ロシア?シオニズムの想像力 ユダヤ人?帝国?パレスチナ
イスラエルとパレスチナをめぐって繰り広げられてきた紛争は、不幸にもいまや中東紛争の古典ともいえるほど、1世紀前後の歴史を持つにいたっている。その発端となったのは、ユダヤ人のナショナリズムの一種であるシオニズムである。ホロコースト前の段階で、世界最大のユダヤ人口を抱えていたのはロシア帝国とその継承地域 (主にソ連とポーランド) である。その背景には、ホロコーストに至る反ユダヤ主義の激化があったことは間違いないが、その後のパレスチナでの展開を精査するためには、シオニズムが生まれた現場に立ち返って、さらに丁寧に検証する必要がある。それによって、反ユダヤ主義が具体的にどのように作用し、シオニズムを選択したユダヤ人がいかなる思いを抱えていたのかが見えてくるのである。本紛争を今から解決に導くことはかなりの困難が伴うことが予想されるが、少なくともそこから多くの教訓を得ることは人類にとって大きな課題である。
本书は、こうした问题に、膨大な一次史料、とりわけシオニストのロシア语定期刊行物や小册子类から接近した。帝政期の非社会主义系のシオニズムに光を当てることで、パレスチナへの移住运动が1881年ポグロムなどへの初期段阶での反発から発し広まったという従来の定説とは异なり、当时のロシア?シオニストは「ネーション」を主张したものの、それはパレスチナ「帰还」を直接に意図したものではなく、むしろロシアでの定住?地位向上を目指したものであったこと明らかにした。
第1章では、19世纪后半のロシア帝国史及びロシア?ユダヤ史と初期のシオニズム史を歴史的?社会学的に分析していった。后半では、そうした歴史的?社会的な连関のなかで、帝国のなかで、ユダヤ人が「贱民」としてではなく、「ネーション」として尊厳ある地位を得るための运动としてシオニズムが位置づけられている侧面があったことなどを明らかにした。
第2章では、帝国という场でのいわば処世术として、「ネーション」として自らを呈示していく道が有効であるとシオニストが考えていたことを明らかにした。ユダヤ人が独立した「ネーション」であると认知されることで、ユダヤ人の帝国内での地位が向上し、政治的アクターとして认められ、また、ユダヤ人が他民族の傀儡であるという多民族国家ゆえに着せられる疑惑からも解放されると考えたのである。この検証で明らかとなったもう1つの点は、シオニストが他方で、ユダヤ的なものの内容をあえて不问に付していたということである。
第3章では、ユダヤ的なものが语られなかった要因を探ることで、第2章で示した侧面の里侧を探った。本质主义的な言明が発生しやすい条件があったにもかかわらず、それが忌避されたことを确认したのち、シオニストのロシア语週刊纸において、「文化」の固定化、あるいは本质主义的なユダヤ人定义が忌避されていた原因を探っていった。
第4章では、以上の结果、シオニストがどのような「国际规范」を创り出していったのかを探究した。ポイントは「社会」という観点である。そこから、シオニストがパレスチナにどのような视角で切り込んでいったのか、あるいは切り込みえたのかを论じた。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 准教授 鶴見 太郎 / 2017)
本の目次
第1章 ロシア帝国におけるシオニズムの生成
第1节 ロシア帝国という场
第2节 ロシア帝国とユダヤ人
第3节 初期のシオニズム
小 括 目標としての「ネーション」
第2章 「ネーション」概念にはいかなる利点があったのか
第1节 帝政末期のロシア?シオニズムと『ラスヴェト』
第2节 ナショナリズムを分析する理论的视角
第3节 ドゥブノフとユダヤ?ナショナリズム
第4节 集団间アイデンティティとしての「ネーション」
第5节 『ラスヴェト』における本质规定の忌避
小 括 集団内 / 集団間アイデンティティの相互自律性
第3章 本质规定を忌避するナショナリズム
第1节 ナショナリズムと本质主义
第2节 シオニズムにおける「东」と「西」
第3节 「一人のユダヤ知识人の歴史」
第4节 民族の社会経済的基盘への注目
第5节 非ユダヤ人の影への反発
第6节 「ユダヤ社会」の「ルネサンス」
小 括 社会という位相
第4章 シオニズムの「想像の文脉」
第1节 ネーションの想像と文脉の想像
第2节 二〇世纪初头のロシア?东欧における民族理论
第3节 ロシア?シオニズムにおける国家、民族、公共圏
第4节 シオニズムとパレスチナ?アラブ
小 括 シオニズムの「国際規範」の光と影
終 章 一九一七年 -- 消えた帝国、散っていった夢
第1节 一九一七年革命とシオニズム
第2节 结论
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