6次元の揺らぎがもたらす準结晶の奇妙な物性 机械学习分子运动力学シミュレーションで解明 研究成果
东京大学
日本原子力研究开発机构
発表のポイント
- 6次元结晶の3次元空间の断面とみなせる「準结晶」の比热が异常に大きくなる现象を、実験と机械学习シミュレーションで追求し、高次元での原子のゆらぎが原因であると突き止めた。
- 準结晶のシミュレーションには膨大な计算が必要で、これまでは简単なモデルでしか行われてこなかったが、今回、高精度かつ长时间の机械学习シミュレーションを行い、実験と比较することが可能になった。
- この结果は、复雑な物质において実験と比较可能な机械学习シミュレーション手法を确立できた事を意味しており、準结晶を用いた新たな热电材料など様々な材料にこの手法を适用することで、材料开発が加速すると期待される。
Credit: 春雨直播app ITC/Shinichiro Kinoshita
概要
东京大学情报基盘センターの永井佑紀准教授、物質材料研究機構の岩﨑祐昂研究員らの研究グループは、「準结晶」であるAl-Pd-Ru(アルミニウム-パラジウム-ルテニウム)系物質群において、高温域で通常の結晶ではあり得ないほど比熱(注1)が大きくなることを発见し、同时に机械学习分子动力学シミュレーションから、その高温比热の起源が、高次元の构造体とみなせる準结晶の6次元空间での揺らぎに起因するアルミニウム原子の拡散にあることを突き止めました。
本研究では、机械学习モデル自动构筑法(注2)を利用して作成した高精度なモデルを用い、大规模で长时间安定な分子动力学シミュレーションを行うことで、世界で初めて、準结晶の高次元性に由来する原子の拡散现象が生じること、また、その原子拡散が実験で测定される比热に现れることを明らかにしました。
本研究によって、复雑な物质において実験と比较可能な机械学习シミュレーション手法を确立することができました。今后この手法を用いることで、準结晶を热と电気を相互変换する材料(热电材料)として用いたり、电池材料におけるイオン伝导の特性を解明したりするなど、準结晶に限らず様々な材料の开発が加速すると期待されます。
発表内容
「準结晶」は、原子構造が通常の金属や氷などの「結晶」のような周期性を持たず、一方でガラスなどの「アモルファス」のような乱れた構造ではない高い秩序構造を持つ、第3の固体と言われます。1984年にイスラエル工科大学のダン?シェヒトマン博士(Dan Shechtman、 2011年ノーベル化学賞受賞)らが最初の準结晶の発見報告をして以来、その興味深い構造から盛んに研究が行われてきました。また、準结晶の原子構造は、6次元空間に周期的に並んでいる高次元結晶の3次元空間への断面として記述されることが知られています。これは、3次元の物体に光を当てて壁に映る影が2次元になるように、物体が6次元の世界に存在し、私たちの世界では3次元に投影された影を見ている、と例えることができます。
しかしながら、実际の私たちの3次元世界でその高次元性がどのように物理现象に现れるのかはこれまで解明されていませんでした。さらに、準结晶のシミュレーションには膨大な计算量が必要で、たとえ実験で测定された物理现象が通常の固体のふるまいと大きく异なっていたとしても、その起源が高次元性に由来するものなのかを调べるのは非常に困难でした。
本研究では、础濒-笔诲-搁耻準结晶における量子力学的効果も取り入れた原子间の相互作用を再现する机械学习モデルを构筑し、実験とシミュレーションの両方を行って直接比较することで、6次元空间の性质を捉えることを试みました。その结果、温度の上昇に伴い、準结晶内のアルミニウム原子の一部が原子构造の内部を急激に拡散的に移动を开始し、それが実験での比热の异常上昇として観测されていることがわかりました。そして、この拡散的移动の経路が6次元空间の原子が揺らぐことで得られる経路と完全に一致していました(図1)。つまり、6次元空间の原子の揺らぎが実际の3次元の世界で観测されたのです。
実験とシミュレーションを比较するためには、长时间にわたって安定な大规模分子动力学シミュレーションが可能な机械学习モデルが必要でした。そこで、本研究では永井らが开発した机械学习モデル自动构筑法を用い、世界で初めて準结晶のシミュレーションに适した机械学习モデルを构筑することに成功しました。
今后、この手法を用いることで、様々な物质の量子力学的な効果を考虑した机械学习モデルを作ることができるようになります。そして、热エネルギーと电気エネルギーを相互変换する热电材料、イオン伝导を利用する电池材料など、固体の様々な特性を利用した材料の开発が加速し、エネルギーの有効活用などにつながることが期待されます。
発表者?研究者等情报
研究当时:理化学研究所革新知能统合研究センター(础滨笔)客员研究员
(研究计画の立案、シミュレーションの遂行と理论解析を担当)
(础濒-笔诲-搁耻準结晶の比热测定结果の议论を担当)
研究助成
本研究は、科研費基盤研究(C)「エクサスケール計算機を想定した量子モデルシミュレーションに対する並列化?高速化(課題番号:18K11345)」、科研費基盤研究(C)「対称性を考慮したニューラルネットワークによる有効模型構築(課題番号:22K03539)」、新学術領域研究:ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学公募研究「準结晶における机械学习分子シミュレーション手法の確立とその有限温度物性の解明(課題番号:20H05278)」、「机械学习分子シミュレーションによる準结晶の高次元性の解析:異常高温比熱の解明(課題番号:22H04602)」、新学術領域:ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学「ハイパーマテリアルの合成(課題番号:19H05818)」、「ハイパーマテリアルの物性とhidden orderの探索(課題番号:19H05821)」、特別研究員奨励費「バンドエンジニアリングによる準结晶半導体の探索とその热电材料への応用(課題番号:19J21779)」、新学術領域研究:ハイドロジェノミクス:高次水素機能による革新的材料?デバイス?反応プロセスの創成「水素の先端計算による水素機能の高精度予測(課題番号:18H05519)」、基盤研究(B)「電子と原子核の量子論に基づく水素エネルギー材料の第一原理設計(課題番号:21H01603)」、?富岳?成果創出加速プログラム「次世代二次電池?燃料電池開発によるET革命に向けた計算?データ材料科学研究」の支援により実施されました。
用语解説
(注1) 比熱
(注2) 机械学习モデル自動構築法
论文情报
Yuki Nagai*, Yutaka Iwasaki, Koichi Kitahara, Yoshiki Takagiwa, Kaoru Kimura, and Motoyuki Shiga, "High-temperature atomic diffusion and specific heat in quasicrystals," Physical Review Letters 132, 196301: 2024年5月10日, doi:10.1103/PhysRevLett.132.196301.