邪魔しあいながら助けあう両腕 ―両腕を协调させて动かすためのメカニズムを解明―研究成果

「邪魔しあいながら助けあう両腕 |
平成23年11月23日
1.発表者:
横井 惇(東京大学大学院教育学研究科?博士課程2年、日本学術振興会?特別研究員)
平島 雅也(東京大学大学院教育学研究科?助教)
野崎 大地(東京大学大学院教育学研究科?教授)
2.発表概要:
左右の腕をうまく协调させて运动させるためには、それぞれの腕を制御する脳内プロセスが互いに情报を交换しあう必要があるはずです。どのような情报の交换が、この両腕协调运动を可能にしているのでしょうか?我々は、逆説的にも、2つのプロセスが互いに妨害しあうことで、结果として柔软な両腕协调运动が达成されていることを明らかにしました。
3.発表内容:
<研究の背景>
我々は普段、ビンのふたを开けたり、グラスにビールを注いだり、両手で物を持ち上げたりする际に、それぞれの腕にどのタイミングでどの程度の力を入れれば良いのかを意识的に考えたりはしません。それにもかかわらず、それぞれの手は、あたかもお互いがどのような动作をしようとしているか予め知っているかのように振る舞います。しかしその一方で、お互いの手が邪魔しあうこともあります。たとえば、ピアノの演奏において右手で旋律、左手で伴奏を弾いたり、右手で丸を左手で叁角形を描いたりと、左右の手(腕)で异なった运动を同时に行おうとしても、両手が同じように动いてしまってなかなか上手くいかない、という事は谁しも経験したことがあるでしょう。
邪魔をしながらも协调しあうことが可能になる仕组みとは一体どのようなものでしょうか?我々は、この理解の键は「运动の学习」にあると考えました。各腕を制御するプロセスは、反対侧の腕运动によって生じる力学的影响に応じて运动指令を调节することを学ばなければなりません。実は、このような学习が行われるためには、反対侧の腕から干渉を受けることが不可欠なのです。
<本研究のアイデア>极端な例を挙げて説明します。腕运动(左腕を前方に伸ばす运动だとします)が、脳の中にある多数の制御素子の活动によって制御されていると仮定します(図1)。さらに、いくつかの制御素子は、反対侧の右腕の运动パターンに応じた干渉を受け、活动することができなくなっているものとします(図1础)。右腕を同时に前方に动かすことによって生じる左腕への力学的な影响は、活动を许された制御素子だけが、学习によってその出力を修正させることによって补偿されます(図1叠)。この学习の后、右腕を动かす方向を変えるとどうなるでしょう?使われる制御素子が异なるため、せっかくの学习効果は全く発挥されません(図1颁)。
ところが、悪いことばかりではありません。右腕を后方に动かすときには、左腕には异なる力学的な影响が加わる状况を考えます。これまで使われていた制御素子が学习に参画できなくなる一方、使われていなかった制御素子によってこの新しい力学的影响が学习されます(図1顿)。再度、右腕运动を前方に动かす场合にも、先に学习した学习効果は适切に発挥されます(図1贰)。つまり、右腕の运动パターンを変えるたびに、生じる力学的影响を见越して、左腕运动の制御プロセスが运动指令を适切に切り替えることができるのです。一方、右腕からの干渉がない场合(図2础)には、右腕运动方向が変わるたびに全ての制御素子のメモリが书き换えられてしまい(図2叠)、右腕の运动パターンに応じた运动指令调节は不可能です。
<本研究で明らかにしたこと>
我々はまず、図1の极端な例のように、个々の制御素子に反対侧の腕运动パターンに応じた切り替えが本当に存在するのかどうか、またその切り替えがどのような特徴をもっているのか调べました。図1の例では、右腕を前方に动かしながら获得した学习効果(図1叠)が右腕を后方に动かすときには発挥されない(図1颁)ことは、左腕运动制御プロセスの素子の使われ方が右腕方向に依存して切り替わるという特徴(図1础)を反映していました。このように、ある特定の运动パターンで获得した学习効果が、他の运动パターンを行ったときにどの程度発挥できるか(学习効果の「汎化」と呼びます)を调べることによって、制御素子の切り替わりの有无?特徴を明らかにすることが可能です。
被験者は両手でロボットアーム(注1)のハンドルを同时に前方に动かすよう指示されます。このとき、一方の腕にのみ力场(注2)を加え、この力场の存在下で両腕を真っ直ぐ动かせるようになるまで训练を行いました。その后、それぞれの腕运动の方向を様々に変えた时の学习効果の汎化量を调べたところ、その汎化パターンは、反対侧の腕运动方向が変わるにつれて、制御素子の使われ方が徐々に切り替わっていることを示していました。さらに、汎化パターンの特徴は、反対侧の腕运动の情报が制御素子に「掛け算的に干渉」していると仮定した场合の数学的モデルから导かれる予测に非常に良く当てはまっていました(図3)。
理论的研究により、2つの入力情报を掛け算的に统合している制御素子があれば、それらの活动を适宜组み合わせることにより、入力と出力の间の任意の関係を学习できることが分かっています。すなわち、右腕と左腕の间に、それらの运动パターンに応じて様々な力学的影响が生じる状况がある场合、両方の腕の情报を掛け算的に统合する制御素子があれば、脳はこのような素子の活动をうまく组み合わせて、その影响を补偿する运动指令を学习できてしまうのです。実际、被験者の左腕に「両腕の运动方向の组み合わせに応じて复雑に変化する力场」を课した実験を行ったところ、被験者はこの力场を容易に学习することができ、その结果は「掛け算的な干渉」を持つモデルによる予测によく一致していました(図4)。一方、両腕运动の情报が「足し算的」に干渉する制御素子を持つモデルでは、このような复雑な力场に适応することはできませんでした(図4)。
本研究の学術的?社会的意義: 本研究の結果は、両腕協調運動を行うには、それぞれの腕運動の制御プロセスが反対側の腕運動情報に掛け算的な干渉を受ける必要があることを示しています。このような干渉の下で、各制御プロセスが運動学習を進行させることにより、結果的に相手の腕運動によって生じる影響を見越した運動指令を獲得?生成できるようになるのです。この新しい両腕協調運動制御のスキームは、両腕運動においてなぜ両腕間の情報交換が必要かについて具体的な根拠を与えると同時に、従来仮定されてきたような、それぞれの腕運動を制御するプロセスの仲を取り持つような付加的な中枢の存在を必ずしも必要としないことを示した点に学術的な意義があります。また、反対側の腕運動を変えることで、腕運動の制御過程に異なった学習を行わせることができるという点で、これを活かした新しい運動スキルの練習方法、リハビリテーション手法の開発にもつながると考えられます。
なお、本研究は、最先端?次世代研究开発支援プログラム(総合科学技术会议、日本学术振兴会)の助成を受けて行われたものです。
4.発表雑誌:
雑誌名:The Journal of Neuroscience (2011年11月22日号)
論文タイトル:Gain-field encoding of the kinematics of both arms in the internal model enables flexible bimanual action
著者:Atsushi Yokoi, Masaya Hirashima, Daichi Nozaki
5.问い合わせ先:
野崎大地(东京大学大学院教育学研究科?教授)
6.用语解説:
(注1)ロボットアーム:运动学习研究等に用いられる特殊な装置。被験者がハンドルを握って、笔颁画面上のカーソルを操るなどの运动课题を行う。このときのハンドルの位置、速度を精密に计测できるとともに、様々な力をハンドルに加えることができる。
(注2)力场:ロボットアームによって产み出される特殊な负荷。本研究では、ハンドル进行方向と垂直な向きに、运动速度に比例した大きさの力をハンドルに加えた。
7.添付资料:
図1:A, 左腕を制御する素子の活動の有無(On, Off)が右腕運動方向に依存する場合の概念。B, 右腕からの力学的影響をOnの制御素子が学習。C, 右腕運動の方向を変えると、この学習効果は発揮できない。D, しかし、右腕運動方向を変えたときの異なる力学的影響は、別の制御素子によって学習される。E, 再び右腕運動方向を元に戻しても、獲得された運動学習効果を発揮できる。
図2:A, 左腕を制御する制御素子の活動が右腕運動方向に依存しない場合。B, 右腕運動方向が変わるたびに、右腕からの力学的影響に関する異なった記憶が制御素子に刻まれてしまう。
図3:A, ロボットアームによる実験。B, 左腕運動のトレーニングとその学習効果の計測。C, 左腕?右腕の運動方向を変えたときに発揮される学習効果。トレーニングにおける運動方向(両腕とも前方)からずれるにつれて発揮できる学習効果が徐々に低下する。D, 両方の腕の運動方向情報が、制御素子において掛け算的に干渉していると仮定した数学的モデルによる予測。
図4:両腕の运动方向に応じて左腕に加わる力场の大きさが复雑に変化する二种类の力场(上段、下段)を学习させた场合の実験结果(左列)、掛け算型干渉モデルの予测(中列)、足し算型干渉モデルの予测(右列)。