には、文献史学の手法からこれらの絵巻をどのように解読するかを検讨した论文を収めた。第四部には、「倭寇図巻」「抗倭図巻」から离れ、明代中国で描かれた他の倭寇図像に関わる论文、さらには倭寇図像制作の流行を支えた土壌への切り込みの一环として、倭寇を主人公とする小説について考察した论文を収めた。総论で研究史、および本书で展开される研究成果の整理を试み、结论で本书の研究成果を踏まえた今后の展开を见通す构成とし、冒头には64页にわたってカラーで図版を挿入し、図像を扱う研究である本书の理解の助けとなるよう配虑した。今后の倭寇図像研究に本书が役立てられることを心から愿うものである。
なお本书の姉妹编として、も刊行している。研究书であり、研究者同士の意见の齟齬もそのまま反映している本书に対し、図録として図版を多く掲载し、研究の最大公约数的な解釈に基づき平易な叙述を心がけた。併せてご参照いただければ幸いである。
(紹介文執筆者: 史料编纂所 助教 須田 牧子 / 2017)
本の目次
第一部 「抗倭図巻」の発見、「倭寇図巻」の再考
「倭寇図巻」再考 須田牧子
「明人抗倭図巻」を解読する―「倭寇図巻」との関連をかねて 朱 敏
功績の記録と事実の記録―明人「抗倭図巻」研究 陳 履生
デジタルカメラによる近赤外線撮影の概要―「倭寇図巻」調査の成果から 谷 昭佳?高山さやか
●特別収録●明代倭患と「抗倭図巻」 孫 鍵
第二部 「倭寇図巻」「抗倭図巻」の成立と受容
戦勲と宦蹟―明代の戦争図像と官員の視覚文化 馬 雅貞
蘇州片と「倭寇図巻」「抗倭図巻」 板倉聖哲
標題から「平番得勝図巻」を読む 陳 履生
第三部 「倭寇図巻」「抗倭図巻」の描くもの
「弘治」年旗倭寇船と戦国大名水軍 鹿毛敏夫
●史料紹介●「蒋洲咨文」―倭寇禁圧要請の手紙 須田牧子
乍浦?沈荘の役再考―中国国家博物館所蔵「抗倭図巻」を歩く 山﨑 岳
●史料紹介●清?張鑑「文徴明画平倭図記」―中国国家博物館所蔵「抗倭図巻」を読む 山﨑 岳
第四部 倭寇の記憶
「太平抗倭図」の芸术的特徴 陳 履生
●特別収録●明代の民間における傑出した歴史絵「太平抗倭図」 王 伯敏
小説に描かれた倭寇―明清「倭寇小説」概論 遊佐 徹
結 語―「倭寇図巻」研究をめぐって 村井章介
関连情报
「毎日新闻」(2016年5月29日)