メガシティ 3 歴史に刻印されたメガシティ
歴史家はつねに后ろ向きで、过去ばかりを调べている。都市を再生するためには歴史学などは役に立たないのだろうか。そもそも歴史学とはいったい何のためにあるのだろうか。
本書は京都にある総合地球環境学研究所のプロジェクト「メガシティが地球環境に及ぼすインパクト: そのメカニズム解明と未来可能性に向けた都市圏モデルの提案」の研究成果である。全6巻のうちの第3巻目にあたり、ジャカルタの都市開発の歴史を特に自然環境面などから分析する。
熱帯のメガシティであるジャカルタを題材に、都市を住みよいものとするため、そして地球環境にも優しい都市とするために、2010年、このプロジェクトは本格始動した。プロジェクトリーダーは東京大学生産技术研究所の村松伸教授。私はこのプロジェクトで歴史分析を担当した。
ジャカルタはかつてバタヴィアと呼ばれ、17世纪から20世纪半ばにかけてオランダが支配者として创出した近世植民都市である。现在はインドネシアの首都として膨大な人口を抱える。17世纪、オランダ东インド会社がこの地を手に入れたのは、强力な军队を持っていたからだけではない。当时、现地の人々があまり顾みることもない、自然环境上あまりよろしくない土地だったのだ。水はけが悪く、洪水は毎年起こる。ジャカルタを访れたことがある人は知っているだろう。どこまでも続く渋滞、雨期の洪水、あちらこちらのゴミの山。もちろん河川は悪臭が漂う。ジャカルタに住む人に闻いてみればいい。たいてい、ジャカルタは好きではないという。好きではないのに住まなければならないジャカルタって?
この嫌われ者の都市を再生する手掛かりはあるのだろうか。そして歴史学はいかなる贡献が可能なのだろうか。歴史を纽解くと、この都市は、多民族共生の场であり、平和共存につとめた都市であったことが分かる。热帯都市特有の环境问题にも、様々な知恵が活かされ、その知恵自体も発展してきた。プロジェクト研究に従事して、ある时、私は気づいた。ジャカルタが歴史的に体得してきた様々な知恵を明确にすれば、オリジナリティあふれる都市に改良する手がかりとなるのではないかと。その知恵の集合体としての歴史书が本书の目指すところである。
もし本书を手にする机会があれば、なにより一読愿いたいのは巻末の座谈会记録である。文理融合とは闻こえがいいが、実际には、プロジェクト开始直后から苦痛の连続であった。それぞれの分野で抱える问题意识や研究手法は异なっており、しかも挨拶の仕方や电子メールの书き方まで违うのである。それがまた国际共同研究となるので、ジレンマは数倍にまで膨れ上がる。プロジェクト内部で班别の研究グループをつくったが、各グループの连携を取るべく、毎月、コアメンバー会议を开いていた。殴り合い寸前にまで议论は白热し、ときに日本人の文系メンバーだけで会议后、近くの蕎麦屋で愚痴を言い合っていた。プロジェクトが终了し、本书を刊行してしばらくたち、座谈会记録を読み返すと、今ようやく、あの热気が懐かしく思い出される。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科?文学部 准教授 島田 竜登 / 2018)
本の目次
第2章 ジャカルタの国際的契機:マニラ,マカオ,マラッカ,そして日本
第3章 歴史からみたジャカルタの自然と都市空間
第4章 会社のつくった都市バタヴィア:オランダ東インド会社時代,1619-1799年
第5章 オランダ領東インドの中心都市としてのバタヴィア,1800-1949年
第6章 メガシティ化するジャカルタ――独立後の変容
第7章 計画されたジャカルタ――空間計画の枠組みとその実現を支える技术をめぐって
<座談会> ジャカルタはなぜメガシティになったのか